いろんな不安

「…………休んでいてください」

「ウップ…………。だ、だいじょ…………だ。問題ない」

「そうは見えないんですが。今にでもぶっ倒れそうじゃないですか」

「問題ない」

「問題ある人の言い分なんだよなぁ」


 予想通り、今にも倒れそうな水分さんが気に持たれながら現れた。

 この人も無理するタイプの人か、だめだな。


「本当に、俺は見るだけだから問題はない」

「それならいいんですけど…………」


 木にもたれかかっていた水分さんが立ち直し、琴葉さんの隣に移動。何かを話しあっているみたいだけど、俺達には聞こえない。何を話しているのだろうか。


 お、話が終わったみたい。水分さんがこっちに来る。


「んじゃ…………ウッ。この後、少し…………い、どう、するぞ。オエ」

「最悪、俺の前では吐かないでください。せめて、俺のいない所でお願いします」

「そんな酷い事言うんじゃねぇよ、吐きそうになったらぶちまけてやる」

「やめて!?」


 何考えているのこの人!! マジで勘弁してよ!! 本当に最後の譲歩として、俺の前で吐くのはいいから、俺に吐いたものを付けようとしないで!!


 口に手を当てながら、千鳥足で水分さんが歩き出す。ここから離れるって事? そうなると、靖弥が危ない感じするんだけど、大丈夫かな。


「安心していいぞ、優夏。俺が責任をもって君の友人を大事にしごっ――扱うつもりだ」

「しごく言うなっ、です」

「無理に言い直さなくてもいいのに~」


 あれ、わざとらしく肩を落としている琴葉さんの横を通って俺の所に魔魅ちゃんが走ってくる。


「どうしたの、魔魅ちゃん」

「私も、行く」

「え、いいけど。多分俺といるより紅音達と一緒に居た方がいいと思うよ?」

「行く」

「でも――……」

「行く」


 これは、何を言っても意味はないな。何を言っても今の魔魅ちゃんが引かないのがわかるし、俺の手を掴むこの小さな手は離してくれないだろう。


「私も行きますよ」

「あれ、夏楓、いつの間に」

「水分さんを無理やり寝かせようとしたのですが、結界を張られてしまい。抜け出すのに時間がかかりました」

「え、抜け出せたの?」

「根性です」

「…………え?」

「というのは冗談で。結界に触れ、波長を合わせすり抜けたのです。ぶっつけ本番でしたが、出来て良かったです」


 通りで、夏楓を見た瞬間、水分さんの顔が全て終わったような物なるわけだ。結界に閉じ込めていたはずの人物が姿を現したら、そりゃ驚くよね。


 夏楓の笑顔が黒いような気がするのは俺だけかな。怒ってないよね、大丈夫だよね?

 流石に今の水分さんに関節技とかしないよね!? さすがにそれは可哀想だからやめてあげようか!! 指を鳴らさないであげて!?


「何を怖がっているのですか、水分さん。大丈夫ですよ、”今は”何もしませんので」

「………………………………はい」


 ”今は”を、ものすごく強調したな夏楓よ。もしかしてこれは、二日酔いが治ったら一発食らわせるというフラグなのでは? 

 まぁ、今回に関しては俺もどうする事も出来ないし、頑張ってください、水分さん。


「…………行くぞ。俺について来るのは三人でいいのか?」

「そうだね。俺と魔魅ちゃんと夏楓になるのかな。紅音はどうする?」

「ワタシはこっちに残る。色々不安があるからな」

「…………紅音、靖弥に何もしないでよ? 怪我とかさせたらさすがに怒るからね? 絶対だから、約束だよ?」

「…………………………………………はい」


 タメが長いなぁ。


「では、琴葉さん。靖弥をよろしくお願いします。紅音が余計な事をしないように」

「紅音ちゃんがやりたいことはやらせてあげたいな――わかったわかった!! そんな怖い顔しないでよ!! はぁ、男を優先しないといけないなんて、なんてことを…………。俺は今まで、いつでも女性を一番に考えてきたというのに…………」

「そんな貴方の過去何て心底どうでもいいです。よろしくお願いしますね? 絶対に」

「はい」


 本当にこの人達は大丈夫だろうか。まぁ、靖弥が怪しい動きをしなければ問題はないだろう。靖弥も今は特に問題ないと思うし。


「それじゃ、行くぞ」

「はい」


 ここで気にしていても仕方ないか。また、しばらく会えないわけではないし、いつでも話せる距離にいるし。


「それじゃぁ、靖弥、頑張ってね」

「お前もな、優夏」

「うん」


 お互いに手を振り、俺は水分さんの背中を追いかけ、靖弥は琴葉さんに向き直す。


 お互い苦手なところがあるみたいだし、そこを見てもらえるのは美味しい。

 性格がどうであれ、実力は本物。それに役職持ちだし、人に教えるのも慣れていそう。


ありがたくこの機会、使わせてもらおうかぁ。


「あの、どこに向かっているのですか?」

「この先には、水神が住んでいる湖がある。そこには正の力が凝縮されているから、俺達陰陽師達の力を最大限出すお手伝いをしてくれるんだ。あとは、普通に俺達の力に反応するから修行に適してる」

「なるほど」


 夏楓が俺の心を読んだようなタイミングで聞いてくれた。


 つまり、これから行くのはその、水神様が住むと言われている湖。一度、村に入る前に森の中から見下ろした事があるけど、あれは本当に絶景だったなぁ。

 凄くキラキラと輝いていて、それでいて透き通って。太陽の光が反射され、思わず見惚れてしまった。


 あれがもしかして、正の力という物なのだろうか。


「水神が住んでいることを忘れるなよ?」

「え、どういうこと?」

「少しでも変な事をすれば、怒りを食らうからな」

「命懸けの修行じゃねぇか!!!!!」

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