命を懸けても
雷火に乗っているから村にはすぐにたどり着いた。元々酷い有様だった村だから、今は特に変化がないように見える。
地面に足を付け、周りを見渡す。けど、気配だけが残り、人物はいない。残り香だけが漂っている感覚だ。
気配が大きいのか、包み込まれているような異様な空気。でも、一番強く感じる箇所はわかるな。体に針が刺さっているような、寒気のような。
「優夏!!」
「琴平!! 良かった、まだ遭遇していないみたいだね」
後ろから琴平が走ってきている。怪我とかは無いみたいだから、恐らくこの気配を出している人物には遭遇していないのだろう。
「闇命様もご無事のようで安心しました」
『当たり前。それより、琴平も無事だよね、怪我はしてない?』
「俺は問題ありません」
『…………嘘は言っていないみたいだね。それならいい』
琴平は自分が怪我をしていても、隠し通せるのなら隠すタイプだもんな。闇命君もそこは警戒しているみたい。
今回は本当に大丈夫みたいだし、早く向かおう。気配の根源へ。
「琴平、これからは絶対に俺から離れないで。何が起きるのかわからない」
走り出す直前、琴平に釘を刺すように言うと、何故か言葉を詰まらせてしまった。
琴平からの返答がなかったから、思わず前に出した足が止まる。
振り向くと、琴平は気まずそうに、でもキッパリと言葉を放った。
「済まないが約束はできない」
っ、いや、そうか。琴平ならそう言うだろう。
もし、
「今は俺より早く、気配の強い所に──……」
「琴平」
また、誤魔化そうとしている。自分をないがしろにしようとしている。これで俺が何も言わなかったら、琴平は自分を二の次にして俺を守ろうとするだろう。
今一番危険なのは、件に予見されている琴平なんだから。俺こそ二の次でいい、体は闇命君のだから無下になんて絶対にしないし、力も使いこなす事が出来てきた。出来る事も増えてきたし、守られてばかりの俺じゃない。
「しかし」
「琴平。確かに琴平にとって、闇命君や紅音達が大事なのはわかる。その中でも、闇命君は自身の主で、今まで慕って生きた人物だ。命を懸けて助けたいのはわかる。でも、そう思っているのは琴平だけだと思う?」
「どういうことだ?」
「琴平と同じくらい、俺達も琴平の事が大事なんだよ。これからも一緒に旅がしたいし、一緒に話したい。だから、俺達は琴平の事を心配しているの。大事な人で、好きな人だから」
琴平が居なくなって悲しむのはもちろん俺や闇命君だけではない。紅音や夏楓も絶対に落ち込むし泣く。悲しむし、これからの旅にも影響を与える可能性がある。なにより、寂しい。
「…………だがな、優夏。主を守るのは従者の役目で、命を懸けなければならない。こればかりは譲れない」
「そう。なら、お互い様の立場にしようか」
「お互い様?」
琴平が焦るように問いかけてくる。
「そう、お互い様の立場。琴平が命を懸けるのなら、俺は命に代えて琴平を守ろうか」
「はぁ!? 何を言っている!! その体は誰のだと思っている!! 俺がそれを許すと思っているのか。それに、もしもの事があれば優夏自身もどうなるのかわからないんだぞ。それを理解してから――……」
「でも、闇命君は何も言っていないよ?」
隣に立っている闇命君は俺達の会話に対して、何も反応を見せない。腕を組み、傍観していた。
いつもならすぐさま俺の言葉を訂正したり、馬鹿にしてきたりする。それをしないという事は、俺と同じ考えという事だろう。
闇命君も、琴平だけではなく、紅音達従者を大事にしている。それは通じているはずなんだ。だから、琴平も眉を下げて言葉に困っている。
「琴平、わかった? 俺達の気持ち、俺達の琴平への想い。だから、命を懸ける事はしないで、自分の身を大事にしていこう」
「………………………………はぁ、わかった。だが、それなのなら、優夏も約束してくれ」
「何を?」
「優夏も、自身の身体を大事にしてくれ。闇命様の身体を傷つけないと約束してくれ。なるべくでいいから」
「わかった。怪我するのは痛いし、絶対に好んでは嫌だからね」
「それなら、いい」
まだ納得いっていないような顔をしているけど、それでも頷いてはくれた。これで少しは安心だろう、琴平も闇命君の前では嘘つけないし。
行こうか、多分今回も簡単にはいかないだろう。靖弥が絡んでいるのなら、今もどこかで見ているかもしれないし、もしかしたら会えるかもしれない。
琴平と頷き合い、走り出す。水歌村の出入り口付近、森に近い箇所が一番気配が強い。何かいるのは確実、いや。何かではない、確実に羽織の少女だ。
今回で、必ず倒してやる!!
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