イケメンなんて……

『あ、ちょっと待って。川天狗が消滅したという事は……』


 そ、そうだ。川天狗がいなくなってしまったという事は、輪入道はどうなった。


「闇命様ぁぁぁぁあああああああ!!!!!」

「ことっ──うわぁぁぁあああ!!!!!」


 下から琴平が叫ぶのと同時、火の玉が俺に向かって飛んで来てた?! 

 雷火が気を回してくれて自主的に避けてくれたから助かったけど、振り落とされそう!!

 河童なんて俺が腕を掴んでいなければ振り落とされてたよ。今も空中を泳いでいるような……いや。自分で雷火に捕まって!? 何俺が掴んでいるから大丈夫みたいな顔してるの!!!


「は、早くしないと逃げられる!!」


 さっきの人影がどんどん走り去ってる。このままじゃ逃げられちゃうよ。


『お前は下の人影を追え!!! 僕は雷火と共に輪入道を引き付けておく』

「どうやって下に降りるの?!!」

『だから、雷火を見くびるな!!!』


 闇命君が叫ぶと、雷火は急にスピードを上げ地面へ急降下。その間も後ろから火の玉が四方から飛んできて、いつ振り落とされてもおかしくない。

 

 上手く避けながら地面スレスレまで下がり、スピードを一瞬緩め──え?


『イケ』

「──ぶべら!!!!」



 ズシャッ



 …………くっそいてぇぇぇえええええ!! あのクソ餓鬼!!!! どうやって俺を落としたんだよ半透明なくせに!!!!

 いや、なんか浮遊感があったし、体が横に傾いた感覚があったな。

 つまり、雷火が俺を振り落としたと。雷火も俺の敵だったのか!!! 見損なったぞ!!


 あ、都合良く河童が居ない。雷火に残されたのか。


「って、そんな事を考えている時間はないな。鼻血が出ているみたいだけど気にしている暇はない」


 とりあえず服で拭って走ろう。人影はどこに行ったんだ。


 むやみやたらに走る訳にも行かないし、どうすれば……。


「優夏、無事で良かった」


 琴平が駆け足で来てくれ、流れるようにハンカチで鼻血を拭いてくれた。すごいねこのパパ感。手馴れているな。


「琴平!! 人影が村の中に」

「わかっている。村から銃声が聞こえていたからな。中には陰陽頭も入っている。そこまで気にする必要は無いだろう。実力だけは本物だからな」


 あぁ。確かにそうだな。実力があるのは認める。でも、違う。違うんだ。


「琴平、人を追跡出来るような術。又は式神ってない?」

「それなら、百目を闇命様は使役していてはずだ」


 百目…………。確か、全身に目が沢山ある妖だったよな。それで追跡って出来るのか?


「と、とりあえず出す。えっと──」


 なんて言えばいいんだろう。今までは闇命君が耳元で教えてくれていたから出せていたけど、今回闇命君は居ない。何て言えばいいんだよ…………。


 百目……百目……。


「…………『百目、村の中を彷徨う人影を見つけ出せ。急急如律令』」


 こんな感じだろ!!!!


 御札に法力を溜めそう言い放つ。すると、霧が出始めた。人影がモヤモヤと現れ、一人の男性が姿になった。


 身長は二十代男性の平均ぐらい。黒髪の短髪に袴。靴は何故か下駄。

 分かる、分かるぞ。百目というこの妖、貴様!!!!


『主の、仰せのまっ──』

「い、イケメンだぁぁぁぁあああああ!!」


 な、なんだコイツ。オーラがキラキラしてるぞ!!

 しかも、百目、百目だよな!? 前髪で左目を隠しているが、そこが百目になっているという事か?! なら、腰の刀はなんだ。まさかこいつ。刀も扱えるのか!?

 ふざけるなよ?! 俺なんて闇命君の体じゃなければ何も出来ない凡人だぞ。妖がなんで、こんなアイドルみたいに綺麗でかっこいいんだよこんちくしょうー!!!!


『? 主、なにを?』

「しかも色気のある声……。もう、どうなってもいいや……」


 イケメンなんて消え去ればいいんだぁぁぁああああああ!!!!!


「…………百目。村の中にある怪しげな人影を見つけてくれるか」

『主の従者の命ならば』


 あ、琴平が取り乱している俺の代わりに指示を出してくれてる。そういえば琴平もイケメンだったな。くそっ。どうせ俺は凡人ですよーだ。


 ま、今は不貞腐れている時間なんてないけど。

 百目は俺の代わりに指示を出した琴平の命に従い、村を見る。


『全ては、我の視界の中にある』


 隠していた左目を露にした百目の瞳は、右目とは違い赤色。右目の黒とは真逆で吸い込まれそうになる。

 そこから徐々に閉じられていたであろう目が開かれ始めた。

 右目の下から頬、首、肩、腕、手、足。徐々に複数の目が開かれ始め、ぎょろぎょろと周りを見る。

 百目はもっと視界を広げるため袖を捲りあげ、村を睨みつけた。


『────見つけました。顔を黒い羽織で隠しながら北に走っております』

「北か、ありがとう百目!!!」


 急いで百目が見つけた北に行かないと。


「あ、待て!! 優夏!」


 琴平の制止の声を振り払い、北に走る。地面が水で湿って、足が取られそうだ。転ばないように気をつけながら、あの人影を追う。


「どこだ、どこだ」


 胸騒ぎがする、早く見つけろと。脳から警告音が鳴ってる。


 何度も転びそうになるが踏ん張り、痛む喉などは気にせず。炎が消えた村を真っ直ぐ見続け、闇が広がっている道を突き進む。すると──


「いた。待て!!!!」


 ようやく人影を見つけた。百目の言う通り、羽織りで素性を明かさないように隠している。


『主、お任せ下さい』

「百目、何かあるのか」

『はい。こちらです』


 百目は道を逸れ左側に建っている建物の隙間へと入ってしまった。付いて来いって事か。


「優夏、俺はこのまま人影を追う。百目について行け!」

「分かった。琴平も気をつけて」


 お互い頷き、二手に分かれた。


 この嫌な感じ、勘違いであってくれ。

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