何で

 もっと法力を送れ、百目達に力を。


『あ、主、もうそろそろ…………』

『主…………、力が…………』


 百目と川天狗の苦しげな声、なんで? なんで苦しそうなんだろう。もう少しで道満を殺せるよ? 


 ハヤク、ハヤク。コロサナイト。


「優夏、大丈夫なのか…………?」


 後ろから紅音の声、何も心配はいらないよ。


 道満の動きは徐々に鈍く、遅くなる。ふふ、いい気味。もっと、苦しめ、もっと、あがけ。



 ―――――もっと――……



『優夏、さすがにやり過ぎだよ。大きくなる力は、時にその者自身を苦しませる。今は抑えるんだ』


 抑える? 苦しめる? そんなことはない。強ければ強いほどいいんだよ。逆に、強くなければ戦えない、守れない。


『…………? 優夏?』

「闇命君、力は強くないと駄目なんだよ。強くないと、力は持っている意味がない。……あぁ、そう思うと、闇命君の身体はいいかもしれないね。だって、天才なんだから力が強いんでしょ? 今までは俺が扱う事が出来なかったから、いろんな人が危険に合っていただけ。今の俺は、少しだけど使えるようになってきたんだ」

『いや、使えるようになってきた事は認めるよ。でも、今回はそうじゃないんだ。強すぎれば――……』

「使えるようになったと認めてくれるのなら、黙ってて」

『っ、ちょ、優夏?』


 うるさい、うるさい。今俺は集中しているんだ、邪魔をしないでよ。


「っち、うるさいから、もういいや。百目、川天狗、雷火、河童、動きを制限して。俺が、殺すから」


 今より札へと多くの法力を送る。刀の準備も出来た。飛ばす事が出来る刃、闇の刃。式神に当たらないように気を付けながら、狙いを定めっ――……



 ――――――――――バタン



「―――――え」



 河童が、倒れた?


『キュゥゥ…………』

「雷火? ちょ、どうしたの!?」


 次々と式神が倒れていく。最初に河童、次に雷火。川天狗も地面にゆっくりと落ち胸を押さえてしまう。残っているのは、汗を流し震えた体を必死に支えている百目だけ。


「っ、後ろからも倒れる音? な、早く靖弥を捉えて!! また動き出しちゃう!!」


 七人ミサキまで床に倒れてしまった。まずい、このままでは靖弥が動き出してしまう。また、操られて人を傷つけてしまう。早く、早く。


 動き出す前に、早く、はやく、ハヤク。


「なんで、なんで…………」


 お札を握る手に力が込められる。クシャッという音が下から聞こえた、握り潰してしまったのか。


「これは…………」

「っ! あ…………」


 道満が、自由になってしまった。今は疲弊しているからなのか、息を整えその場に膝をついている。けど、今回復されたらさっきまでのが無駄となる。


 法力、送らないと。


『主…………もう…………』

『申し訳ありません…………主…………』



 ――――――――――え



 握っていたお札のうち、三枚が何故か燃えてしまった。それは、七人ミサキと河童、川天狗のお札。三人の身体も炎に包まれ、そのまま灰となる。最後に川天狗の目元に、透明な涙が流れていた。


 わからない、何が起きたのか。わからない、なんで式神が燃えてしまったのか。押していたのはこっち、不利にはなっていなかったはず。


「な、なんでだよ!!!!!!! 早く戻れよ!! 川天狗!! 河童!! 七人ミサキ!!!!」


 再度出そうとしても、お札は一瞬で炎と化して消える。何枚も、何枚も。炎に包まれ消えてしまう。


 理由がわからない、なんで式神を出せなくなった。まだ残っている百目と雷火も地面に落ちてしまい、動くことが出来ない状態。


「なんでっ――……」



 ―――――――――ドクン



『っ、優夏!?』

「優夏!!!」



 周りの人の驚きの声が聞こえる。地面が近くなる視界の端には、半透明の足。



 ――――――――――ドサッ



 体が、動かない。胸が、痛い。心臓が、張り裂けんばかりに鼓動を叩く。苦しいし、息が出来ない。汗が流れ落ちる、体が熱い。


 あつい、あつい、あつい!!!!


 耳鳴り、頭痛、息苦しさ、胸の痛み。これはなんだ、分からないことが沢山押し寄せてくる。


 ふざけるな、ふざけるな。俺は、ここで倒れる訳にはいかないんだ。


 歪む視界には、立ち上がり始めた道満。百目は刀を地面に刺し、支えながら立ち上がる。刀を構え、牽制し始めた。でも、息は荒く、俺以外の息遣いが耳に入ってきた。


「…………今回はここままでだ、引かせてもらおう」

「ま、待て!!!!」


 道満が闇の世界に姿を消そうとする。すぐに水分が反応し、逃がさないと言うように水妖を向かわせた。


 俺も、刀を握り闇の刃を放とうとしたが、思うように動くことが出来ない。立ち上がるところか、指一本動かせない。

 喉が締まり、上手く呼吸が出来ない苦しさだけが体に残る。


「ま、まて…………」


 口だけで牽制しようにも、言葉すら届かない。自分でもわかるほど小さく、か細い。

 俺の近くにある半透明の足は、先程から一向に動こうとしない。


 半透明という事は闇命君だろ、なんでその場から動こうとしない。半透明だろうと、できる事くらいあるだろ。早く、止めて。それか、俺の身体を、動かせるようにしてよ。


「まて、まてよ…………。俺は、まだお前を、殺していない。待てよっ…………」


 無理やり動かした腕には激痛が走る、それでも掴むことが出来るのなら。道満を、逃がさないように出来るのなら、こんな痛みどうってことない。


「待てよ…………くそっ」


 消えてしまう、道満が、いなくなる。他の人も追いかけようとするが間に合わない。速さ重視の雷火までも動きが鈍く、追いつくことが出来ない。


 道満はそのまま、闇の中に姿を消してしまった。

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