暴走と涙

視野と思考

 タンポポ畑で作った花冠は、陰陽寮の掃除などをしていた巫女さん達に配って歩き、あとは部屋で休むことにした。

 紅音達は自身の部屋に戻り、俺も借りている部屋に戻る。その時、一度も琴平と水分さんに会わなかったな。一体どこにいるのだろうか。


「部屋にもいないとなると、二人は一緒にいる可能性の方が強いかな」

『それはどうだろうね。水分は知らないけど、琴平はもう戻ってきてもおかしくないはず。琴平自身が僕の心配をし始める頃合い』

「そうなんだ…………」


 琴平なら確かに心配しそうだな。いつも必要以上に闇命君を気にしているし、ここで待っていれば戻ってくるかな。探しに行ってすれ違いになっても困るし、待っているしかないか。


 でも、ただ待っているだけでは落ち着かない。こうしている間にも、靖弥は動いているかもしれないし、何かを始めているかもしれない。

 なにかが起きてからでは遅い、起きる前に対処しなければ…………。


『…………優夏』

「何、闇命君」

『焦るものではない』

「っ、え」

『焦ったところで意味はない。心に余裕がない者が、戦況を動かせるはずなし。いつでも、大事なことは視野を広くし、思考し続ける事。諦めてしまわぬよう、諦めるという思考すらかき消すほど頭を回せ。もちろん、柔軟にな』


 これ、闇命君の言葉? いや、違う。これは闇命君の言葉ではない、口調も違うし。何で急にこんなことを言いだしたんだ。


「これは、父さんの言葉だよ。父さんはよく、視野を広くし柔軟に物事を考えろと言ってきた。そして、自身が一つの答えを出したとしても、それに縛られることはせず、次々可能性を考え続け、生きてきたみたい』


 半透明の闇命君が、俺を横目で見ながらも腕を組む。光る瞳に目線を逸らす事が出来ない。闇命君は今、何を思って口にしているのだろう。何を考えているのだろう。


「闇命くっ―――――」



 今、何かが来た――……



『気づいた?』

「うん、行こう。村の方だ!!」


 急いで立ち上がり廊下に。紅音達も今の気配に気づいたのか襖を開き飛び出してきた。


「闇命様! 優夏!!」

「紅音達も気づいたんだね、行こう!!」

「はい!!」


 っ、そうだ。


「魔魅ちゃんは夏楓と一緒に待機してもらってもいいかな」

「っ、え」

「私もですか……」


 魔魅ちゃんは顔面蒼白、夏楓も困惑しながら俺を見てくる。


「うん。今回のは正直守りながらの戦闘は無理だと思うんだ」

『今までも出来ていなかっつけどね。今回に限らず、守りを意識しながら責めるのは難しい。魔魅は戦闘要員でないし、夏楓も相手が強敵な場合は戦闘に出すのはこちらとしても気がかりだ。なら、逆に陰陽寮で待機してもらった方がいい』

「ですがっ──」

『感覚が麻痺っているのかもしれないけど、ここには巫女が今も陰陽寮を駆け回っている。水分は気配が強い方に行くだろうし、こっちの守りが手薄になってしまう。もしもの時、巫女を守れるのがいなくなってしまうんだ。普通は戦えないからね』


 最初の余計な言葉はさておき、確かにその通りだ。

 紅音と夏楓を基準と考えてはいけない、二人が別格なんだから。

 前は相手が弥来さんが相手だったのと油断していたからあんな事態になってしまった。本当は一緒に居たいけど、それは今回ばかりは難しいし。


「…………分かりました」

『魔魅も、陰陽寮を守って欲しい。呪いは使えないとしても、結界とかは張れるでしょ?』

「…………」


 魔魅ちゃんが判断に迷っている。闇命君の言葉に納得はしたけど、助けたいという気持ちもあるんだろう。優しい子だ。


「魔魅ちゃん、俺達は大丈夫だよ。逆に、陰陽寮が危険にさらされている状態という方が、俺としては集中して戦えない。だから、守ってくれるかな?」


 陰陽寮の事はまるっきり考えていなかったけど、俺。闇命君が言って納得してしまったよ。


「…………必ず、戻ってくる?」

「うん、約束」

「わかった」


 まだ渋々と言った感じだけど、頷いてくれた。いつも我慢ばかりさせているな、申し訳ない。本当に、ごめんね、魔魅ちゃん。


「それじゃ、行こう」


 さっきから村の方、頭に何か重いものがのしかかる感覚がビシビシと。威圧感とも呼ばれるような、嫌な気配が流れている。

 体から自然と汗が滲み、流れ落ちる。体が勝手に焦り先走る、気持ちばかりが焦ってしまい、体と離れてしまいそうだ。


 もっと早く走ってくれ俺の身体、もっと早く向かってくれ、闇命君の身体よ。


『優夏、雷火を人が乗れるくらいの大きさに出して。もう法力はだいぶ戻ってきたでしょ』

「っ、そうだね。紅音は後から来て、二人分はさすがにまだ厳しいから」


 紅音は小さく頷いた。反応を見て、すぐに雷火を大きめに想像し出し、背中に跳ぶ乗る。


「雷火、気配の強い方に急いで!!」

『キュイィィィィイイイイ』


 振り落とされないようにしっかりと雷火に掴み、風の抵抗を少しでも和らげるため体を水平にするように屈む。

 雷火は俺の言葉に反応し、スピードを上げた。


 うっ、体に圧がかかる、吹き飛ばされそう。でも、しっかりと掴んでいれば問題はないだろう。それより早く辿り着かなければならない。あの、強い気配の元に。


「この気配は、もしかして」

『そうだね、屍人を使っていた羽織の女の気配だ』


 またしても村を狙いにやってきたのか、それか違う人が狙いなのか。誰が狙いだろうと、必ず倒す。そして、なんでこんな事をしたのか聞かなければならない。


 水歌村の人達は避難済みだから気にしなくていいだろう。水分さんも移動しているのだろうか、気づいているか。琴平は大丈夫だろうか、危険な目にあっていないだろうか。


 琴平に早く会いたい、不安で仕方がないよ。やっぱり、一人にするんじゃなかった。今どこにいるのかさえ分かれば、式神を飛ばすのに。羽織の女の気配が強すぎて絞る事が出来ない。


『すぐに村につく、焦ることないように行動してよ。視野を広く、思考を止めるな』

「わかってる、視野は狭くしないよ。考える事も止めない、必ず目的を吐き出させる」


 同じことを繰り返させないように、関係ない人を巻き込まないように。

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