修行方法

今まで黙っていた靖弥がオズオズと手を上げ、付け加えるように口を開いた。


「それと、優夏の方は一技之長いちぎのちょうを扱えるようになっている。そっちもうまく使えば、もっと戦闘が優位になるんじゃないか?」

「あ、そうなのかい? なら、一技之長も磨こうか。でも、最初は基本の本術を扱えるようにした方がいい。君の身体的にも、そちらの方がいいだろうしね」

「はぁ…………」


 確かに、いくつもの技を同時になんて、今の俺には難しいし、一つずつやってくれるのは助かる。


「…………今の俺は、闇命君との繋がりで法術を扱えている。なら、その繋がりを解けば、また式神すら出せなくなるんだよね?」

『そうだよ、当たり前でしょ。今は僕が僕の身体のために制御してあげているの、感謝して』

「はいはい、アリガトウゴザイマス」


 嫌味を混ぜないと話せない闇命君、降臨。


「繋がりって、意図的に外す事ってできるの? それか、闇命君が今回だけ、制御しないとか」

『繋がっていれば自然と法力を抑えてしまうから、僕との繋がりを解除した方がいいかもしれないね。解除自体は出来るし』

「あ、そうなんだ」


 無意識に自身の身体を守るため、力を抑えていると言う事か。

 絶対に俺のためではないだろうなぁ、闇命君だし。自分の身体を守るのは当然だし、何も言えねぇ。


「それなら、さっそく外してもらおうか。早く早く~~」


 琴葉さん、絶対に楽しんでいるだろ。闇命君も従いたくないって顔をしているな、俺と同じだ。

 俺もなんとなくこの流れでやるのは癪に障るというか、気持ち的に負けた気分になるからやりたくない。

 でも、やらないと何も進まないし、闇命君と目伏せをして繋がりを切る事に。


『……………………それじゃ、切るよ』

「……………………よろしくお願いします」


 渋々、本当に渋々言われたようにやることに。


 闇命君は両手を胸元で合わせ、目を閉じる。すると、俺の身体から白いオーラのようなものが現れ、闇命君の合わせられている手に吸い込まれた。


「…………あ」

『ふぅ、多分。これで繋がりは遮断されたと思うよ。試しに式神を出してみて』

「え、う、うん。でも、繋がりが切れていた場合、大きな火花を出して札が燃えたりしない? 大丈夫?」

『やればわかるでしょ。早く、僕もやりたくなかったことを無理やりやらされたんだから、君も早くやって』

「はい…………」


 懐から札を一枚出して、いつものように式神である百目を出そうとする。もし出す事が出来たら、心から謝りたい。あの時の失態を、絶対に。


「百目、でてきっ――……」


 札に力を込めた瞬間、火花が出てきっ――………



 ――――――――――バチッ!!!!!



「どわっ!!!!」

「優夏!?」

「おにーちゃん!?」


 いてて…………。やっぱり、大きな火花が出てしまった。驚きすぎて後ろに転んでしまった。


 すぐに紅音と魔魅ちゃんが近寄ってきて、心配の声をかけてくれる。差し出された紅音の手を握り、立ち上がる。魔魅ちゃんが俺の身体を支えてくれるように腰に手を回してくれた。ありがとね、魔魅ちゃん。


「これが、今の君の実力だという事だねぇ。君はこの世界の住人ではないから、これが普通なんだろうけど。思った以上に事態は悪いなぁ、まさかここまで扱えていないとは」

「すいません………。元の俺は凡人に足が生えて歩いているような人物なので…………」

「そこは俺にとって何か関係はあるかい? 君が凡人だろうが、天才だろうが、関係ないよ。俺に関係あるのは、今の君の実力と、どうやって扱えるようになるかの方法だけ」

「ソーデスネー」


 あっさりしているというか、なんというか。わかっていたけど、琴葉さんも、やっぱり扱いにくい。この世界の一人一人、本当にキャラが濃すぎてさぁ。俺が米粒以下の存在になりかねないよ。そのうち、プチッっと潰されそう。


「これからは法力の使用方法と、制御を覚えてもらおうかな。それは水分の方が得意だし、そっちにお願いするか。俺はもう一人の方を相手する」

「え、もう一人って?」


 琴葉さんは、俺から目を逸らし、笑みを浮かべながら靖弥の方に向いた。


 もしかして、琴葉さんは靖弥の修行相手って事? でも、靖弥は絶対に今の俺より強いし、力も使いこなしている。これ以上強くなるには、一体どうすればいいんだ? 新しい技を覚えたり、式神を捕まえたりするとか?


「俺は何をすればいい」

「おぉ、やる気だなぁ」

「俺に出来る事があるのなら、やりたい。罪滅ぼしになるなんて思っていないけど、出来る事は全力でやって、少しでも優夏達の役に立ちたいんだ」


 意志の強さが瞳に現れている。目は琴葉さんを離さず、言い切った。


 靖弥、今までどんなことをしてきたのか俺にはわからないけど、償おうとしているのはわかる。今の話だけで、意志の強さはわかった。


「ほぅ、おもしろいねぇ。なら、俺も答えないといけないな」


 言った琴葉さんは、顎を撫で、口角を上げる。なんか、あ、妖しいのよ…………。何あの、含みのある感じ。靖弥、大丈夫かなぁ。


『何をするつもりなの?』

「そうだなぁ、こいつの場合はおそらく基本中の基本は出来ていると思うから、技を磨くところから入ろうと思っている」

『技を磨く?』

「そうだ。ここからはこいつとのやり取りになるから、お前らは水分が来るまで待っていろよ」

「え、いや。さすがにあの状態で今日は無理でしょ。というか、こっちが気を遣うから、休んでいていほしいんだけど…………」


 あれ、確実に二日酔いでしょ? 二日酔いがきついのは、経験していない俺でもわかるよ。

 漫画やアニメでも、結構きつめに描写されているし。吐いたりもしているから、本当に辛そうなのわかる。


「大丈夫だろう、水を飲めば何とかなる。俺もよく羽目を外して酔いつぶれていたなぁ。その時は水を飲んで一日中寝ていたわぁ」

「一日中寝てんじゃねぇか。あ、やべ」


 思わず心の声が洩れちまった。でも、本人気にしてなさそう。気にするはずないか、こんな適当な人間が、人の暴言すらどこ吹く風だろうな。


 え、後ろから人が来る気配?? この流れで来る人って、一人しかいないような気がするんだけど…………。

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