自由

 え、なに。もしかして、今の俺の心の声聞こえたのか!? そういえば、闇命君には俺の心の声が駄々洩れだったんだ……死んだ、俺は確実に死んだ。

 琴平、あともう少しで俺もそっちに行くよ。待っていてね……。


「お待たせしました」

『馬鹿なことを考えている暇があるのなら、この時間も活用したらどうなの? 感傷に浸る時間は終わりだよ』


 やっぱり、聞こえているなこれ。少し怒っているし、声色がいつもより気持ちちょい低い。


「えっと、今後って?」

『君の友人とやらをどうするから考えないといけないよ。こいつの処分をね』


 闇命君の視線の先には、顔を俯かせ気まずそうに後ずさっている靖弥。体を震わせ、守るように自身を抱き締めている。


 琴平を刺した時の靖弥は、確実に道満に操られていた。靖弥の意志だけであんなことは絶対にしないと思うし、何より、靖弥自身嫌がっていた。

 涙を流しながらも拒んでいたはず。なのに、道満が無理やり…………。


「…………靖弥」

「なに」


 こっちを見ない。近くに行けば、少しは話してくれるだろうか。


 ……………………待てよ。靖弥は操られて琴平を刺してしまった、それは間違いない。なら、今の靖弥も危ないはず。安易に近付けば、今度は俺が隙をつかれて死んでしまうかもしれない。そうなれば、今までの行動が全ておじゃんとなってしまう。


 道満は、どうやって靖弥を操っていたんだ。何か呪いをかけている可能性はあるが、あそこまで靖弥の意志を無視して、あんなに完璧に操ることが出来るのだろうか。

 いや、呪いだけで操っているのかもしれないにしろ、媒体はあるはず。あの、闇の空間を作りだしたのと同じ媒体が、形を変えて靖弥の身体に埋め込まれているのかもしれない。


 横に立っている闇命君を横目で見ると、小さく頷いた。同じ考えという事か。

 ん-、どうやって探ろう。迂闊に質問も出来ない、もしかしたら道満がここでの会話を聞いているかもしれないし。


 どうすればいいだろうか。口に出さずに靖弥に聞く方法はないか。体の不調や違和感。道満と出会った時、体に何かを埋め込まれたかどうか。

 どうやって、聞けばいい。闇命君みたいに心を読めたらいいのに。


 ……………………心? あ。


 闇命君に目伏せする。すぐに察してくれた闇命君は頷き、何事もなかったかのようにその場から離れた。よし、次は俺が靖弥と話をしようか。時間稼ぎと視線誘導も込めて。


「靖弥」

「…………」

「そんなにビビらなくてもいいって。別に靖弥に対して怒っている訳じゃないよ。だから、顔を上げてほしい」


 諭すように声をかけると、少し悩んだ末にゆっくりと顔を上げてくれた。


 顔が青いな、相当怖がっている。それは俺に対してなのか、それとも道満に対してなのか。

 隣にいる水分さんを怖がっている訳ではないと思うんだよなぁ。だって、今の水分さんは、なんか。どこを見ているのかわからないし、疲れもあるとは思うんだけどぼぉっとしている。今のこの人を怖がる要素がないもんな。


「靖弥、これからどうする?」

「好きにすればいい」

「好きにすればいいって……。靖弥はどうしたいとかないの?」

「俺にそんなことを言う権利はない。好きに使えばいい」


 あぁ、心がもう壊れる一歩手前だ。もしかしたら、もう壊れてしまっているのかもしれない。でも、今ならまだ修復出来るはず。言葉を間違えないようにしないと。


「靖弥はこれから俺達と行動してもらいたいんだけど、そうなると道満が何かを仕掛けてくる恐れがある。靖弥をほっとくとも考えにくいしね。何か情報を零さないか、不安で夜も眠れないんじゃない?」

「それはない」

「何で言い切れるの?」

「俺に自由はないから」

「なんで?」

「答えられない」

「そこは答えないのか」


 顔を横にそらしてしまった。手を強く握っているし、悔しそうに唇をかみしめている。話したいけど、話せない。そんな感じだろうな。


「自由がないは、きついよな。というか、めんどくさい」

「…………」

「なんかさぁ、この体。凄く動きやすいし、法力も莫大で式神とかを複数出せるし、結構いいんだけど。力が強いから周りに行動を制限されていたし、子供だから蔑まされたりさぁ。本当に大変だったんだよぉ、もう勘弁してほしかったなぁ」

「…………」

「周りからの監視って、本当に気持ち悪かったよ」

「…………何が言いたい?」

「自由がないのって、気持ち悪いよなぁって、話がしたいだけ。まぁ、今はもう絶縁したけどな。今は自由だ、楽しいぞ」

「…………だから、なんだ」

「お前も、もうそろそろ自由を手に入れないか?」

「…………え」


 こちらに顔を向け、呆然とする靖弥。後ろを見ると、夏楓と闇命君が俺を見ていた。そして、右の耳たぶを夏楓が指さした。


 ―――――そこか

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