寝る時間
日が沈み、夜が更けた頃、俺は部屋の中で目を覚ました。いつの間にか眠っていたらしい。
布団の上に横になっていた体を起こし、周りを見回してみる。体が重く、微かに頭痛がする、記憶も曖昧だし。俺、どうやって部屋に戻ってきたんだ?
「あれ」
隣に寝ている靖弥は、頭や首元に包帯が巻かれている。って、すごい怪我じゃないか、何があったんだ?
近付くと起こしてしまうかもしれないから見ているしかしないけど、ものすごく気になる。何をしたら一日でここまで怪我をするんだ?
部屋の中は暗い、まだ深夜なんだろうな。周りには靖弥と鼠姿の闇命君が寝ているだけ。気を付ければ二人を起こすことなく部屋を出る事が出来るか。
俺の記憶の中には、修行が成功したものはない。つまり、法力を使い過ぎて睡魔に負け倒れたのだろう。
二人を起こさないように物音一つさせずに立ち上がり、廊下へと向かう。一瞬、襖が音を鳴らしてしまったが、二人はまだ夢の中から覚める気配なし。良かったぁ。
靖弥はともかく、闇命君が起きてしまった時はまた小言がうるさいだろう。だから、絶対に起こさないようにしないと。
寝ればいい話だけど目が覚めちゃったから、また修行の続きをする予定。早く強くならないといけないし、そのためにはまず法力の制御からだ。
廊下を歩き外に出ると、月が俺を照らしてくれていた。まだまだ日は昇らないみたい。つまり、今は深夜。いつもならまだまだ寝ている時間だな。
えっと、記憶を頼りに水分さんは案内してくれた湖にっと……。
「この時間に何をしているんだ?」
「子供がこんな時間に外で一人はだめだと思うよぉ~」
っ、二人の男性声。この声、もしかして。
「水分さんに、琴葉さん!?」
森の中を歩いていると、二人がカサカサと音を鳴らしながら姿を現した。
さすがにビビったよ、気配も声を掛けられるまで感じなかったし。ナチュラルに気配を消しているんだよな、この二人。マジで勘弁して。
「ただの子供ではないから大丈夫かと」
「でも、今は一人なんだよねぇ? なら、結局のところ、力が使えないからただの子供じゃない?」
「ぐっ」
くそ、確かに、そこまで考えていなかった。痛い所を付いて来るなぁ、琴葉さん。
今はただの子供かぁ、否定が出来ないから本当に辛いな。
「法力は回復したのか?」
「それをどうやって確認すればいいかわからないから、ひとまずやってみようかなと」
「そんな行動力はあるのに、なぜ自信なさげな顔を浮かべているんだ?」
「え、それとこれとじゃ話が違いますよね?? 行動しないと何も解決できないけど、今の行動をしても俺が強くなれるか分からない。だから、行動はするけど、不安なんです」
「俺にはよくわからんなぁ~。元々なんでも出来たからぁ~」
ちっ、琴葉さんも天才というやつでしたか。何でこう天才という奴は、人をイラつかせるのがとてもお上手なのでしょうか。
「…………ひとまず、琴葉はもう寝ろ。ここからは俺が面倒を見る」
「こいつの担当はお前だもんな。なら、任せるわぁ。俺は好きに行動させてもらっ――……」
「寝ろ」
「え?」
「寝ろ」
「いや、俺はまだ眠くなっ――……」
「寝ないのなら無理やりにでも寝かせるぞ」
「寝ます寝ます寝ます!!!!」
拳を握った水分さんを見た瞬間、琴葉さんが顔を青くして、苦笑を浮かべながら頷いている。相当怖いのか、体をカタカタと震えてる。何か嫌な思い出があるのだろうか。
そういえば、この二人って俺達から離れている時、どこで何をしているのだろうか。というか、今の俺が言える立場では無いけど、こんな時間になんで森の中に?
「あの、お二人はいつ寝ていらっしゃるんですか? なんか、寝ている姿を見た事がないような気がするんですが」
ふと思った質問をぶつけてみると、何故か二人は急に俺から顔を逸らした。琴葉さんの方は、今の流れ的に想像ついていたけど、まさか水分さんまで顔を逸らすなんて思わなかった。もしかしてこの二人…………。
「いつ、寝ているんですか? まさか、全く寝ていないわけじゃないですよね? そんなことないですよね?」
「さすがにずっとはねぇよ、体が限界を迎えて気絶するように寝るから」
「なんでその情報を知っているんですか、水分さん。調べるなんてことしないですよね? 経験者ですか?」
「そんなことはない、経験したのは俺じゃねぇからな」
「琴葉さん?」
にっこりと笑いながら、琴葉さんの方を振り向くと、首だけではなく体ごと俺から背けそのまま歩き去ろうとした。そんな分かりやすく逃げようとするなんて、俺を舐め腐ってますね。
「逃すと思っているのですか? 待ってください琴葉さん?」
「……………………それじゃ、水分。あとは任せたぞ」
「あ、ちょっと!!!!」
クッソ、逃げられた!!!!! 一瞬で姿をくらませるって……ここでそんな凄技披露しなくていいってば!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます