必ず
「出来ないのか?」
「出来てない。もしかして、生物じゃないと駄目とかじゃないよね?」
「言い方に引っかかりはあるが、可能性としては考えられるな」
嘘だろ、試したくても試せないじゃん。失敗してしまったら、時空の歪みに対象を取り残してしまう可能性がある。
「はぁ、これはひとまず保留にしようか。他の技で何とか気に抜けられるようにしよう」
「それもそうだな」
使えると思ったのに、残念だなぁ。仕方がないけど……。
「それじゃ、模擬線しようか」
「あぁ」
☆
星空が広がる森の中、横になりながら夜空を見上げる。うぅ、体中が痛い。
「さすがに、五時間以上はやり過ぎたな」
「体力が、体力が、死ぬ……」
「頭から水をぶっかけるか?」
「お願いしたい気持ちだ」
「ほれ」
あぁぁぁぁあああ、気持ちがいいいぃぃぃいいいいい。
『馬鹿晒さないでほいんだけど』
「声に覇気がないほどに疲れているみたいだね、お疲れ様闇命君」
『お互い様』
闇命君が地面に転がっている俺の隣に鼠姿で来た。声に覇気がないし、いつものお毒舌がない。疲れているのはすぐに分かった。
休むことなくずっと集中していたもんね、そりゃ疲れるか。しかも、あんな高度な技術が必要な修行。疲れないわけがない。
「俺、自分の事しか気にすることが出来なかったけど、闇命君はどうだった? 出来た?」
『そうだね、まぁ納得は出来ていないけど、及第点くらいにはなったんじゃないかな。納得は出来ていないけど』
わかったわかった、納得出来ていないのはわかった。だから、ふてくされないの。そこは子供だなぁ、珍しくかわいいと思ったよ。俺も、疲れているんだな。
「お疲れさん」
「お疲れ様です」
「あ、お疲れ様です。琴葉さん、弥来さん」
ニヤニヤ顔の琴葉さんと無表情の弥来さん。
「明日から俺はここを空ける、水分と弥来もな。お前らもやる事があるだろ? 修行は続けた方がいいが、時間を意識しないといけないぞ」
「確かに。蘆屋道満が今どこで何をしているかわからない。こちらも色んな所に声をかけ始めないとまずいか」
安倍家には手紙を出したし、他に手紙を出せるのは今のところ煌家かな。少しでも多くの陰陽寮に声をかけたいけど、一つ一つで問題が発生しているから数多くの陰陽寮に出向くことが出来ていないし、不可能か。
『今はそこまで多くの陰陽寮に声をかける必要はないよ、どうせ信じてもらえないだろうし時間と労働の無駄。今は最低限の動きに抑え、体力を温存させておくよ』
「あ、はい」
闇命君が言うのならそれでいいか。出来る事からコツコツと、だな。
☆
夜が更け、辺りは闇に包まれている。
蘆屋藍華の視察をしていた紅音と楓夏は、与えられた部屋で眠りについていた。
寝息が聞こえる部屋で、紅音が眼を擦りながら体を起こし始める。あくびを零し、辺りを見回した。
「…………楓夏、起きろ」
「ん、っ、な、んですか? もう朝ですか?」
隣で眠っていた楓夏を揺さぶり起こした紅音は立ち上がり、廊下に繋がる襖に背中を付け警戒し始めた。
彼女の様子に楓夏はやっと意識が覚醒、音を立てないように膝で歩き、紅音の隣に座る。
「どうしたのですか」
「微かだが、今まで感じた事のない気配を感じる。もしかしたら、蘆屋道満が動き出したのやもしれん」
「っ、なるほど。こちらを先に狙ったという事ですか」
「わからん、気配を感じただけだ」
襖に耳を当て、外の気配を探る。
足音などは聞こえず、静寂。お互い顔を見合せ、襖を音を立てずに開けた。顔を出すと、光がともっていない暗い廊下が広がるのみ。人の気配すら感じない。
「誰もおりませんね」
「…………」
もっと襖を開け廊下に乗り出し確認するが、何も目視が出来ない。気のせいだったのかと、部屋に戻る二人。襖が閉じられようとしたとき、二人が見ていた方向とはまた逆の廊下に、一人の人影。
手には斧が握られており、二人が戻った部屋を見上げている。
「……………………」
襖を見上げた人影は、そのまま何もすることなく、廊下の奥へと姿を消した。
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