二人目の陰陽助
「あの、闇命様。お願い致します。体を、体をお返ししますので、どうか。どうか、慈悲を──」
『僕の体で情けない姿を晒さないでくれる?』
闇命君の体に触れようとしたが、実態が無いからスカッと通り過ぎてしまった。勢いを殺す事が出来ず、地面に四つん這いになってしまったよ、悲しい。それでも泣きながら助けを求めたのだが、意味はなかった。
「あ、あの……」
あ、四季さんの目の前でこんな茶番を繰り広げてしまった、恥ずかしい。
「え、えっと。とりあえずその村を見てみたいな。今から行く事って可能?」
「はい、私は大丈夫ですよ」
「なら良かった。琴平、俺達も行こうよ」
立ち上がりながら琴平に聞くと、なぜか難しい顔をされてしまった。
あぁ、まぁ。そう簡単に出られるとは思わなかったけどさ。やっぱり規則が厳しいのかな。
自分の権力を利用し、下の人達を動かしているようなじーさんだもんな。あれかな、外出届けとか必要なのかな。
「…………闇命様は、陰陽寮から出られないんだ。任務以外では……」
え、出られない? それって、この寮の規則が厳しいからとか?
「闇命様の力が強いのは知っているな」
「うん」
「今は大丈夫なのだが、その力がいつ我々に牙を剥くか分からない。そんなふざけた理由により、闇命様は出られないんだ。出るには必ず
「琴平達じゃ駄目なの?」
「俺達は陰陽師だ。位でいうなら中の上程度。その一つ上に
「へぇー…………」
えっと。つまり、琴平達が属する陰陽師は、会社とかで例えると主任とかになるのかな。その上に課長、副店長、店長。と、こんな感じか。
闇命君は力が暴走する可能性があるため、副店長と一緒に行動しなければならないと。
何となくわかった。わかったけど……。
「なんで副店ちょっ──陰陽助じゃないと駄目なの?」
「実力があり、もし闇命様が暴走したとしても力でねじ伏せる事が出来るかららしい。本当かどうかは知らん」
「知らん」と言っている琴平だけど、眉間に皺よってるし、怒っているのがひしひしと伝わってくる。
「なら、その厳格そうなクソじっ──陰陽助に言わないといけない訳だ」
あっぶな、心の声がこぼれるところだった。誰も聞いてはいなっ──
「そうだな。クソジジイに聞いてみないと駄目だな」
「あぁ。話す事も、存在すら否定したいクソジジイだが、仕方がない」
…………わざとだね!?
しっかりと聞かれており、琴平と紅音は真顔で考え込みながら言いやがる。いや、そんな真面目な表情で言わないでよ。
「なら、
『あぁ、あの猫じじぃか。あいつと話すの疲れるから嫌なんだけど……』
闇命君が琴平の言葉をものすごく不快に感じたのか、顔を思いっきり歪め猫じじぃと言っている。
猫じじぃってなに。猫が大好きなじーさん?
「しかし、話を聞いてくれるのはあのお方かと。それに、時間がもうないのではないでしょうか」
琴平の最後の言葉で、闇命君が折れ『…………分かった』と渋々承諾してくれた。
あの闇命君がここまで嫌がる猫じじぃって……。一体どんな人なんだろうか。少し怖いな。
☆
とりあえず俺達は寮に戻り、その際四季さんも一緒に付いてきてもらう事に。
先に帰っても、結局危険度が増すだけだから一緒に行動してもらうことをお願いした。
「それじゃ、あとは任せたよ紅音」
「…………………あぁ」
うわぁ、めっちゃ嫌そうな顔。しかも、俺が言っている事にも不満がありそうだな。眉間にめっちゃ皺寄ってんじゃん、ごめんて。
そのまま俺と琴平は、猫じじぃと呼ばれている人の部屋に行く。
琴平が言うには、寮の外には滅多な事がなければ出ない人らしいし、部屋からすら出歩こうとしない。
簡単に言えば、引きこもり。
そんなんでよく陰陽助になれたなぁ。堅物じーさんが許さないと思うんだけど。あ、あと陰陽頭も。
「ここだ」
琴平が立ち止まった所は、寮の中でも一番北側にあるため薄暗い部屋の前だった。
なんか、雰囲気あるな。薄暗いし、少し肌寒いから体が震える。襖は普通の大きさなのに、俺が今子供の姿だからなのか。ものすごく大きく見えて圧がすごい。
他の襖ではそんな事思わなかったんだけどな。やっぱり中にいる人は、すごい力を持っているという事だろうか。
力が無ければ、陰陽助になんてなれないと思うけど。
「中には、どんな人が……」
「そうだな。簡単に言えば引きこもり詐欺師だ」
その答えを聞いてなぜか少し安心した。いや、詐欺師は全然安心出来ないけど。
なんか、親近感が……。俺も休みの日とかは家で引きこもって、音ゲーのフルコンボとか狙ってたからなぁ。
「陰陽助、陰陽師の琴平です。今、お時間よろしいでしょうか」
襖の前で片膝をつき、琴平が中の人に問いかけた。それから数秒間なんも返答がないと思いきや、小さく掠れた声で「構わなくもないよ」という、どっちなんだと悩んでしまう返答が聞こえた。
「失礼します」
琴平はもう慣れているのか、迷うことなく中へと入るため、ドアを開ける。
「…………え」
部屋の中を見た瞬間俺は、ここに来た事を後悔しました。
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