作戦

 次の日、作戦を実行するため朝早く起き──いや違う。

 朝、青春を謳歌するため、琴平に優しく叩き起された。青春と言っても女性がいる訳ではなく、男ばかりの所で呪文を唱える事を言う。


 前回、闇命君にやらせないと言われたのに、まだ諦めていなかったのか。しかも、今回は俺がもう知ってしまっているからしっかりと、でも痛みがないように優しく腕を掴まれた。


 俺もあんな呪文を覚えろなんて不可能だし、肩に乗っている闇命様からの視線が痛かったから、渾身の一撃「やらないと、だぁめ?」と上目遣いで言ってやった。すると、琴平は固まって何も言わなくなり、俺の腕を掴んでいる力が緩む。

 その隙に逃げて、今は森の中。まだ辺りは暗く、風が冷たい。肌寒いな、早く寮に戻らないと風邪をひいてしまうかもしれない。


 早く、戻りたいんだけど。


「あちゃぁ。走りすぎて迷った……」

『ばっかじゃないの。琴平を撒いたところまでは良かったのに、なんで逃げた後を考えないかなぁ』

「うるさいな!!! つーか、陰陽師の敷地内だろここ。君は分からないの!?」

『どうして僕がわかるのさ、少しは頭使いなよ。僕は君みたいに行き当たりばったりじゃないからね。こうやって道に迷わないの、迷いそうな場所に行かないわけ。わかる?』


 こんのくそ鼠!!! 何でもかんでも倍で返さないと気が済まないのか!! 慣れてきたからいいんだけどさぁ。


「はぁ……」



 ────カサッ カサッ



「ん? なんか、足音聞こえない?」

『あぁ、確かに聞こえるね。これは、昨日の依頼人の女性じゃない? ちょうどいいじゃん。行くよ』

「え、いやなんでわかっ──」


 肩から降りてしまった鼠の姿の闇命君が、草木の中を駆けていく。小さいから見失いそうになるんだけど。


「…………あ」


 闇命君について行くと開けた場所についた。そこには、女性が俺の顔を見て驚いていた。いや、その顔をしたいのは俺も一緒なんだけど。こんな早朝にどうしたの?


「こ、ども?」


 それに驚いているのか。確かに子供がこんな所に居たら驚くよな。でも、俺より絶対に女性の方が気になるんだけど。

 服装はボロく、着物の袖などが破れている。後ろで一つに結んでいる髪もまとまりがなく、外ハネが酷い。家庭が貧しいのだろうか。頬も痩せこけており、体も心配だ。


「えっと。初めまして……?」


 近付き挨拶すると、女性も戸惑いがちに挨拶を返してくれた。


「貴方はなんでここにいるの?」

「はい。あの、陰陽寮にお願いしたい事がございまして……。もしかして、貴方も陰陽寮の方でしょうか?」


 なんでわかったんだろうと思ったつかの間、自分の服装を見て納得。狩衣着てここの付近をさ迷っていたら、誰でも陰陽師だと思うよね。


「うん、俺は安倍闇命。君は、もしかして昨日も来てた?」

「あ、はい……。追い返されてしまったんですが……」


 この人だったのか、昨日来ていたの。


「昨日はなんの話をして追い返されたの?」


 俺が質問すると戸惑った様子を見せてきたけど、俺が陰陽寮の人間だという事を考え、話し出してくれた。



 女性の名前は神楽坂四季かぐらざかしきさん。親と共に過ごしているらしい。

 家族とは仲が良く、そこまで不満はないらしいがどうもお金が無いらしく、貧しい生活を送っているみたい。


 自己紹介が終わり、本題に入ってもらった。


「家で普通に生活をしていると、時々目の端に何かが映る。何があるのか確かめると、そこには何も無く、空の瓶が置いてあるだけ。それと、最近では火事が多く、不安な生活を送っている、と」


 目の端に何か映るとかなら気の所為などで済ませられるかもしれないけど、近くで火事が多発しているのなら不安にもなるな。

 しかも、理由は全て『家事の後始末が悪い』との事。


 近くで火事が多発。一ヶ月の間でもう三回も起こっていると教えてもらった。それは、偶然という言葉だけで済ませられるものでは無い。

 一度火事が起きると、同じ事をしないように気をつけるはずなのに。


「ですが、これを話すと『それは我々の出る幕ではありません。お帰りください』と言われ、何を言っても聞く耳を持ってくれませんでした」


 四季さんは目を伏せ、悲しげに話を締めくくった。


 …………え、は、え? 受付は馬鹿なのか? 普通に陰陽師がやるような仕事に感じるんだけど。あぁ、もしかして火事の後始末だから警察とかそっち系の仕事と思っているのか? 馬鹿なのか?


「それは、確かに不安だね」

「はい。もしかしたら、次は私の家が火事になってしまうかもしれないです。そうなれば、お母さんとお父さんが……」


 不安げに目を揺らし、今にも涙がこぼれそうな表情を浮かべている。相当不安なんだな。

 俺がもし同じ立場ならどうだろうか。不安な時、頼りにしていた陰陽寮に追い返され、どうする事も出来ず、ただ不安な日々を過ごす。


 辛すぎるだろ。


『……──』

「ん? 何?」


 闇命君が俺のからっだを上り、耳元でボソボソと何か言ってる。何?


『この女、今日の夜、

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