最後の式神
道満が、消えた。
あと少し、あと少しだったのに。俺は、殺せなかった。
こっちは危険な目にあった人物がいるというのに。それを引き起こした奴を逃がしてしまった。
くそ、くそ!!!!! 体が痛む、息が出来ない。頭痛が、耳鳴りが。
「大丈夫か、安倍晴明の子孫よ」
水分の声、俺の肩に手を置き心配してくれている。
「だいじょっ――……」
―――――バチッ!!!!
「っ、な」
水分の驚いた声、弾けれたような音。顔を上げると、水分が自身の手を握り目を開いて俺を見る姿が目に入る。
「おまえ、力が溢れていないか?」
力が、溢れている?
『主、送り過ぎ、です』
『キ、キュイ』
二人の声、今にも消えそうな声。送り過ぎ、法力を? でも、俺は今送っていないぞ。送るほどの余裕はない、今はこの息苦しさや頭痛から早く解放されたい。
「っ、闇命…………く、これって…………っ」
『……………………多分、力の暴走。高ぶった感情で力が溢れ、抑える事が出来ていないんだろうね』
体から何かが垂れ流しになっているような感覚、止めようにも止められない。これが頭痛と耳鳴りを引き起こしてるんだ。
『まず、百目達をこれ以上苦しめる訳にはいかない。戻っていいよ』
百目達に闇命君が伝えてくれている。手に握られていた御札から力が失われた。自身で戻ってくれたんだろう。
『…………ここまで力が暴走していると、さすがに無理か。どうすればいいんだ…………』
体が、熱い。周りの声が聞こえなくなってきた。耳鳴りの音が響く、視界がどんどん歪んで何も見えなくなる。
道満は取り逃がし、式神に自滅をさせてしまい。俺は今回、何がしたかったんだ。俺は今回、何をしたんだ。
「もう、いやだ…………」
☆
僕の身体なのに、どうすればいいのかわからない。こんな、どうすればいいんだ。
「闇命とやら、自身の身体だろう。早く落ち着かせなければ体が危ないと思うのだが」
『わかっているよ。でも、今の僕は自分の体をどうにか出来ない。中に入っている優夏にどうにかしてもらうしかないんだ』
多分、もうこっちの会話は聞こえないだろう。何も反応見せないし、地面を掴み苦しみから逃れようと悶え苦しんでいる。どうすれば…………。
「琴平!! 無茶をするな!!」
え、琴平??
『っ、琴平!! まだ止血出来ていないじゃん!! 動いたら駄目だよ!!』
「もう、俺は長くないです。場所が悪かった…………。な、ので。ここで役に立ちたの、です」
お腹から血が、まだ間に合うかもしれない。今ここで動くより、休んで紅音に傷を塞いでもらえば……。
『駄目だよ琴平、休んだらまだ間に合うかもしれない。僕の身体はどうにかする、いいから休め。琴平!!!』
琴平が僕の言葉を無視して優夏の横に座る。赤く染まった手をお腹から離し、一枚のお札を取り出した。
なに、もしかして式神を出そうとしているの? そんな事、許さないよ!!
『琴平!! 本当にいい加減にして!! 僕のいう事を聞いてよ、本当に僕の体は大丈夫だから。今は休んで!!』
手を伸ばしても、無理やり止めようとしても。僕の手は琴平に触れる事が出来ない、式神を掴んでいる手を離させることが出来ない。
なんで、いつもは僕が言えばいう事を聞いてくれるのに。なんで、今は一つもいう事を聞いてくれないの、今こそ聞いてよ。何で…………。
「闇命様、俺は、貴方が全てと言いました。ですが、今回苦しんでいるのは、闇命様だけではなく、優夏です」
優夏に送っていた目線を僕の方に向けてきた。その表情は、痛みで歪んでいるわけではない。
口からは血が流れ、苦しいはずなのに。なぜか今の琴平は、笑っていた。勝ち誇った様に、僕を見てくる。
「俺は、闇命様と同じくらい、優夏が大事なのです。優夏のおかげで、我々は自由です。……ゴホッ。っ、何にも囚われることなく、自由に外へと出られています。まだ、……っ……、か、枷があるとはいえ、これは今まで俺達が諦めてきた、自由なのです」
赤い琴平の手が伸びてくる、触れる事が出来ないはずなのに、僕の頬を撫でてきた。
温かい、触れられるわけがないのに、体温が移ったかのように、温かい。
「俺は、ここまでになりますが、これからは優夏が居ます。安心して……っ。お願い、出来るほど優夏はこの世界に馴染んできました。それに、気づいていますか、闇命様。優夏と話している時の闇命様、すごく楽しそうでしたよ」
え、僕が、楽しそう? そんなことないよ。こいつは本当に馬鹿な事しか言わないし、あほだし、何も考えない行き当たりばったりで。本当に困っていたんだ。だから、楽しいわけがない。
「闇命様、必ずお守りします。今までのように、これからも。だから、そんな顔を浮かべないでください」
そんな顔って、今の僕は今、どんな顔を浮かべているんだよ。鏡があるわけじゃないんだからわからないよ。
琴平の手が僕から離れる。
「これが最後の、式神です」
琴平が一枚のお札を右手の人差し指と中指で挟め、法力を注ぎ込み始める。すると、淡い光が琴平の手元を照らす。
「
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