限度
『優夏、まずは落ち着け』
「っ、闇命君」
いつの間にか隣に闇命君が立っていた。
いつもとは違い声は沈み、いつもの冷静さがない。口に出して、自分に言い聞かせているようにも感じる。
後ろには、まだ紅音が必死に琴平の傷を治そうとしている姿。水分さんは止血してあげているが、難しい顔は消えない。相当危険な状態なんだ。この状況で落ち着けなんて、無理に決まっているだろ。
こちらは大事な仲間である琴平をあんな危険な目に合わせられ、友達である靖弥には心に深い傷をつけられたんだ。
黙ってなんていられない、心の底から湧き上がるこの感情。我慢なんてできない、したくない。
俺は、
『落ち着けと言っている』
「…………わかってる、わかっているよ闇命君。でも、我慢なんて、しなくていいよね?」
『それはもちろんだよ、我慢なんて、必要ない。落ち着いて冷静に、殺ればいい』
我慢は必要はない、一致したね。なら――……
「『雷火、川天狗、河童。主である闇命の名の元に、目の前に立ち塞がる悪の根源を殺せ。急急如律令』」
式神を四体同時に出し、道満へ向かわせる。
「雷火は他の式神の援護、川天狗は道満の意識を奪い、河童は水で動きを制限しろ」
『主の仰せのままに』
『クエッ』
道満に向かう式神達に指示を出す。百目もすぐに察する事が出来たみたい。
道満は四体の式神を見て目を見開き、自身もすぐさま式神を取り出した。
「
今の雷火は鴉くらい。そんな雷火の数倍はある大きさだ。二倍三倍は余裕であるな、結構大きい。でも、四体だぞ。一体でどうにか出来ると思うなっ――……
「『
っ、一気に三体。でも、俺の方が一体分多いから問題ないだろ!!!
「ありったけの法力を送り込んでやる、だから道満の式神を全て消し去れ!!!!」
四枚のお札に力を集中し、みんなに均等に法力を送る。すると、皆それぞれ動きが変わった。
百目は三体の式神の周りを駆け回りながら、刀で少しづつ削り始める。川天狗は道満の死角を狙い夢を見せようと動き、河童は水鉄砲で百目達の援護。雷火は飛び回り三体の式神の隙をなくしてた。
みんな、今まで見た事がないような動き、スピード。このまま法力を送り続ければ、道満の事を殺す事が出来る。
逃がさないからね、絶対に。
「小癪な真似を…………。このまま終わると思うなよ」
「何を企んでいるのか分かんないけど、それはこっちの台詞だよ。俺の大事な人を二人も危険に晒しているんだ、ただで済むと考えるな」
手に持っている刀を握り直し、その場に踏ん張る。刀を頭の上まで上げ、視線を道満に。刀の刃には
「こんなことも、出来るんだよ。強くなったでしょ? 俺も――……」
上から地面にたたきつけるように刀を振り下げた。すると、闇の刃が三本、俺の刀から放たれる。
真っ直ぐ放たれた闇の刃は、途中で女性姿をしている不知火が炎を吐き出し消してしまった。三本では足りなかったか、次はもっと多くの刃を出さないと。
あ、百目達に法力を注ぐのも忘れない。注ぎ続けないと、四体もいるんだ、負けるはずがない。
『…………主、法力を使い過ぎではないですか? 今のままではすぐに法力がなくなってしまいます』
「関係ないよ百目、君は何も気にせず道満を殺せ」
『…………仰せのままに』
何故かわからないけど、力の心配は本当に要らないんだ。溢れてきて止まらない、体から溢れ出ているような感覚が心地いい。
これを切らすわけにはいかないんだ、今のうちに出来る事をしないといけない。
今は完全に押されている道満、このままの勢いを消さず、攻め続けてやるよ。
俺も今の闇の刃を放ち続ければ、当たらないだろうけど牽制はできる。その隙に百目なら仕留められるだろう。川天狗も夢を見せることが出来るかもしれない。
川天狗が見せる夢はこっちでは操作できないけど、恐らく相手にとって嫌な夢を見せているのだろう。
苦しんでから、死んで欲しいなぁ。
「優夏……待て……。ほ、うりきを、使いすぎ……だ……」
途切れ途切れな靖弥の声、もしかして道満によってそう言わされているのか。
目線だけを後ろに向けると、七人ミサキの一人が地面にうつ伏せになっている靖弥の背中に乗っていた。
動きを封じるように首に手を伸ばし掴んでいる。
今の言葉、ただ現状を抜け出したいがための戯言か。
まだ靖弥を利用しようとするなんて。本当にクズの中のクズ、ゴミ以下だな。
やっぱり、このまま普通に殺すのなんて嫌だなぁ。苦しんで、苦しんで。もう、生きているのが辛いと。いっその事早く殺してくれと思うほどの苦痛を味合わせ、死んで欲しい。
この四体なら、出来なくはないのか。
「もっと、法力を送り込めば──……」
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