「足跡…察し…」

低迷アクション

第1話



今年も多く雪が積もった…仕事が終わり、同僚と帰路を急ぐ中、彼が“近道”の提案をしてきた。頷き、向かった先は山に続く県道…降り積もった雪の量で、車も人も通った跡はなく、正に新雪と言った風景が広がっている。


「おいっ…」


雪に向かって第一歩を踏み出さんとするこちらに対し、同僚が指さす先には、複数の足跡…

前言を撤回…どうやら、先客がいたようだ。降雪のせいで、消えかかっているものの、

足跡の数は二つ…自分達と同じ近道を考えた者か?


そう思い、同僚の方を見ると、目を見開き、固まっている。寒さに驚いているという感じではない。


彼の視線を辿り、その意味に気づく。2つの足跡の内、先を行く足跡は大人用の靴のモノ…

その後ろにピッタリと続く裸足の足跡…率直に言って異様…いや、これは、もしかして…


(追いかけられている?)


靴の方の足跡は深くなっていたり、浅くなったりと安定していない。余程、慌てたのだろう。

加えて言えば、途中、途中で、跡幅の間隔がまばらなのは、移動中に立ち止まり、後ろを

確認している様子が推測できる。


酔っぱらい、もしくは何等かの事情で、靴を無くした者が、靴を履いている者を追いかけた?あり得ない。これだけの気温と雪の中で裸足?歩く事なんて普通の人間には無理だ。


それを裏付けるのは、目の前の裸足の跡からもわかる。本来ならば、慌て、乱れるべき足跡は規則正しく、一定の間隔で靴の方を追っていた。靴と比較すれば、どちらが焦り、

逼迫していたかは一目瞭然…


(一体、どんな状況だ?)


好奇心が結末を催促する。足跡を崩さないように歩を進める肩に同僚の手が強く載せられる。


“何だ…”


“よ”と抗議する視線は彼の指先に遮られた。同僚が指差す方向を再び見た時、初めて、

背筋が寒くなった。


初めは黒い石や、落ち葉だと思った。全く、違う。靴の足跡が途中で完全に停止している。

その足先に広がるのは…彼(もしくは彼女)を追いかける裸足の足跡とは反対の方向…


つまり、山の方から、無数の…それこそ、石や落ち葉に間違えるくらい、数えきれない程、無数の“裸・足・の・足・跡”が、靴の履き主に向かって下りてきている跡が

つけられていた。


「挟み撃ちだ…」


同僚が呟くと同時に踵を返す。こちらもそれに習い、元来た道を戻り始める。靴の足跡の主がどうなったかは否が応でも察せられた…(終)

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