第17話 真、真実を知る

 娘は大学を休校、彼と一緒に暮らしているようだ。

 スマホのメールには、母子手帳を持って、大きなおなかが自慢げな娘の写真が送られてきた。

 仏壇の写真におさまっている妻にも見せてやる。

 大きくなったものだ。

 お腹の中の子供はで、女の子らしい。

 女子率が高いと、多数決で負けるから、彼もいろいろ大変だ。

 すでに名前は美瑛びえい深美ふかみと決まっているようで、着させる予定の産着にその名を刺繍してるとか。

 なんというか、ビーちゃんとフーちゃんなわけだ。

 思えば、娘が帰ってから姿を見なかったのは、娘のお腹に戻ったからなのかもしれないな。

 ふたりが何をしに来たのかは察するしかないが、大方、自分達の存在を死守する為だろう。

 あの子たちを見て娘の幼き頃を思い出さなければ、私は無情な判断をしただろうなぁ。

 生ける屍だった私を、生ける人間に戻してくれたから、あのように言えたんだろう。

 感謝しかない。

 そのふたりの予定日は来週末だ。

 昨日、その前後の有休を申請してきた。なぜとるのかと聞かれたからわけを話したら、肩をばんばん叩かれて受理された。

 私には見えていないものが、たくさんあったのだと気が付いた。

 ん、スマホが。

 娘からか。何か必要なものでもでたのかもしれない。

 どうした? なに? 破水した?

 どどどどどうしようと言われてもだな。

 私は今からそっちに向う。

 会社?

 わけを説明するさ。

 それよりも落ちついて、病院と彼に連絡をしなさい。

 やれやれ、予定通りにはいかないものだ。

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妻を亡くした私が貧乏神と福の神を拾ってから 凍った鍋敷き @Dead_cat_bounce

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