制御なし

 闇命君を肩に乗せて、外を歩いている琴葉さんの後ろを歩いている。ちなみに、水分さんは完璧なる二日酔い。さすがにそれは治せないというか、治しては駄目だと言い切った夏楓が見てくれている。


 魔魅ちゃんも夏楓と一緒にいてもらおうと思たんだけど、琴平のが相当トラウマになったのか、離してくれなかった。



『…………置いて…………行くの??』



 上目遣いと涙目、袖を遠慮気味に掴まれたらさぁ、うん。断れるわけがないじゃん。今も俺の隣でウキウキしながら歩いているよ。


「あの、どこに?」

「広場だよぉ。安倍家にもあるでしょ? 陰陽寮を取り囲む森を進んだ先にある修練場」

「あぁ、青春を謳歌すると勘違いしたあの……」

「よくわからないけど、多分そこかなぁ??」


 今の時間帯だと、少し遅いけどまだ叫んでいる人達とかいるんじゃないか? でも、声は聞こえないな。


「付いたよぉ~」

「…………まさに、修練場」


 目の前には森の中に作らされた修練場。自分の背丈より何十倍もある木が周りに立ち並び、中心には整備された地面。決められた所に白く線が引かれている。一対一とかをする時に使用する用かな。


 端の方には、手作りの槍やこん棒とかが箱に入って置かれている。竹刀も綺麗に立てかけられていた。


「今は水分が避難場所に陰陽師達を集めているからここには誰もいないし、使われない。ここなら、思いっきり陰陽術を使える。式神も出せるし、他の事も出来るよ」

「なるほど。たしかに、ここなら何でも出来そう」


 しかも、自然豊かな場所だから、吹く風が心地よくて、流れる汗を一緒に風に乗せてふき取ってくれるような気がする。鳥の音や葉の重なる音も聞こえ、気持ちが自然と落ち着くなぁ。


「紅音も、体を鍛える事は大事だから継続してくれると嬉しいかな。でも、それだけでは、大事な人を守ることは出来やしないよ。武器も、今までは琴平が出していたみたいだけど、これからはそれも無い。新たな戦術を考えなければならないよ」

「…………わかった」


 紅音も力強く頷き、拳を握っている。琴葉さんの口調が本気だから、紅音にも届いたんだろう。


「そして、君の身体はおそらく肉体を鍛えるより、まず君が強い力を扱えるようにする方がいいと思う。今のままでは宝の持ち腐れだからね」

「でも、どうすれば…………。俺、今まで制御している自覚ないまま式神とかを使っていたんだけど」


 いや、制御はしていたけど、法力を指の先に集中するのみ。制御とかはあまり意識していなかったかも。


「それはそうだろうねぇ。本体が抑えていたみたいだから」

「え、本体って…………闇命君?」


 あ、そっか。闇命君との繋がりが無かったら法力を扱う事が出来ないみたいだし、闇命君が制御してくれていたのも頷ける。


『別に、それは特にいいでしょ。今後も僕が制御をしながら、優夏が法力を使えばいい。今やるのは、新たな力を手に入れる事や、身体能力の向上じゃないの?』

「もしかして君、今まで修行という修行をしてこなかったのかなぁ? 才能に恵まている人は、その才能になまけ努力を怠るとよく言うからねぇ」


 あ、紅音の前でそんなことを言ったら――……


「貴様、それは闇命様を侮辱しているな。死にたいのだとお見受けした、殺そう」

「待って紅音!? 俺の失言の時より明らかに物騒なことになっているから!!! ほら見て!! 琴葉さんの顔真っ青だよ!? 首を掴んでいる両手を下ろすんだ!!!」


 首締まってるよね、完璧に締まっているよね!? 早く離してあげて!!!!


「コホッ、ケホッ。え、えっと…………。女性に首を絞められるのは、これで何回目かなぁ。その中でも紅音のはだいぶ優しかったなぁ、殺す気がないのがもろ分かりだったよ」

「ふん、本当に殺すものか。闇命様の命令なのなら一瞬だ。迷わず殺す」


 いや、紅音。そこではないよ、今の琴葉さんの言葉で気になるところ、そこではない。

 今まで何回琴葉さんは、女性に命を狙われてきたのだろう。女性が好きなのは分かったけど、それで女性に殺されそうになっているのなら世話ないよ…………。


「コホン、だいぶ落ち着いて来たから話を戻そうか。君達の繋がりで今は何とか式神を出す事が出来ているみたいだけれど、その繋がりは絶対な物なのか?」

「ん? どういうこと?」

「二人の繋がりは、絶対に切れない物ではないだろう? もし切れてしまったらどうする? それだけではなく、今の二人は”今までの闇命”の器の中にいるに過ぎない。これからも旅を続けるのなら、その器から出る必要がある。その鍵となるのが、優夏。君だよ」


 琴葉さんが、俺を指さし言い放つ。強気な笑みを浮かべ、勝ち誇っているような瞳を向けられた。


 その琴葉さんの自信はなんだ? なんで、俺を指さしてそんな顔をする。


 俺は、凡人な学生だった奴だぞ。前回なんて、力を暴走させてしまったんだ。僕自身は何も出来ない役立たずだよ。


『………………確かに、それはそうだね。僕一人では限界があるし、出来ないことが多い。あんたの話に乗った方が、これからの戦闘楽になるかもね』


 闇命君が納得してしまった。これ、絶対にやらないといけない奴だね。頑張ろう。

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