挑発
俺達が黙っていると、襖の外から声が聞こえた。
『闇命様、琴平さん。お時間出来ましたので来たのですが、こちらにいますか?』
聞こえてきたのは夏楓の声。そうだ、仕事が一段落したら合流をお願いしていたんだっけ。
「あぁ。入ってくれ」
琴平が言うと襖が開き、夏楓と紅音が入ってくる。その姿はさすが巫女というもので。音を立てず、清楚な感じだ。
「どのようなお話をなされていたのでしょうか」
「先程、少しだけ厄介な件があってな。意見を頂きたい」
「厄介な件とは?」
質問してきた夏楓に、さっきの話を簡単に琴平が説明してくれた。
☆
「なるほど」
夏楓は琴平の簡単且つ、親切丁寧な説明に頷き、考え込んでしまう。
同じ話を聞いたはずの紅音の反応は、まぁ、うん。ほっとくのなんて当たり前だろうというように鼻を鳴らしてる。予想通りだよ。
「そんなもの、ほっとけば良いだろう。今までもそのようにしてきた」
迷い無く紅音が言い放つ。さすがだ、腕を組んで当たり前だろと目で訴えてくる。
今まではほっといてきたみたいだけど、やっぱり納得いかない。だって、分かっているのに、ここで知らないフリは駄目じゃん。守れるかもしれないのに。
「その事について納得していない奴がいるから、困っているんだ」
自分は関係ないみたいな言い方するじゃん琴平。琴平だって納得はしていないじゃん。人のせいだけにしないでよ。
琴平と闇命君が俺を見てくる!! やめて、俺を見ないでくれ!!!!
だって、ほっときたくねぇんだもん。それに、これで闇命君が言った通り大きな災いが起きてしまった場合、どうすればいいんだよ。
起きたあとじゃなく、事前に回避しないと意味なんてないだろ。
「納得出来ない気持ちは分からなくもない。だが、どうするつもりだ? 依頼されなければ内容自体ワタシ達には届かない。それだけではなく、ワタシ達も他の依頼を任される可能性があるのだぞ。簡単に出来る物では無い」
「そうですね。せめて、受付さえ出来れば──」
受付さえ、出来れば……。
そういえば、受付って巫女がやっているのかな。どういう感じなんだろうか。ローテーションとか?
「なぁ、その受付ってどんな制度でやっているんだ? 毎回人を変えてとか?」
「えぇ。ですが、三人の巫女が日替わりで行っています。それに私達は入っておりません。受付を変わる事なんて出来ませんよ?」
あぁ、読心術使われてる。なら、この場で言うのは正直躊躇するけど仕方が無い。
「なら、闇命君がその依代で依頼人の内容を──」
『なんで僕がそんな事をしないといけないの? 僕はその女がどうなろうと知った事じゃないの。大体、それは君がやりたい事なんでしょ? 他人を巻き込むのはお門違いなんじゃないの』
やっぱり倍で返ってくるよねぇ、そんな気はしていたよ。
闇命君も迷いがない。今までも同じようにしてきたみたいだし、やっぱりほっとくしかないのか。
いや、駄目だよ。諦めたらそこで全て終わってしまうんだから。
「お願い闇命君。今は君に頼るしか──」
『どんなにお願いされたところでめんどくさいし嫌だ。それに、その災いも大したことでは無いかもしれないしね。やるだけ無駄だよ』
ぐぅ、子供の癖に一筋縄ではいかないな。
子供、子供──あ。
「そっか。天才陰陽師である闇命君の勘でもそこまでは分からないのか。まぁ、そうだよね。なんだかんだ言っても子供だし、出来ない事があるのは仕方がないのかもしれない」
『────なんだって?』
お、食いついた。
「だから、闇命君の直感でも分からない事はあるんだなって思って。それに、天才なのに依頼人一人も救えないんだって思ってさ」
「貴様、なにをっ──」
紅音が俺に突っかかるように体を乗り出したが、琴平が途中で止めてくれた。夏楓が口に人差し指を置き鎮めている、助かった。
……不機嫌そうな顔して不貞腐れちゃった。ごめんね、紅音。
『そんな挑発に乗ると思う? あんたの考える事なんてわかりきってんだよ』
「挑発じゃなくて事実だろ? 最初闇命君は『大きな災いが起きる』って言っていた。でも、さっきは大したものでは無いと言っている。それって、自分の勘を信じていないって事だよね。なんだかんだ言っても、結局は勘なんだから、天才だろうと凡人と変わらず、間違えると怖いもんねぇ〜」
言い切ると、闇命君の額には青筋が立ち始める。効果は抜群だな。
『僕が、凡人と同じだって? ふざけた事言うなよ!! 大体あんたの方がただの凡人じゃないか。今は天才である僕の体に入っているから動きやすいと思うけど、普通はそんなんじゃないの分かってんだからね!!!』
うっ、結構心にくる事を簡単に言うなこの餓鬼。
「…………ゴホン。えっと、そ、それでもやりたくないんでしょ? それって、勘が外れた時恥ずかしいからだからなんじゃないの?」
『そんな訳ないだろ!! くだらない』
「そっかそっか。闇命君は外れた時が恥ずかしいから参加したくないのか。それは、仕方がないな。どうせ子供だし、そんな気持ちがあるのは当たり前だね、子供だし」
"子供"という言葉を強調しながらため息混じりに言うと、闇命君は徐々に顔を赤くし、その場に勢いよく立ち上がった。
『わかったよ。そこまで言うならやってあげるよ。でも、これはあんたの挑発に乗ったわけじゃないから!! 勘違いすんなよ凡人が!!!』
おぉ、上手くいった。けど、なんか、なんだろう。目が霞んできた、花粉かなぁ。
…………虚しいぞ、俺は虚しい。凡人言うなよ悲しいわ、事実なだけに。
『今回の件は色々めんどくさいよ。でも、途中でやめることは出来ない。せいぜい挫折しないように気を付ける事だね』
「そういわれると怖いけど、頑張るよ。助けたいし」
女性を助ける事が出来れば、俺は何でもやる。人が死ぬのなんて、もう見たくないし。
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