約束

「──と、こんな感じです」


 ひとまず、俺がわかっているところだけ話した。

 転生前、靖弥とは友人だった事、村の中で靖弥と再会したが別人のようだった事。意識を飛ばす前、聞き覚えの無い声が聞こえた事。


 話が終わると、闇命君含め三人は顎に手を置いて、黙ってしまった。

 今は立場的に敵だから、友人だったと言っても複雑だろう。紫苑さんなんて寮での立場があるし、靖弥を倒さないといけない。


「なるほど。それは少し、めんどくさいねぇ」


 はっきり言われた……。でも、俺もめんどくさいと思う。敵だけど、友人だから。助けたい。


『本当にめんどくさいね。普通に殺っちゃえばいいじゃん。友人だろうとなんだろうと。今は君を裏切っているんだからさ』


 闇命君の冷たく言い放たれた言葉が俺の心臓に突き刺さった。痛い……。物理的にお腹を刺された時より痛い。血が出てないか確認した方がいいかな……。


「裏切っているは、また違うと思うよ闇命」

『違う? なんで。結局殺そう事したじゃん。僕の体だとしても、名前を呼んだ時点で知り合いかもしれないという事は、頭の中で過ぎるはず。でも、躊躇なく殺しに来た。記憶がなかったとかそういう事を言いたい訳?』

「それも考えられるね。まぁ、今何を考えても仕方が無いよ。事実を確認する手段を、私達は持っていないからね」


 確かにそうだ。今ここで何を考えたところで、それを答え合わせ出来る物が無い。時間の無駄だろう。


「紫苑様、これからどういたしますか」

「そうだね。今は、とりあえず相手の情報が欲しい。しかし──」


 紫苑さんはそのまま口を閉ざしてしまった。けど、言いたい事は分かる。


 ここでは思うように動く事が出来ない。

 相手の事を知りたくても、外に出るだけで色々考えなければならないし、いつも紫苑さんと一緒に居るわけにもいかない。

 依頼として外に出る機会があったとしても、それは監視の目があってだ。調べ物とかは不可能。


 本当に厄介な寮だな、逃げ道がない。早く改変がしたい。


 んー、どうにかして自由に動ける方法は無いだろうか。せめて、自由な時間がもっと欲しい。そして、監視をやめて欲しい。何もしないって俺……。


『琴平は、外の世界を知ってるの?』

「外の世界ですか? 確かに、依頼などで様々な場所に行きましたが、詳しく知っている訳ではありませんよ。依頼が終わればすぐに連れ戻されるので」

『ふーーーん。なら、紅音や夏楓はどうなの』

「そうですね。俺よりは知っているかと。よく、食料品や日用品を買いに出ていますので」

『ふーーーーーーーーーん』


 え、何その会話。何を考えてるの闇命君。しかも、聞いておいて「ふーーーん」はないでしょ。しっかりお礼を言いなさい。


 ん? あれ、なんで俺を見てるの? 俺、何も打開案出せないよ?


「────闇命君、いくらなんでも無謀じゃないかい? 今考えている事を行動に起こすのは」

『無謀を無謀じゃなくするのがあんたの役目じゃん。しっかりと立場を利用して僕達の為に頑張ってよ』

「無茶を言うね」


 え、二人は何かで通じ合っているの? 詳しい話をしないで会話が進んでいく。俺なんてなんにもわからんぞ、教えてくれよ。


「…………この陰陽寮を出るという事でしょうか、闇命様」

『それが一番手っ取り早いでしょ。ここには邪魔な奴が多すぎる。なら、その人達を排除するより、僕達が出て行った方が手間もかからない』


 え、ま、じか? この陰陽寮は切り捨てて、自分達は別行動するってこと? でも、そんなことしたら、この陰陽寮に残された人達は今までと変わらないじゃ……。それに、宛はあるのか?


『宛はない。だから今すぐではないよ。準備が整うまではここに居る』


 そうなのか。それなら安心だけど、準備は一体誰が……まさか。

 さっきの会話からして準備する人って、確実に紫苑さんだよね。立場的に確かに動きやすそうだし。

 紫苑さんは口元に笑みを浮かべているが、心底面倒くさそうな顔色をしてる。めっちゃ青いですが大丈夫ですか。


「…………はぁ。仕方が無いね。協力すると言ってしまった以上、やるしかないか」


 あ、マジか。絶対に断られるかと思った。やっぱり、上司を味方にすると心強いね!!!


「その代わり、貴方達には複数の依頼をこなして頂きます」


 …………だよね。優しいだけで上司になれるはずがない。分かっていたさ。

 琴平も闇命君も分かっていたようで、ゲンナリ顔を浮かべている。


「えっと。複数の依頼とは具体的にはどのような内容なのでしょうか」

「これを確認した方が早いかな」


 紫苑さんは、汚部屋を見回し何かを探し始めた。

「これじゃない」「おや、こんな所にあったんだねぇ」「ここでもないか」など、不安げな言葉を漏らしながら床をまさぐっている。何を探しているんだ?


「あ、あったよ。この封筒の中にある資料を、まずまとめて欲しい」


 と、言いながら渡された封筒はきっちり三つ。しかも、どれもパンパンに詰められて今にも爆発しそう……。


「これ、爆発しません?」

「爆発したら責任もって拾ってね」

「キヲツケマス」


 こんなのが爆発したらとんでもない話だ。慎重に扱おう。


「その中に、今までの依頼内容が記載されている。後回しでも良いと思っていたものもあるから、全て片付けておいてくれるかい」


 …………ん? え、これ全部もしかして依頼? これを全て俺達でやるの? 嘘だろ?!!


 琴平と闇命君の方を向くと──あぁ、二人も俺と同じ事を考えていたらしい。

 顔を真っ青にして封筒の中身を確認しているし、闇命君は怒りで体を震わせている。当たり前か。この量を三人でなんて……。


 一枚、封筒から取り出すとA4サイズの紙が出現した。

 その紙には、空行など挟まず文字がズラァァァァァァと並べられているし、それ一つ一つ確認してみると「猫探し」「子供が泣き止んでくれない」「家の修理」「夜に物音」などなど。


 いや、猫探しや子供は絶対に陰陽師関係ないし、家の修理は専門業者に頼め。夜に物音なんて俺の世界じゃ気にする問題じゃなかったぞ!! どうせ空気の圧とか湿気とかだろ!!!


「これ、本当に全部やらなければならないのですか……?」

「しなくてもいいよ。そうなると、私も協力しない。それだけだからね」


 あぁ、なるほど。闇命君がこの人を嫌っていた理由がやっとわかった。

 この人、自分の得になるような事しか手伝わないんだ。そう言う餌を持ち続けるタイプの人か。

 陰陽頭より話は通じるのかもしれないけど、これはこれでめんどくさいな!!!!


「どうするんだい、優夏君」

「そこで俺の名前を呼ばないでくださいよ……」


 もう……、やるしかないでしょうよくそがぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!

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