世界の半分をやろうって個数のことかよ?!〜魔王から三つの世界を譲り受けた勇者がポンコツ女神たちと綴る異世界創世記〜

すかいふぁーむ

短編

「はぁ……わかった。お前の力は十分わかった勇者よ、我と取引をせぬか?」

「命乞いか? 魔王」


 魔王城最深部、玉座の間。

 俺はついに魔王を追い詰めていた。

 勇者としてそれなりに旅をしてそれなりに感謝され、そしてようやく、人類の悲願、魔王討伐を果たそうとしていた。


「見たところ勇者リオンよ。お主はそこまでこの我に恨みがあるようには見えぬ。無理をして我を殺す必要などなかろう」


 魔王レギウスがそう問いかける。


「我の支配する世界の半分をやろう。増えすぎた魔族を匿うにはそれくらいの場所は必要だ。それとも勇者よ、我を殺し、統率の取れぬ魔族たちと永遠に戦い続けるか?」


 なるほど……。

 魔王は魔族とそうでないものを分けようとしているということか……。

 確かに明確に分けて、お互いにそれを統率できるうちは今よりずっと良い暮らしができる。

 人間の戦争と同じ。根絶やしにするのではなくこちらが勝利した上で降伏の条件を受け入れるというわけだ。

 悪い話ではない……。

 だが……。


「守られる保証はあるのか?」

「人間の信じる神の名のもとに契約を結ぶ」

「ほう……」


 魔族から神と来たか……。ならば信頼できる。実際俺も神託を受けてここまで来た、神は絶対。神の名のもとの契約なら、魔王とて魂を縛られるだろう。


「良いだろう。その条件を飲もう」

「話のわかる勇者で何より……では世界の半分を選んでもらおうか」

「選ぶ?」


 魔王の領地から好きな場所をもらえるということか。

 なら人間の領地に近いところから、なるべくなら金になる鉱脈なんかは……。


「さて、我は今六つの世界を支配しておる。どれが良い? 初心者にお勧めはこのアランダルという世界で、ここは火の精霊が住んでいるから他の世界を支配した時に使いやすい」

「そうか確かに火は大事……え?」

「それか、このリンデルという世界は亜人たちが住んでいる分馴染みやすいかもしれ──」

「待て待て待て待て! お前一体さっきからなんの話をしてるんだ!?」

「であるから、我の支配する世界の半分をやると、そう言ったであろう」

「個数の話だとは思わないだろ?! てっきり魔王領をもらうものだと……」

「なんだそれだけでよかったのか……まあだがこの契約はこの世界の神に誓ってしまったからな。今更取り消せぬ。良いではないか、お前なら良きオーナーとなろう」


 オーナー……。

 まさか勇者からの出世ルートがこんな形だとは思わなかった。


「ほれ、我も相談に乗ってやろう。なんせ我の支配する世界はどこも神たちがポンコツだからな」


 途端にフレンドリーになった強面の異形を持つ魔王に肩を並べられる。

 なんだこれ……。

 俺が刺した傷からまだ血が出ているというのに。


「はぁ……エクストラヒール」

「おお。ありがたい、お主につけられた傷は何故か治りが遅うてな」

「わけのわからない話になってきたんだ。説明の途中で死なれたら困る」

「ほうほう、我の美貌に惚れたわけではなかったか」


 誰が……。

 いやまあ確かに、顔が怖い以外は非常に美しい容姿とプロポーションではある。肌の色も違うし角も生えているけどな……。


「にしてもさっき神に向かってポンコツと言ったか」

「ぬう……無視か。まあ良い。ああこの世界の神にはそんなこと口が裂けても言えんぞ! これほど多種多様な種族をまとめあげ世界を崩壊させておらぬなど非常に優秀な神だ。オーナーが空席だったので支配してやろうと来たのだがお前を生み出されてこのザマだ」

「そんな経緯で……」


 俺は親もわからん身寄りのない身で勇者になんて祭り上げられたわけだが、そういうカラクリだったわけか。


「神とオーナーってのが違うのが意外だな」

「一緒のこともあれば違うこともある。いずれかが優秀でなければ世界はぐだぐだだ。みろ、この世界なんてスライムの出来損ないが蠢くだけだぞ。もはや世界と呼んで良いかも怪しい」

「おお……」


 魔王が取り出した球体の魔道具には謎の白いネバネバが蠢くだけの映像が表示されていた。


「ここの神は……」

「ほれ」


 そういうと魔道具の映像が切り替わる。

 そこに写っていたのは……。


「生きてるのか? これ」


 そこにいたのは枯れ果てたようにすら見える、やる気なさげに頬杖をついて寝転がったまま微動だにしないガリガリの老人がいた。


「知らぬ……だが神の力がなさすぎて我ではどうすることもできん。もらってくれるか?」

「勘弁してくれ」

「であろう。で、持ってる世界でましなのはこいつらだが……」


 そう言って画面を切り替えた途端……。


「勇者さま〜! 私の世界をお救いください〜」

「ちょっと! 抜け駆けしないで! 私の! 私の世界にも!」

「ふふ。2人ともはしたないわよ。神様らしく余裕を持って接しないと……」

「あんたが一番はしたないわよ! 乳を出すな! 乳を!」

「ごめんなさいね。無い神にはできないものね」

「殺すわ! 止めないでアリア」

「わーだめだって落ち着いてアランちゃん〜」


 バタバタと魔法球に三人の美女が現れた。


「これは……」

「我は動かぬ老人は良いがこやつらは煩くてかなわぬ……」

「お前これを押し付けるために……?」

「……考えすぎだ」

「他の世界も見せろ」

「えー! 勇者さま〜! 見捨てないでくださいー! 私の世界いつまで経っても獣しか増えないんですー!」

「それはあんたが火を使いこなせないからでしょ? 教えてあげるって言ってるじゃない」

「あらー? 貴方は火の精霊しか生み出せていないじゃない。早く生物を生み出してみなさいな」

「うるさい! ゴブリンランドしか作れてないリルドが偉そうに言うな! このゴブリン神め!」

「殺すわ……止めないでアリア」

「わー! 待ってくださいー!」


 仲がいいのか悪いのか……。


「というわけだが、どうだ? こやつらの世界を面倒見るというのは? ちなみにあとはアメーバの世界と魔族の世界と……」

「まともなのがあるのか?」

「いや……これは渡さん」

「なんで……」

「聞いても取らぬか?」

「保証は出来ないけど……」

「うう……」


 涙目になる魔王。


「わかったよ。取らないから教えてくれ」

「そうか! その……淫魔が増えすぎた世界だ」

「淫魔……」

「我は定期的にそこで魔術を学び……いや何でもない忘れよ」

「そこが魔王の生まれの世界ってことか」

「なぜわかった!?」


 言われてみれば魔王の露出が激しかったからだがどう伝えるべきか……。


「はっ! そうかお主ようやく我のチャームに」

「かかってない。というかチャーム使ってたのか? サキュバスの才能がないのか……」

「うがぁあああ! うるさい! 我は魔術の才能に長けておったであろう! 戦ったからわかるだろうに!」


 確かに強かったが……。

 サキュバス感はない。服装以外は。


「とにかくっ! 我はここで学ぶことがあるのだ。やらぬ」

「まあサキュバスの世界もらっても持て余すし故郷を奪ったりはしないさ」


 となるとこの三柱の神の世界の方が魔族の世界よりはいいか。アメーバは論外だ。


「わかった。この三世界を引き受けよう」

「よし。では手を出せ」

「こうか? っておっと……」


 突然俺の手に魔法球が落ちてきて慌てて抱えた。


「それがお主の世界の主人である証明。ほれ、三つやろう」


 次々に出てくるそれは、不思議なことに受け取らずとも空中で止まっていた。


「念じれば出るししまうのも同じだ。世界の拠点はどこでも良かろう。自分の世界には出入りが出来る。他の世界に行くにはその世界の神とオーナーの許可を得るか、宣戦布告をするかが必要だがな」

「なるほど」


 そうやってここにきたわけか。


「我は主にサキュバスの世界、ネイリーフにおる。ここへはお主の出入りを許可しておこうではないか」

「おお……」


 さっきもらったものより一回り小さな魔法球が出現する。

 これがネイリーフとの交流に使えるというわけか。


「我を呼びたければネイリーフに来ると良い。だが来る時は必ず先に呼びかけよ! サキュバスの世界に一人でくるでないぞ!? いいな!」

「わかったよ」


 確かに身がもたないだろうしな……。


「よし! では良きオーナーライフを祈る」

「あ……」


 そう言うと魔王はその場から消える。

 それと同時に魔王の影響で作られていた魔王城や、連れてこられたのであろう魔族たちなども消えていった。


「目的は果たせたけど……」


 それに加えて余計なものまで押し付けられた気持ちだった。


「失礼なこと考えてるわ、このオーナー」

「おお……」


 魔法球で騒いでいた女神たちが、そこから飛び出して実態を持って現れた。


「私たちはポンコツじゃないわ! あのオーナー好き放題言ってたけどあいつに才能があったらそもそもアメーバだけの国になんかならないんだから!」

「そうです! 私たちちょっと若い神だからまだまとまってないだけで……」

「そうねえ。ゴブリンもいずれ進化すればちゃんと文明を起こせると思うし」


 それぞれそう捲し立てる。


「わかった! とりあえず待っててくれ! いきなり色々言われても処理しきれない!」


 まずは情報を整理させて欲しい。

 そう思っていると想いが通じたのかアリアと呼ばれていた赤を基調した服装に目がつく女神様が説明を始めてくれた。


「あっ、そうでしたね……。まずオーナーに頼りたいのは神だけでは出来ない世界間のやり取りです。それから直接その世界に入り込んで彼らを導くこと……。私たちは自分の得意なものを生み出したり、運命を操作することはできますが直接的な介入はオーナーにお任せすることになります」

「なるほど……」


 あの魔王はおそらくそのあたりめんどくさがったな……。

 自分が強ければ侵略して優秀な神と組み、そこから世界間のやり取りで一気に文明レベルを向上させた方がいいというのはわかる。

 ついで青を基調とした……たしかアランと呼ばれていた女神が話を繋ぐ。


「ちなみにオーナーって神と並ぶ上位存在だから、今まで出来なかったことも出来るようになるわ。クリエイト魔法や生命創生、寿命の概念も無くなるし」


 すこしきつい口調と目つきが目立つがさっきまでのコントのようなやり取りを見ていたからか恐怖心はない。というか多分、一番面倒見がいいのはこのアランだと思う。


「寿命まで……?」

「とはいえ貴方は元々神の子だから、寿命もあってないようなものだけれど」

「そういえばそんなこと言ってたな……」


 なるほど。

 とりあえずこの三世界を発展させるために……待てよ?


「これ、俺にとってメリットはあるのか?」

「メリット?」

「例えばだけど俺がこのままこの世界で自由気ままに過ごしていても、そっちの世界は勝手に回るんじゃ……」


 であれば魔王と同じく野放しにしても良いのではと思ったが。

 最後、乳を出すなと言われていた最も身体つきがエロ……豊満な肉体美を持った緑が基調となっている女神、リルドがこういってくれた。


「だめよ。新規オーナーはその世界をしばらく保持する権利を持つけど、そこから先は侵略対象になる。今の私たちの世界じゃ一瞬で飲み込まれるわ」

「そうなったら私たち、場合によっては消滅しちゃうんですよ〜」


 それは可哀想に……。


「あら? もちろんオーナーの魂も結びついているから、私たち三人ともが消滅したオーナーもそうなるわよ?」

「先にそれを言ってくれ!」


 くそ……あの魔王説明が足りなすぎる!


「前オーナーは故郷と力の源と、あとは絶対に奪われない、奪うメリットのない世界を保持して保険をかけていたからね。そろそろ侵略対象になる私たちの世界にかまっている間に本命がやられることを危惧したんだと思うわ」

「あいつ……」


 まあでもそれによってこの女神たちは延命されたわけか。


「侵略対象になる前にその世界の住民たちだけで対応する力を持つか、勇者様自身が他のオーナーより強くなるか。ちなみにわかってると思うけれど、あの魔王ちゃんはオーナーの中ではそんなに強い方ではないわ」


 そうだろうな……。確かにこの世界の一部を支配はしたが、ちょっと抜けてるところあったし。


「ちなみにですが、オーナーランクがあがれば使える上級概念の魔法も増えますし、単純に強くなります」

「オーナーランク?」

「世界の発展度によって付与されるランクね。いまあんたは1よ。あの魔王が2。持ってる世界の平均がベースになるわ」

「またレベル上げから始まるのか……」

「ふふ。頑張りましょう? 私の世界はもう知的生命体が存在しているしやりやすいと思うわ?」

「ちょっと抜け駆けするな! ゴブリンの分際で知的生命体とか笑わせんな!」

「二人とも〜」


 勇者として過ごした日々に比べればまぁ、退屈せずに楽しめるかもしれないな。


 ◇


「見ろ! 勇者様の凱旋だ!」

「おお! 勇者様、ありがとうございます。これで我らもう魔族に怯えずに済みます…-」

「軍隊が何年かけても攻略できなかった魔王城を一人でとはさぞかしお強いのでしょう」

「神の子でございます!」


 俺はひとまず拠点とするこの世界の居場所を作るために王城への凱旋となった。

 魔王の脅威に対して王国が中心となって人類軍を作っていたこともあり、集まる人々は各国を代表する人物たち。

 褒めちぎる言葉を適当に受け止めて人類軍の代表である国王、リーングルとの謁見となった。


「して、勇者殿、これからのことに希望はあるかな?」


 これからのこと……。

 世界を再び救う必要が出てきたことなどここでは説明しづらいわけだが……。


「人里を離れ隠居を望みます」

「ほう……貴殿が望めば人類軍の指導者としての未来も、我が国の貴族の席も……いや、あるいは私の後継すら出来うるぞ?」


 勘弁してくれ。

 これ以上面倒見ることが増えたら身がもたない。

 そう思っていると完全に忘れていた話が王の口から飛び出した。


「では約束していた姫との婚姻は……」


 あ……。

 勇者として祭り上げられたときになんかそんな話があった気がする……。

 だがこれからを思えばちょっともう正直面倒な柵にしかならない。


「なかったことに」

「ふう……残念ですが仕方あるまい」


 親バカだな。安心してるところを見ると反対もでてこないし良かった──


「待ってください勇者様!」

「え……?」


 あれは……。

 金髪にウェーブ。周囲の貴族がその声に息を呑むほど美しい姫。


「私もそこへ、連れて行ってくださいまし!」

「いや……」


 そこってどこかも決まってないぞ。

 最悪ゴブリンランドだぞ!?


「私は勇者様と結ばれる未来を夢見て来る日も来る日も過ごしてきました……私では、勇者様の隣に居る資格はありませぬか……?」


 目をうるうるさせてひざまずく王女、リール。


「勇者様が隠居を望むのであれば私も王宮の生活を捨てます。私は勇者様のお役に立てるよう、家事全般の技術をメイドたちから学んでおります。魔族討伐が長引けば勇者様のパーティーとして外で活動できるよう狩猟や魔法も覚えております。きっと不自由させません!」


 すごい熱意だ……。

 俺、なんかしたんだろうか……。


『国を救ったヒーローに惚れない乙女なんていないわよ。連れて行ってあげたらいいじゃない』

『そうですねえ。どうせなら国中の美女を集めさせてしまえばいいのです』

『そんなことしたら私たち世界にかまってもらう時間が減るじゃないですか〜』


 なんか脳に直接流れ込んできた……。


「勇者様!」


 懇願する王女。

 困惑する国王。


『おい勇者よ! すぐに我のもとへ来るのじゃ! 助けよ! 礼は弾む!』

『え?』

『ネイリーフに宣戦布告された! 相手はランク5の強敵じゃ! 勇者の力が居る!』


 おお……。

 魔王からも呼び出しだ。


『すぐ行く』


 魔王にそう返事をして国王と王女に向き直る。


「私は行く場所が出来ました」

「ほう……?」

「勇者様……!」

「勇者殿、どこへ行かれるというのだ?」


 困惑する周囲の人間に向けて俺はこう宣言した。


「世界を……救いに」

「たった今勇者殿により救われたではないか……!」

「ですから、別の世界です。リール、元気で」

「そんな……! 勇者様!」


 ちょっと心苦しいけど行かせてもらおう。


『勇者ー! 早くするのだー!』


 周囲の注目を集める中、俺は魔王の呼ぶ新たな世界へ飛び立つ。


「消えた⁉」

「勇者様は……本当に神の遣いだったと……?」

「勇者様バンザイ! 勇者様バンザイ!」

「そうだ! 勇者様万歳!!!」


 なんか妙な空気になった元いた世界を見つめながら、俺は魔王が待つ次の世界へ旅立った。

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