第41話 双子の兄弟

「貴方のような方がこのような所に…」

「また始まったか。懲りないな」

「ですが」


 拳を握りしめたディランはいつものように顔を歪めた。

 側近として常に私と共に歩んできたディランは、この離宮にも当然のようについてきた。名門の家に生まれ将来を約束された男が何のためらいもなくだ。思うところはいくらでもあっただろうに、未だにここから離れようとしない。


「生かされているだけましだ。あいつもそんなに悪い奴じゃないということだ」

「そんな甘いことをおっしゃって。ステファニー様やクリストファー様を人質にとられているのですよ」

「クリストファーは皇太子になったし、ステファニーもヘンリエッタを産んで幸せに暮らしている」


 帝都から離れた場所にある離宮に幽閉されてから20年の歳月が流れた。


 あの日、率いた兵を背後に私の前に立ちはだかったのは私と同じ顔をした男だった。その男は何の感情も込められていない瞳で静かに自分は双子の弟だと言った。それは初めて聞かされる事実だった。

 双子は今でも忌み嫌われている。王家に双子が生まれた時、周囲は惑うことなく弟の存在を抹消することを選んだ。その事実は限られた者たちによって隠し通されたはずだった。だが密かに生かされていた弟は、周りの思惑通り表舞台に出る機会を虎視眈々と狙っていた。そして私の知らない間に皇国の主だった貴族を掌握し、万全を期して私の目の前に現れた。私はなす術もなく離宮に連れて行かれ、妻のステファニーと1歳になったばかりの息子クリストファーと離れ離れになった。


 クーデター?

 いいやそんな事実はありはしない。ただ顔のそっくりな兄と弟が入れ替わっただけで、表向きには何も変わってなどいないのだから。


「ですが、あれは皇帝という名を冠した偽物です。実際政治を動かしているのは私腹を肥やし続ける一部の上位貴族。ここ最近の帝国経済の弱体化が彼らの責任であることは明白ではありませんか。これ以上クリストファー様や国民を欺き続けていいことなど一つもございません」

「確かにそろそろ限界というところか。だが……だからこそ勝機がある」

「陛下! それではっ」

「あぁ、全てを取り戻そう、ディラン」

「かしこまりました」


 いつか帝国が傾くであろうことは予想がついていた。私服を肥やしたいだけの連中に、国を治めることなど出来るはずもない。しばらくすると皇帝の首を挿げ替えたものの期待通りの成果を得られない貴族たちが出始めた。そういった者たちを支援し、少しづつこちら側に引き込んでいった。

 表立って行動を起こせるわけじゃない。上位貴族の連中を相手に上手く立ち回るには、それ相応の時間が必要だった。その間犠牲にしたものが如何に多いか分かってはいたが、帝国の威信を損なうことなく行うには仕方のないことだと言い聞かせてきた。同じ顔の存在を相手にすることにも抵抗がないわけはなかった。

 だが漸く準備は整った。今こそ向き合うべき時なのだ。

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うっかり後釜になりました。何で私が王太子妃に? もりやこ @moriyako

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