心配

 湖まで水分さんの案内の元、無事に辿り着くことが出来た。


「今の時間、水神様は寝ているの?」

「さぁな、そこまで考えたことないわ。今の時間に来たことはあるが、特に止めろとも言われていないし、寝ているんじゃないか?」

「そんな適当な…………。もしかしたら逆鱗に触れてしまう可能性があるのに、何でそんな自由に行動できるの」


 マイペースなんだよなぁ、水分さん。聞かれたことにしか答えないし、自分に関係ない事なら特に何しても気にしないし。

 本当に、この人何を考えているのかわからない。


「やらねぇの?」

「…………やります」


 今は考えなくてもいいか。考えても意味ないし。

 湖の淵に立ち、昼間の時と同じく両手を伸ばし法力を集中する。でも、バチバチという音が聞こえた、これじゃだめだ。


「…………はぁ」

「ん? なんだ、体が吹っ飛ぶまでやらないのか?」

「いや、さすがにそれを繰り返すわけにはいかないでしょ。それのせいで法力を無駄に使って倒れているんだから。学習しないと」

「さすがだな、なら次はどうするんだ?」

「そこなんだよなぁ」


 どうすれば火花が弾けなくなるのかわからないし、法力が四方に散乱する。どうすれば一点に集中出来るんだ? 

 一点集中するような何かをイメージすればいいのかな。一点集中する何かって、なんだろう。あ、ホースとか? あれは一点に集中するものだし、勢いが凄い。四方に飛び散る事もあまりないだろう。


 ちょっと、ホースをイメージしてみようかな。


「すぅ、はぁ~」


 もし、一点に集中するのなら、手の形も変えた方がいいな。まずが形から入るのは大事だろうし、やろう。


 式神を出す時みたいな感じで、胸元に右手を添え、人差し指と中指を立てる。

 目の前に広がっている湖が大きいからと言って、俺まで手を広げる必要はないだろうし。これで、少しは一点集中出来る事を祈るよ。


 目を閉じ、息を整え。法力を指先に集中。



 ――――――――――パチッ



 火花の音、でも小さい。まだ、まだだ。まだ一点に集中できるはず。


 まだ四方に散っているような気がする。もっと、もっと集中。ホースをイメージしろ。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「…………っ、おぉ、すげぇな…………」


 後から驚きの声、なんで? そういえば、火花の音が聞こえない。

 ゆっくり目を開けてみると――……


「わぁ――……」



 ―――――バチッ!!!!



「どわぁ!!!!!」



 後ろに体が吹っ飛んでしまった。いたた…………、目の前の景色に動揺して集中切れてしまった。でも、今のはいい傾向に傾いたんでは?


 湖の水に波紋が浮かび、少しだけ動き始めていた。それだけではなく、真ん中に渦のようなものが出来ていたし、いい感じ。今のが、法力の流れかもしれない。

 あれを完璧に操作する事が出来れば、式神とかを出せるようになるのかな? 少しだけ希望が見えてきたぞ。


「よしっ!!!!!」


 頑張るぞ!!!!!!


 ☆


「今日もよろしく頼むぞ、セイヤとやら」

「よろしくお願いします…………」


 うわぁ、めっちゃ嫌そう。初日からぼこぼこにされていたもんね、そりゃ嫌だわ。

 痛そうだったし、今も包帯巻かれているし。夏楓が出来る限り治したけど、それでもまだ痛々しい。


「靖弥、大丈夫? 体まだ痛いんじゃない?」

「ダイジョウブ」

「いや、大丈夫じゃないよね? 今日は休んだ方がいいんじゃない?」


 震える体、震える声。これは、さすがにこのまま続けると体と心が壊れる可能性がある。

 今の靖弥は、蘆屋道満から逃れることは出来たけど、まだまだ精神的には不安定のはず。だから、もう少し優しく扱ってほしいんだけど…………。


「俺にそんな瞳を向けてきてもやり方は変えないよ。修行やめるなら止めないけど、一度でもその判断をしたのなら、俺はもう二度と修行の協力はしない」

「やめるなんて言ってません」

「なら、早く準備を。ほら、君も準備した方がいいんじゃないかい? 水分が待っているよ」


 あ、琴葉さんの所に靖弥が行ってしまった。大丈夫だろうか、今日もまた怪我を増やして戻ってくるんじゃないだろうか。でも、俺も自分の事で精一杯だし、これ以上何も言えない。


 まぁ、さすがに琴葉さんも、靖弥の心が壊れるほどはしないだろうし、大丈夫かな。


「夏楓、今回は紅音がこっちに来て、夏楓が残ってくれる?」

「わかりました、大丈夫ですよ。私がしっかりと見ておきますので。優夏さんはご自身の修行に集中を」

「ありがとう」


 良し、俺も俺で行こうか。昨日の夜、なんとなく出来たような気がしたし。あれを何とか身に着け、もっと制御できるようにしないと。


「頑張ろう」


 肩に乗っている闇命君からの視線が、何を訴えているのかわからないけど、まぁいいや。聞いても答えてくれなさそうだし。


「ワタシでは、役不足と言いたいのか」

「紅音には俺と一緒に来てほしいんだよ、だめ?」

「仕方がない、行くぞ!!」


 目をキラキラさせて森の中に向かう。本当に、ちょろいな。闇命君の身体だからこそ何だろうけど。


 なんか。複雑だなぁ。

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