心を埋める声
闇命君が動く音、気配を消さないと。
「靖弥、自由は欲しくない?」
「…………俺に、自由を手に入れる権利はない」
「権利とか関係ないよ。俺が聞いているのは、靖弥の気持ち。靖弥自身は自由を欲しいとか思っていないの?」
「…………思っていない」
今の間、思っていないと言いきれていない。あと、もう少しだ。もう少しで闇命君が靖弥の元にたどり着く。
――――――――カサカサ
「っ、音?」
「あ、ばれたかな。でも、靖弥、もう遅いかな。闇命君はもう止められないよ」
目を至る所に向けているみたいだけど、鼠姿の闇命君を捉えるなんて不可能なんだよ。どこにいるのかもわからない、わかったとしても早すぎて捕まえる事は出来ない。
闇命君は、いつの間にか近くにいるんだよ。鼠の姿だとね――……
――――――――――ガブッ!!!!!!
「!?!????!!! いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!!!!」
☆
「さすがに血、止まった?」
「噛み千切られていましたので、形は完璧に戻すことは出来ませんでしたが、止血程度なら。あとは念のため、布を耳に押し当てましょう」
血が大量に流れ落ちていた靖弥の耳に、夏楓は慌てて手をかざし淡い光を当てた。傷は何とか塞ぐことが出来たみたいだけど、噛みちぎるまでした闇命君のせいで、耳たぶの形が歪になってしまったみたい。
地面に座って意気消沈している靖弥は、口から魂が出ていた。まぁ、驚きと痛みで何も考えられなくなるよね。
「えっと、放心状態なのは仕方がないけど、もうそろそろ戻ってきてくれると嬉しいぞ、靖弥よ」
「……………………何が起きたの」
「闇命君が靖弥の気づかないうちに足から肩に上り、俺に気を取られているうちに耳たぶを噛みちぎった、以上」
「納得できるか!!!」
そんなことを言われてもなぁ。これしか方法がなかったんだもん、仕方がないじゃん。
今の俺の手には、闇命君が噛みきった耳タブの中に入っていた、大極図の刻まれている小さな虫の死骸が握られている、気持ち悪い。
もう死んでいるみたいだから、灰になるのも時間の問題だろう。
「…………優夏、それ…………」
「もうこれは機能していない、灰になる前の式神だよ。おそらく、靖弥を仲間にした時にでも埋め込んだんだろ」
「何で気づいたんだ」
「気づいたというか、お前が教えてくれたから予想が確定になったんだ」
「どういうことだ?」
流石に全部説明しないと駄目か。でも、それより先に…………。
「まずは仲間との本当の最後の別れをしてきてもいいかな? さすがに、まだ気持ち的にモヤモヤが残るんだよ」
「あっ、悪い……」
「謝る必要はないよ、行ってくる」
崖の近く、穴を掘り終わった琴葉さんが俺達の方に目線を向けてきていて正直少しうざかった。声をかけてよ、本当に。
「お待たせしました」
「待ってないから大丈夫だよぉ」
「視線で訴えておいてなにを言っているんですか。ヘラヘラしないでください、心底うざいです」
「…………周りの人の俺に対する言葉がいつも鋭いのは気のせい? 琴平にかける言葉と違い過ぎない?」
「なんとなく、なんか、無意識?」
「…………もういいよ。ほれ、早く琴平に挨拶してきな」
「琴葉さんは?」
「俺よりお前らの方が琴平も嬉しいだろ、気にせず行ってこい」
俺の背中を押し、手を振り送り出された。俺の肩には、鼠姿でいる闇命君が今の衝撃で落ちそうになっていた。あぶないなぁ、咄嗟に手で支える事が出来たから落ちずに済んだけど。
こらこら、そんな恨みの籠った目を向けないの。我慢して、闇命君。
「あ、半透明になるんだ」
『別にいいでしょ、お前には関係ない』
「ソーデスネー」
俺の手から空中に跳んだ闇命君は、足を地面に着けた時に半透明になった。そのままため息を吐きながらも、穴の近くに移動。付近に置かれている骨箱を手に持ち、穴の近くでしゃがむ。
「琴平、今まで本当にありがとう。これからは、今まで休めなかった分、しっかり休んで」
穴の中に優しく入れる。これで、本当にお別れ。琴平とはもう、話せないし、触れる事も出来ない。
本当の、お別れだ。
『別に、今なら我慢しなくてもいいんじゃない?』
「それは闇命君もでしょ」
涙なんて出ないけど、やっぱり悲しいし辛い。胸が締め付けられ呼吸がしにくい。でも、ここで立ち止まるのは駄目。ここからなんだ、俺は、ここから絶対に強くなる。もう、こんな被害が出ないように。
周りに盛り上がっている土を手ですくい、琴平の骨が入っている骨箱にかける。土でどんどん見えなくなる白い箱。
完全に隠れると、心にある穴が広がったような気がした。
「……………………行こうか」
『そうだね』
振り返り、その場を去ろうとした。その時、涼しい風が俺の頬を撫でた──……
"優夏、今までありがとう。闇命様や紅音達を頼むぞ"
「っ!!!」
後から、男性の声が聞こえた気がした。
すぐに声が聞こえたと思った方に振り向くけど、誰もいない。土の上に置かれている花がひらひらと揺れているのみ。
「……………………うん。任せて、琴平。必ず、強くなるから、見ててね」
なんか、心に空いた穴が、今の言葉で塞がったような気がした。やっぱり、琴平はすごい。
行こう、戻ろう。みんなが待っている、仲間の元に――……
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