夜空

 暗雲が月を隠し、冷たい風が周りに立ち並ぶ木々の葉を揺らす森の中。

 霧雨が降っており視界が悪い。霧も漂い、普通に歩くのも難しい中、木々に囲まれながら一人の青年が頬を濡らし立っていた。


 青年はフード付きの羽織りで顔を隠している。雨を気にせず、空を見上げ続けていた。フードから見え隠れしている瞳は虚ろで、何を映しているのかわからない程濁っている。

 暗雲を見上げ続けている青年に、人影が近づいて行く。だが、足音は全くせず、気配すらない。降り続いている霧雨が、人影の存在を隠しているように感じる。


「何をしている?」

「…………いえ」


 皺がれた声が雨の音と共に青年の耳に届く。

 いきなり聞こえた声に驚きもせず、短く返事をした彼は見上げていた目線を人影へと移し、歩き出した。


「何か気になるものでもあったんじゃないのかい?」

「いえ。ただ、考えていただけです」

「そうか。これから行おうとしていることは、今までのようにはいかない。そういう時間も必要だろう」

「はい」


 歩き出した青年の背中に声をかけ、そのまま二人は森の中を歩き始める。先ほどは足音すらなかった空間にカサカサという葉を鳴らす音が響き、雫が重力に従い地面へと落ちる。


 徐々に雨は止み、視界が晴れる。森を抜ける事ができ視界が開かれる、瞬間。遮るものがなくなったため、風の通りがよくなり突風が吹き荒れた。その際、青年が被っていたフードが風に煽られ、後ろへと流れてしまい彼の顔を露わにした。


「大丈夫か、

「問題ありません、道満どうまん様」


 セイヤと呼ばれた青年は、取れたフードを被り直そうとする。だが、何かを感じ、雨が止んだ夜空を見上げた。

 雲が風と共に横へと流れ、夜空いっぱいにちりばめられている星がセイヤの濁っている瞳に映る。そんな中、大きな満月が二人の立っている森を照らしていた。


 夜空を見上げている青年は、まだそよいでいる風で肩まで長い茶髪を揺らし、濁っている茶色の瞳で、満月を見続けていた。


「安倍闇命を──……」


 その言葉にはどのような感情が込められているのか。今の青年の表情では分からない。


 そのまま彼はフードを被り直し、先程”道満様”と呼んでいた人物の隣へと移動し、無言のまま闇に溶け込むように姿を消した。

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