第7話 うさぎ、うさぎ、ゆめみてねむる

 『うさぎとかめ』を読み終え、いなばさんは布団の中へ入った。そして、考え事を始めた。


「ちょっとー、全然ダメじゃん! このうさぎさん」


 いなばさんが初めて『うさぎとかめ』を読んだ感想が、これ。そして、


「あんなマヌケなうさぎには、絶対になりたくない」


 自分の先祖を知って、いなばさんはそう思うようになった。先祖を知った後、しばらくの間、いなばさんは眠る前に涙を流す日々を送った。


「一体どんなかかれ方をするの? 変なかかれ方をされるなら、一生かかれたくない」


 いなばさんの『うさぎとかめ』のうさぎへの嫌悪感は、やがてキャラクターになることへの恐怖心を作りだした。そんないなばさんを救ったのが、


「私もいつか、こんなステキなキャラクターとしてかかれたい!」


 『かちかち山』に登場する、老夫婦と仲良しのうさぎであった。

 しかし『かちかち山』と出会ったその後も、いなばさんの自分の先祖に対する気持ちは変わらなかった。


「自分の先祖は一体何なのか。なまけてライバルに負けるなんて、本当にみっともない」


 むしろ嫌悪感はさらに強まっていったのだ。それと同時に、


「かかれるのは楽しみだけど、やっぱり怖い」


 かかれることの恐怖も増していった。




 キャラクターが人にかかれるパターンは一つに限らない。その人が最初に何を思いつくかによって、それは変わっていく。その代表的な例を挙げる。

  一つ目は「自分と、キャラクターになる前の自分の行動を思いつかれるパターン」だ。これは『かちかち山』のたぬきに当てはまる。自分というキャラクターだけではなく、自分がキャラクターになる前の行いも同時に、誰かの頭の中に浮かんでくるということだ。善行の多い者は正統派のヒーロー・ヒロインになれる可能性大だ。反対に素行の悪い者は、そのまま悪役としてかかれ、嫌われ者まっしぐらの道を歩むことになるだろう。

 二つ目は「キャラクターのみ思いつかれるパターン」だ。誰かがキャラクターのみ思いついた際、キャラクターになる前にどんな性格をしていても、「かかれ町」でどのような行動をしていても、そのキャラクターは作者の思うままにかかれる。単なるマスコットキャラクターになる際には別に良いと思われるが、ストーリーのあるキャラクターの場合は、良いと悪いがはっきり分かれるようなパターンだ。今まで良い行動をとっていた者が悪者としてかかれてしまうこともあるし、「かかれ町」で悪いことばかりしていた者が、みんなのヒーロー・ヒロインとなってしまうこともあるからだ。

 このかかれ方は、場合によっては一番ひどいかかれ方をされる可能性が高い。これは『かかれ町』でも問題視されているのだが、解決策はない。これは逆らえない自然なのだ。

 かかれ方のパターンを知った後のいなばさんは、自分がどんな風にかかれても良いようにと、一日一善や親切心を忘れずに行動することを心掛けるようになった。憧れに近づきたいという思いも強くなった。

 しかし、ごん太くんの話や、たぬきの講演会で、いなばさんに変化があった。

 どんなかかれ方だって、誰かにとって魅力的なキャラクターになることはできる。どんなキャラクターでも、物語を彩るという使命を果たすことができる。

 『うさぎとかめ』のうさぎについて「そんな風にはなりたくない」と思うことも、一つの感想だ。この時点で、人の心を動かすという、キャラクターとしての務めを立派に果たしているのだ。

 自分のご先祖様だって、人を成長させるような、立派なかかれ方をしている。

 誰かに何かを伝える力が、私にはある。

 いなばさんが抱いていた、自分のかかれ方(未来)に対する恐怖心。まだ完璧に消えたわけではないけれど、少し和らいだ様子。自分の先祖と向き合う勇気も出て、自信もついたようだ。そして、元気も出た。

 私はいつ、どんなかかれ方をされるのだろう。

 私はキャラクターになって、人をどんな気持ちにさせるのだろう。

 私は人を、どのように成長させるのだろう。

 そんな風にワクワクしながら、かかれるのは明日だったりして、なんてドキドキしながら、いなばさんは目を閉じた。

 いつかステキなキャラクターとして、かかれますように。


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かかれまち。 卯野ましろ @unm46

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