強さに疑い

「えっと、陰陽助にはそう簡単になれないの?」

『僕を見ていてそういうの?』

「ソーデスネー。天才様でも陰陽師止まりですもんねー」

『馬鹿にしてるの?』

「いえ、まったく」


 やべ、これ以上何かを言えば今まで以上の暴言が返ってくる。いや、毒舌入りの正論が返ってくる。止めてくれる人もいないし……。


「え、えっと。感じ取った気配は、結構強いの?」

『んー、今は隠しているみたいだから詳しくはわからないけど、多分安倍家の陰陽頭と同じかそれ以上』

「え、そんなことありえるの? だって、琴葉さんは漆家の陰陽助だよ? そこまでの力を持っているのなら、陰陽頭を魔魅ちゃんに任せるなんてことなくない?」


 それに、確か漆家は実力主義。実力があるものが上に上がると言っていたよな。だったら、魔魅ちゃんより強い可能性ない? 経験も段違いだろう。何で陰陽助止まりだったの。


「それはねぇ、俺が拒んだからだよぉ~」

「っ、琴葉さん!? え、いつからそこに!?」


 いつの間にか後ろに琴葉さんがヘラヘラしながら立っていた。闇命君も気づかなかったみたいで、声をかけられた瞬間、体を震わせていたのを俺は見逃さなかったぞ。


「俺の話を始めてからかなぁ。俺を仲間にするかどうか」

「ほぼ最初からじゃないですか…………。早く出て来てくださいよ…………」

「折りを見つけ次第と思ったんだが、今の今まで見つける事が出来なくてな、いやぁ参った参った」


 絶対に楽しんでいたじゃん。わざと出てこなかったんじゃん、その笑顔。

 あぁ、それで、堂々と俺の隣に座るんですね、何か用だったのか。あ、もしかして場所見つかったのかな。


「俺は俺自身、実力的には申し分ないと思うよ、実力だけならね。性格とかはどうしようもないから諦めてくれ」

「……………………性格を取るか、実力を取るか…………か。これは苦渋の決断だ。どっちがいいと思う闇命君」

『確かにこれは苦渋の決断だね、どっちに転んでも利点と難点がある。実に難しい選択だ』

「……………………酷いなぁー」


 ヘラヘラとした顔で言われても……。確実に思ってないでしょ。


「俺はどっちでもいいぞ。仲間にするも、しないも。しないのなら、俺は今まで通り自由にこの世界を駆け回るだけだ。だが、俺の言動や行動に目を瞑るのなら力だけなら貸すよ。どちらの方が利点度が高いかしっかり考えてから返答すると良い。それと、琴平の仮の寝床を見つけた。早く行くぞ」


 そういうと、すぐさま立ち上がり歩き去る。


「……………………仮??」


 ☆


 丘の上、風を遮るものが無い。服や髪が靡き、手で押さえないと顔にかかる。


 周りには紅音と夏楓。水分と琴葉、魔魅ちゃんに闇命君、靖弥がいる。俺が骨壺の入った箱を持っていた。


「ここなら琴平もお前らを見下ろす事が出来るだろ。今まで頑張ってきた分、これからは高みの見物を楽しんでもらおうか」

「…………へぇ、こんな所に埋めるもんなんだこの世界では。なんか、墓地がるのかと思っていたから意外」


 もしかして、この時代ではこういう何もない所に埋めるのが当たり前なのかな。


『そんなわけないだろ、阿保なのか? こんな所を毎回毎回選んでいたら埋めるところがなくなるよ』

「た、確かに…………」


 なら、なんでここに?


『結構頑張ったんじゃない? やっぱり、弟は大事なんだ』

「当たり前だろ? 血の繋がりのある最後の家族だったからなぁ。仮とはいえ、手を抜く訳にもいかないだろ」


 え、どういうこと?


「優夏さん。このような場所は雲に近く、死んだ者があの世に行きやすいため、高貴な方々が優先されるのです。ですが、琴平さんはただの陰陽師。こんな良い所で休んでいただくのは難しいのですよ」

「え、そうなの? なら、なんでここを選べたんだろう」

「権力持ちが今、二人もいます。取れてもおかしくはないかと」


 あ―、確かに。水分さんは陰陽頭、琴葉さんは陰陽助。役職持ちが二人もいるから出来た荒業か。それに、琴葉さんなら何か言われても笑顔で全てを跳ね返しそう。敵に回したくないなぁ。


「さぁ、早く埋めようか。体を少しでも休めないと次の行動に支障が出るからねぇ。この後、頭を沢山使ってもらうし、体も動かす事になる。気持ち的にも整理してもらわないといけない。早く済ませよう」


 そんなこと言わないでほしいよ、しかも今。もっと、大事な仲間との別れを惜しむ時間を頂戴。

 琴葉さんだから仕方がないんだろうなぁ、普段からこんな軽く飄々とした感じなんだろう。


「はぁ、なら早く穴を掘らないと。スコップって―――――」

氷柱女房しがまにょうぼう、鍬」


 …………え? 氷柱女房しがまにょうぼう?? それって、琴平の式神だったんじゃ? それに、一言鍬って…………。


 あ、氷柱女房だけでなく、他の式神も出した。これは、恐らく人型の式神。自らの法力で作り出した人形のようなものか。


『…………主の仰せのままに』

「え? 今微かに眉を顰めなかった? 氷柱女房しがまにょうぼう?? 今の俺が君の主なんだけど、今嫌がらなかった?」

『ご準備いたします。お待ちください』

「氷の式神だからって、ここまで氷のように冷たくならなくていいんだよ…………」


 式神にもなめられているこの人が、本当に強いのかわからなくなる。だって、氷柱女房しがまにょうぼうは琴平の命令だったら一切疑うことなく従っていたし、眉一つ寄せなかった。なのに、琴葉さんの指示には一瞬、眉を寄せていた。


「はぁ…………ん?」


 琴葉さんの指示に従った式神達が穴を掘っている後ろで、靖弥と水分さんが何かを話している。二人とも真面目な顔をしているな。


 あ、闇命君が加わった。靖弥が闇命君から逃げようと後ずさっている。そんなに怖いのかな。むかつくけど、怒っていない闇命君はただの餓鬼だよ。


「……………………え」


 闇命君に、手招きされた?

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