友人
「百目、本当にこっちで合ってあるの?」
『問題ありません、今も追跡しております。距離は先程より縮まっています』
「そうなんだな。頼むぞ百目」
『…………はい』
あれ、今一瞬目が合った? なんか、複雑そうな表情をしていたように感じたな。
『ここを曲がればすぐです』
「っ、わかった!!!」
右の方に曲がり角。そこを曲がればこの村を燃やしたかもしれない人物がいるのか。
理由を聞かなければ、なんでこんな事をしたのか。もし違うのであれば、なぜここにいたのか。
「見つけたぞ人影君!!!!」
「っ!!!」
よしっ!! フードを被った不審者の目の前に出る事が出来た。
止まろうとするが、地面がぬかるんでいるため上手く止まれていない。チャンス!!!
「逃がさねぇよ!!!」
人影を捕らえるため手を伸ばす。が、上手く躱されてしまいその場に転んでしまった。くそっ。
来た道を戻ろうとする人影たが、すぐ後ろには琴平。戻る事が出来ない状態。
もう一度先に進もうと振り向いたが、そこには百目が刀に手を置き立っている。
「今度こそ、つっかまえたよ人影!!! さぁ、どんな顔しているんだ!!!」
人影の羽織りを掴み、抑える手を払い外させた。
「…………――――え」
な、なんで……。いや、ありえない。有り得るわけが、ない。あいつは、死んだんだよ。俺と一緒に、俺が助けられなくて。死んだんだ。
ありえない。でも、この顔は確実に……。
「せ、いや……?」
俺の前世。転生する前の一番の友人だった靖哉が無表情のまま、驚きで動けなくなってしまった俺を、見下ろしていた。
☆
『雷火、河童の水が届く距離まで輪入道に近付け』
輪入道はまだ式神にしていなかったから欲しかったな。もう、他の奴に取られてしまっているけれど。
にしても、輪入道は何がしたいんだ。村を燃やす事を目的としているのなら、もう終わったはず。なぜ主の元へと戻らない。他にも何か言われているという事か?
『ま、倒してしまえば問題ないよね』
雷火と河童か。河童がやられてしまえば輪入道を倒す事が出来なくなる。また新たに式神を出せばいいんだけど、今の僕じゃ出す事が出来ないし、気をつけながら攻めるしかないな。
『雷火、河童。炎の根源である輪入道を消しされ!!! 急急如律令!!!』
『キュィィィィイイイイイ』
『クエッ!!!』
雷火は輪入道の火の玉と炎の噴射を避けながら、徐々に距離を詰めていく。
光の速さで突き進む雷火。振り落とされないように、河童はしっかりとしがみつき耐え続けている。その間も輪入道からの攻撃が止む訳もなく、少しずつ息苦しくなってきた。
雷火の速さもあるだろうけど、一番の原因は煙だろう。
放たれる炎を避けたところで煙は残ってしまう。その煙を全て避けるなんて不可能。徐々に空気を汚染し、息苦しさが増していく。
『ゴホッゴホッ』
喉に張り付くような気持ち悪い感覚。視界も悪くなってきたな。でも、このまま近づく事が出来ればなんの問題も……はぁ?
おかしい。雷火の移動速度でも輪入道に追いつけない……? もう、河童の出番がきてもおかしくないのに。なんでさっきから距離が変わらないんだ。まるで、輪入道と僕達の間に、目には見えない空間が生まれているような。
無限に続く道を歩いているようだ、気持ちが悪い。
必ず、何か種があるはず。その種を見つけなければ、輪入道に近付けない。
『もしかして、術者は一人じゃない、とかか?』
ありえない話ではない。僕の住む陰陽寮達も複数人で行動が義務付けられている。他の奴らがまとまって行動しないなんて事は無いだろう。
輪入道を使役している人物はおそらく、今優夏が追っている者だろうな。なら、もう一人居るはずだ。ここの近くに術者の気配があるはずだ。
『…………なるほど、只者ではないね。今の僕では倒しきる事が出来ない。じじぃと同じかそれ以上の強さを感じる。それに、その気配は──』
輪入道から、感じる。
輪入道は式神。つまり、主の命令で術者を乗せている。今の僕と同じ状況。なら、輪入道だけでも最初に使い物にならないようにしなければ──っ!?
『っ、な、んだ。これ、ゴホッ!!!』
『キュ、キュイィィィイイイイ』
『クエッ!!!!』
な、まずい!!! なんだよこれ。腹に何かが突き刺さっている。このままじゃ、雷火と河童を保つ事が出来ない!!!
『あいつ、何へまやってんだ!!!!』
実態の方に何かしらあったのか、くそっ。せめて、雷火だけでも──は?
『……うそ、だろ』
体を襲う浮遊感。先程まで感じていた柔らかい感覚が無くなった。
────雷火が、式神に戻ってしまった。
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