区切りを

「…………闇命君」

『なに?』

「俺が書いてとお願いしたのは、あくまで手紙。手を貸してほしいという手紙を書くようにお願いしたはずなんだけど?」

『だから書いたんだけど? 何か文句があるわけ?』

「文句というより……。俺はさぁ、念を押したはずだよ闇命君。手紙を書いてって。これは誰がなんと言おうと、脅迫文だよ!!!!」


 バンッと机に闇命君が書いた手紙を叩きつけた。それを他の人が覗き見ると、みんな苦笑を浮かべた。


 そりゃそうだよ!! だってこれは手を貸してほしいではなく、脅迫文だもん!!



 拝啓 陰陽頭様

 蘆屋道満が大きく動き出しました。情報を受け取っているかこちらではわかりかねますが、わかっている限りの情報を今ここに記します。

 セイヤはこちら側に引き入れる事に成功、今は蘆屋道満一人のはず。ですが、他の陰陽寮を巻き込んでの大きな事態に発展する可能性が浮上。

 つきましては、安部家の皆様にもお力をお借りしたく手紙を出させていただきました。もしお力をお借り出来ないのであれば、蘆屋道満へ安部家の情報が筒抜けとなり、狙われるでしょう。そうなれば、今までの生活は確実に出来なくなります。今の代で安倍家に終わりが訪れ、歴史は経たれてしまいますよ。それも視野に入れご検討いただけますようお願い申し上げます。 敬具 安倍闇命



 まぁ、最初の頃に比べると敬語で書いているし丁寧な気がするけど。脅迫状なのには変わりない。

 これ、簡単にまとめちゃうと”手を貸さないのであれば安倍家は終わり、今の代で終わらせたくなければ手を貸せ”と言っているようなもんだからな。


「これでもいいじゃないか?」

「え? 本気で言ってます?」


 琴葉さんが手紙を見ながらそんなことを言っている。マジでそれ送ってもいいの? 文面的には問題なさそうだし、状況を細かく簡潔に書いているから読む側も危ない状況なんだなという事は理解してくれそう。


 でも、でもね? この手紙を絶縁されたからと言って、上司に送るとなればまた話が変わるのでは?


「今は時間がないし、このくらいわかりやすい方がいいだろう。ほれ、任せたぞぉ」


 あ、琴葉さんが鳥型の式神の足に今の手紙を結んで飛ばしてしまった。仕方がない、状況さえわかってもらえれば良しとしようか。


「これでひとまずはいいだろう。明日で修行の区切りを一度つけたいと考えている」

「区切り?」

「明日で一旦、修行に集中期間は終わらせるということだ。俺達も俺達の寮に一度帰らなければならない。水分は避難させている村に一度行かないとならないだろ? 今は巫女にすべてを任せているみたいだが、現状だけは伝えないといけない」

「それもそうだな」


 それぞれがこれから動き出すという事か。だから修行に集中が出来なくなる。俺達も情報を手に入れないといけないか。他の陰陽寮についてとか、件を使ってこれからの予言もしてもらいたい。


「だから、今行っている修行は、明日完成させてね」


 琴葉さんの笑顔で放たれた言葉で、今この場で一番顔を真っ青にさせたのは俺でも靖弥でもなく、闇命君だった。


 ☆


 竹刀のぶつかり合う音が響く森の中、今は体の動きが鈍くなってきたため太陽の光を浴びながら休憩中。水を飲み、木に寄りかかりながら闇命君を見てみる。


 感覚は掴んだみたいで、今はだいぶ長い間火を灯し続けることが出来ていた、それでも本人は納得いっていないみたいで渋い顔。

 闇命君が言うには、『感覚を掴んだからと言って、それを身に着けたわけではない。瞬時に、無意識の間に使えるになっようになってこそ身に着けたという』らしい。


 闇命君は人に厳しいけど、自分にはもっと厳しいみたい。今まで俺にそんなことを言ってきた事あまりないもんね。


「すごいな、子孫」

「うん、闇命君は本当はすごいんだよ。天才というだけで何でもできると勘違いされているけど、本当は裏で努力をしているんだよ。そうやって琴平や夏楓が言っていた」

「そうみたいだな。今見ていてもわかるよ、あそこまで完璧を目指すなんてすごすぎる」


 闇命君は俺達の会話に気づいているのか気づいていないのか。まったくこちらを見ないで蝋燭に集中している。


「俺達ももうそろそろ開始するか」

「それもそうだね」


 俺は一技之長を使用し、靖弥はただの竹刀。肉弾戦重視の修行。


「前に出した技、そういえば出さないのか?」

「前に出した技?」

「相手を闇に包み込む技だ」


 あぁ、前回視界を覆い隠そうとして、闇を靖弥に纏わせた時の事かな。


「あれ、何が起きたのか理解出来ずじまいだったね、確か」

「それはまた繰り出せないのか?」

「出せるとは思うけど、あれの効果がわからないから、出すの怖いんだけど」

「なら、俺に対してではなく、他の物に繰り出せばいいんじゃないか?」

「それもそうか」


 使える技が増えるのは嬉しいし、戦略の幅が広がる。そうなれば、これからの戦闘も楽にはなるか。

 冷静にあれを考えてみれば、靖弥が包まれた瞬間俺の後ろに移動していたのは、絶対に闇命君の一技之長の、俺が知らない効果だろうし。あれをうまく制御出来れば、絶対に強い。


「やってみてもいい?」

「問題ない」


 よし、近くに壊れてもいい…………あ、ちょうどいい大きさの石が落ちてる。拳より一回り大きな石。これに闇を纏わせればいいのかな。


 闇を纏わせ、竹刀を両手で持ち構える。石の近くに持って行き、頭の中でイメージ。すると、竹刀に纏われていた闇が揺らめき始め、石をゆっくりと包み込んだ。よし、これを例えば俺の後ろに落とすイメージを頭に浮かべればいいのかな。



 ・・・・・・・・・・?



「あれ?」


 闇がその場で揺らめくだけで後ろに石が落ちてこない。他の所に落ちてしまったのかと周りを見てみるも、ない。靖弥を見ても首を横に振られた。

 目の前にある闇の塊を竹刀に戻すと、そこには何も変化していないただの石が置かれているだけ。移動されていないし、時空に亀裂も入っていない。


「……………………なんで?」


 前と何が違うんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る