死絡村
藍華
村の出来事があってから二ヶ月ぐらいが経った。
俺の怪我も完全に治り、熱も下がり体も元気。力も戻り、闇命君も半透明な姿を維持できるところまで回復した。だから、今はもうほぼ毎日のように文句を言われている。正直、心が折れそうだよ。
そんな生活を送っていても、頭の片隅にあるのは、いつも靖弥について。あとは、どのように陰陽寮を変えていくか。革命を起こしたいけど、まず仲間が欲しいし。闇命君達の説得―――達というか、闇命君を説得出来れば琴平達なら協力してくれそう。
「うーーーん………」
朝ご飯を食べながら考えても、お味噌汁の香ばしい匂いや食器のカチャカチャとなる音で集中出来ない。だって、お腹空いているんだもん!!!
なんでいつも朝早いのに、朝ご飯はこんなに遅いんだよ!!! こんなの体に悪いに決まってるじゃん阿保じゃないの!?
まぁ、その生活も少しずつ慣れてきたからいいけど……。
もそもそと食べていると、琴平はもう食べ終わり食器を片付けに行ってしまった。早いなぁ、相当お腹空いていたんだな。
ご飯を食べ終え、食堂を後にする。琴平と行動するのはもう当たり前のようになっているから、周りの人もそこまで怪しまなくなってきた。いや、最初からそこまで怪しまれていなかったなぁ。普段から一緒にいるって事だよな。ズッ友かよさすがだわ。
「琴平、この後はどこに行くの?」
「二ヶ月前に起こった村火事の詳細がようやくわかったらしく、それを聞きに行こうと思っている」
あぁ、確かにそれは聞きたいな。
「なら、紫苑さんの所?」
「あぁ」
こういう時はやっぱり紫苑さんの所が一番いいよね。立場的のもあるけど、何よりあの性格。この陰陽寮上司組の中では一番話しやすい。
そのまま俺達は静かな廊下をひたすら歩き、紫苑さんの部屋へと向かった。
☆
「待っていたよ」
部屋の中に入ると、紫苑さんが優しい微笑みで出迎えてくれた。部屋内は、相変わらず汚い。座る場所あるのかこれ。
資料らしきものが床を覆っているし、筆や墨で壁やその資料が汚れてますが……。これ、掃除するのってもしかして巫女さん達の仕事? あぁ、紅音と夏楓。ドンマイ。二人が掃除するかは分からないけど。
とりあえず座る場所を作り、俺と琴平は紫苑さんの向かいに正座する。服が汚れないか不安だな…………。
「では、まずわかった事からゆっくりと話そう」
数枚の資料を片手に、紫苑さんは話し出してくれた。
「今回の村火事の発端は、やはりヒザマの仕業みたいだね。あの件より前から火事は多発しており、四季さん以外の人達も火事には敏感になっていたらしいよ」
そういえば言っていたな。村の中で何件も火事が起きていたと。
「しかし、そのヒザマを利用した人物が二人浮上している。一人は蘆屋道満の子孫にあたる、
蘆屋、藍華? え、蘆屋道満じゃないの。それに子孫って──
「そして、もう一人は──
っ。靖弥。やっぱり、あいつは靖弥だったんだ。でも、なんで道満の子孫と一緒に……?
「今名前として挙がっている二人がヒザマを利用し、村火事を起こしたと考えられる」
「なぜ、あの村を狙ったかは分かっていないのでしょうか」
「狙った理由は、安倍家の掃滅だろうね。昔からの因縁らしい」
琴平は顎に手を当て考え込んでしまう。
安倍家の掃滅か。安倍晴明に恨みを持つ蘆屋道満なら有り得そうだな。でも、なんでそんな強い恨みを持ってしまったのかも分からない。それも、代々受け継ぐほどに。
「とりあえず、この二人についてはまだ調査を続けるつもりだよ。今の情報ではこれが精一杯」
「そうですね。ですが、蘆屋家の者が絡んでいるという情報は大きかと」
「確かにね。いつもはしっぽを掴ませないのに、今回は何か企んでいるのかな」
…………え、あぁ、俺? 紫苑さんがいきなり俺の方を見てきた。
まぁ、だよね。多分、琴平から話は聞いているだろうし……。
「もうそろそろ、詳しく話してもらってもいいかな。忘れていないよね?」
「はい。忘れたくても、忘れられません……」
ずっと肩に乗って、静かに話を聞いていた闇命君が床へと飛び降り、姿を現した。
「おや、どうしたんだい?」
『別に。僕ももっと詳しく聞きたいと思ってね。鼠の姿だと集中出来ない。ただ、それだけ』
闇命君は俺の隣に座って、ムスッとした顔を向けてきた。
あ、なるほど。この顔はあれだな。『僕の顔でそんな表情浮かべないでくれる?』と、言いたいらしい。もう、表情だけで分かるようになってきたよ。
「えっと。蘆屋道満──じゃなくて、えっと。蘆屋藍華さんは、俺も姿を見ていないので何も言えませんが、靖弥の事なら、少しだけ……」
「なら、そのセイヤという者について話してもらってもいいかな」
「はい」
この後俺は、この異世界に来る前と、村であった出来事を詳しく話した。
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