安倍晴明
「やめっ……」
それをまともに食らってしまうと、靖弥が死んでしまう。
やめてくれ。やめてくれ!!!
「やれ、
『仰せのままに、ハッ!!』
女の周りに現れた
「当たらん……」
靖弥は琴平の式神、氷柱女房の攻撃を全て交したり、刀で弾いたりして怪我は負っていない様子。はぁ、このまま避けてくれ。
『小癪な真似を…………』
氷柱が当たらない事を悟った百目。自身が仕留めるというように刀を鞘から抜き、ゆっくりと構え靖哉を睨む。
「百目……やめっ──」
こんなか細い声は届かず、百目は地面を蹴り、一直線に靖弥の元へと向かってしまった。気付いた彼は、俺を刺した刀で受け止める。
「主の言う事を聞かぬか。貴様はそれでも式神か」
『貴様に言われとうない。誰のせいで主はあのようになってしまったと思っている。責任は果たしてもらうぞ』
一度百目は距離をとるため後ろへと下がり、再度刀を構え始めた。息を整え、集中力を高める。
空気感が今までとはまるで違う。本気で殺るつもりだ。
「優夏、今すぐ止血する。あともう少し、頑張れ」
「こ、琴平。あいつは、俺の──」
「…………あいつは敵だ。倒すべき相手だ。情をかけるな」
「違う、あいつは、俺の友人だ」
琴平が哀れみの含まれた目で俺を見てくる。やめろ、なんでだよ。
「お前の友人は、お前を刺し殺すような奴なのか。そんな事を平然とする奴なのか?」
「…………」
違う。今は何か事情があるはずなんだ。
言い訳を頭の何で呟き続けていると、俺の手に握られていた百目の御札が燃え、チリになった。まさか…………。
「完了した」
静かで冷徹な声が、水音と共に響いた。
靖弥が百目を斬った。百目が、負けた。俺が、法力を送り込んでいなかったからか。でも、靖弥が無事で良かったと思っている自分もいる。
あぁ、ダメだ。瞼が重い。目の前が白くなっていく。眠たい……。
「こちらも完了したらしいのぉ。お主をこの世界に呼び寄せたのは間違いではなかったらしい。これからもワシの
誰の声…………だ、にん、ぎょう…………。だめだ。もう、限界、だ……。
☆
「…………ん、ん? え、ここ、どこ……?」
なんだここ。真っ暗? 地面、天井、壁などを確認する事が出来ない。浮遊感もある。地面に足が付いていないからなのか、正直気持ち悪い。酔いそう。
「なに、夢?」
『夢──という捉え方は間違えていないですね』
なっ、声。どこからだ。
後ろを見ても誰もいないし、下、右、左、上──居ないな。え、どこから声がするの。怖いんだけど!!!!
幽霊!? 幽霊じゃないよな?! おい!! どこだぁぁぁぁあああああ!!!!
『ここですよ』
「だからどっ、わぁぁぁぁあああああ!!!!!」
目の前に無駄に整った顔ぉぉぉぉおおおお!!! って、狩衣? それに、頭には帽子……
「えっと、貴方は?」
『私は安倍晴明。貴方の体、安倍闇命の先祖にあたる者です』
あぁ、なるほど。闇命君の先祖ね。はいはいりかっ──はい??
え、今この人安倍晴明って言った? はぁ?
安倍晴明って、陰陽師最強って呼ばれていた人だよね? なんでそんな人がここに。いや、それよりなんで俺の目の前にいるの。待って、凡人な俺の頭じゃ理解出来ない。ちょ、
『困惑するのは当たり前です。ですが、時間がありません。話を聞いていただけますか』
「あ、はい」
安倍晴明さんにそう言われては頷くしかない。それに、その黒く染っている瞳は、俺の全てを覗いているように見えて、なんか気まずい。早くここから出たい。
『貴方は、
あしやどうまん? え、そんな人と出会ったっけ。嘘、記憶にございませんなんだけど。誰だ。
『蘆屋道満は、私が生きていた頃、よく一緒に行動しておりました。ですが、何かが原因でその絆にヒビが入ってしまい、そのまま崩れてしまったのです』
あ、疑問を問いかける前に次の話に進んでしまった。まじか。と、とりあえず話を理解しないと。
えっと、つまり。蘆屋道満って人は安倍晴明と友人的存在だった人。その蘆屋道満は、安倍晴明に対して何か思うところがあり、離れてしまったと。
友人、か……。
『私の子孫が短命なのは、力と引き換えにという訳ではありません。それは、蘆屋道満から受けてしまった呪いなのです。私はその呪いを解く事が出来ず、死んでしまいました』
え、マジか。ここで真実を聞く事が出来るなんて思わなかったな。
「その呪いを解く方法はあるんですか?」
『方法はたった一つ。蘆屋道満の命を絶つ事です』
っ、命を絶つ。つまり、蘆屋道満を殺すということ。でも、おかしくないか。
最初の言葉もそうだが、なぜ安倍晴明は死んでいるのに、ずっと一緒にいたという蘆屋道満は生きている。
安倍晴明が戦死だったとしても、闇命君やその親など。年齢を考えると生きていること自体おかしくはないか?
『蘆屋道満が今も生きている理由。それは、私の子孫達の寿命を自身に取り込んでいるからです』
『それだけでは無いですが──』と最後に付け足し、安倍晴明はバツの悪そうな顔を浮かべ、簡単に説明してくれた。
「その蘆屋道満と言う奴を倒さない限り、闇命君にかけられた呪いを解く事は出来ないという事ですか?」
『左様でございます』
今までの話、まとめると単純に、先祖の戦いが子孫にまで及んでいるという事だよな。これは安倍家は知っているのか、知っているんだとしたら、何故何もしないのか。行動を起こさないのか。
いや、今まで、少しだけだけどこの世界で生活してきて分かったことがある。
ここの人達は皆、自分勝手だ。自分の利益となる事なら手を貸すが、利益にならないのであれば簡単に切り捨てる。それがたとえ、小さな子供だとしても。たとえ、何もできない女性だとしても。上位の人達は簡単に見捨て、簡単に切り捨てる。
一つ、やりたい事があっても遠回りしなければならない闇命君の立ち位置、周りからの当たりの強さ。蔑むような視線、自由のない環境。まるで、羽を広げたくとも広げる事が出来ない、籠の中に閉じ込められた鳥のような生活。
闇命君には立派な羽があるというのに、それが環境、呪いによって広げられていない。それだけではなく、闇命君自身の性格も環境により歪み、子供ではありえない思考になっている。
なぜ、このような環境になったのか。これは昔からなのか。いや、それも気になるが、蘆屋道満の考えもわからない。
何故、安倍晴明を裏切ったのか。なぜ、呪いをかけたのか。
今の俺には、わからない事しかない。靖弥に関してもそうだ。なぜ、蘆屋道満についているのか。なぜ、俺達に攻撃を仕掛けたのか。
なぜ、俺を刺したのか。
この世界の人達は自由に生きているのに。自由に生きて、自由に人を切り捨て、自由に人を呪っているのに。なぜ、一番の被害者である安倍晴明や闇命君は籠の中に入れ込まれないといけないのか。
「納得、出来ない」
少ししかいない俺でもわかる。この世界は、理不尽だ。
大人は、実力主義だと子供を利用し、使えなくなったら捨てる。子供は、自分が天才だからと力を使い、周りと馴染めず一人で過ごしてしまう。
俺のいた世界では、大人が当たり前のように教えていた事を、この世界では教えられない。
どうにか出来ないのか。この世界の常識を、陰陽寮の空気を。
闇命君を、助けることは出来ないのか。俺に、何かできないか。
『やはり、貴方を選んで正解でした』
「っ、え? なんですか、いきなり……」
なぜか安倍晴明が笑みを浮かべ、俺を見てきた。
『あなたならこの世界を変えられるかもしれません。歪んでしまった世界の常識を、変わってしまった陰陽寮を。今の世界は闇に落ちてしまっています、底に光をもたらすのは、貴方のような人間の心がない人物なのかもしれませんね』
「ちょっと、俺を冷徹な人間みたいな言い方しないでください。それ、闇命君が言っていた言葉をそのまま言っているだけでしょう」
『おや、覚えておりましたか。関心です』
「馬鹿にしないでください」
まったくもう。
でも、そうか。安倍晴明が言うのなら、俺でも出来る事があるのかもしれない。
俺は、この世界を変えたい。変えて、闇命君のような人を少しでも減らし、自由に翼を羽ばたいてほしい。
「決めた」
『ほう、何をですか?』
「やり方とか、この世界についてとか。俺にはわからないことだらけです。それでも、俺はこの世界を変えたい。もう、闇命君や琴平、夏楓、紅音のような。何をするにも我慢しないといけない環境を変えたい。何も間違えていない人が苦しみ、間違えている人が自由な世界を、俺は変えたい!!」
闇命君に自由を、琴平に幸せを。夏楓に安らぎを、紅音に笑顔を。
俺には出来ないかもしれない。何をすればいいのかわからない俺になんて、出来ないかもしれない。でも、やりたい、やるしかない。
俺は、この世界に革命を起こしたい。そして、捕まってしまっている友人を助け、元の世界に帰る!!
『貴方の強い意思、受け取りました。いいでしょう。私も
それは本当にありがたっ──ん? 今まで通り? え、いや。でも、これは……。
「もしかしてですが、闇命君の直感というか。そういったものを教えていたのは……」
『はい。私でございます』
こ、これは…………強い味方がついていたのですね。もう負ける気しませんよ俺。だって、安倍晴明ですからね!? 陰陽師最強、めっちゃ有名な安倍晴明ですから!? もう、安心ですねぇぇぇええ!?!?!?
『ですが、やはり私が出来るのはお手伝いのみ。貴方達にお願いしてしまうのは心苦しいですが、どうか、ここで呪いの連鎖を断ち切り、この世界に革命を起こしてください。また、昔のように、皆で手を取り合い、自由な陰陽寮を、作り出してください』
「はい、出来る事を最大限に行い、やり切ります」
まぁ、欲を言えば、闇命君みたいに半透明でもいいから姿を出して、助言とか欲しいけど。さすがにそこまで言えないなぁ。
「あ、そういえば。あの、闇命君が自分の体に戻る事が出来ないと言っていたのは──」
『私が拒否をしているからです。蘆屋道満は今の少年では倒す事など出来ませんので。貴方の力も必要なんですよ』
「え、俺?」
『貴方の友人を助ける為にも、二人にはもっと強くなっていただく必要があります。頑張ってください』
決めた、決めたんだ。俺はこの世界に革命を起こし、友人である靖弥を助け、陰陽寮に自由を取り入れさせる。
『時間です。では、また会える日をお待ちしております。牧野優夏』
「え、なんで俺の名前──」
え、いきなり目の前が真っ白に!! 後ろに引っ張られるように背中から倒れっ――――…………
『これから大変になります。心を律して、諦めないでください』
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