成人式のまさか

宵闇(ヨイヤミ)

第1話

成人式を明日に控え、俺は明日着るスーツをおろした。新品だというのがよく分かる。

俺には、中学卒業後顔を合わせていない幼馴染がいる。女子ではあるが、決して彼女とかじゃあないんだ。ただの幼馴染、そう向こうも思っているだろう。

あの頃の彼女は、身長165cm、容姿端麗、才色兼備、文武両道、ファンクラブが設立される程で、男女ともに人気があり、教師からの信頼も厚かった。

そんな彼女に対して一度も恋心を抱いたことがないか、と言われると、勿論ある。彼女は確かに美しかった。こう言っちゃあ悪いが、そこら辺にいる女子なんか足元にも及ばないと言っても過言ではないだろう。

実際にこんなことを公衆の面前で言おうものなら、きっと俺はそれを耳にした女性全てを敵に回すだろう。うん、それはもう確実に。


明日の成人式、数年ぶりに彼女と再開することが出来る。俺はただそれだけが楽しみだった。会っていない間に何か変化はあったのだろうか。今好きな人は、彼氏は居るんだろうか。俺は彼女に聞きたいことで頭が痛くなりそうだった。


〜成人式当日〜


会場に着くと、そこには懐かしい顔が並んでいた。よく遊んだ男友達に、テスト前になると必死に勉強していた集団、同じ部活で汗を流した仲間たち、そして…幼馴染の彼女【妃奈】。

「妃奈、久しぶりだな」

「陽太!ひっさしぶり〜!」

俺の顔を見るなり彼女は駆け寄ってきた。振袖はピンクを基調とした、綺麗な花柄の美しいものだった。薄めのメイクにブラウンに染められている髪、そこには花の髪飾りが施されていた。やはり何年経っても彼女は美しい。


成人式は予定通り進み、すぐに終わった。もしかしたらそれなりの時間が経っていたのかもしれないけど、俺からしてみれば一瞬の出来事だった。


成人式後、彼女と2人で帰っている途中で、急に彼女から呼び止められた。

「陽太」

「ん?どうした?」

「あ、あの……」

「なんだよ、何か言いたいことでもあるのか?」

「えっ、と…ね、彼女とか、いるの?」

「いや、いないけど」

「そ、そっかぁー」

彼女の振る舞いが、どうも不自然だった。何か焦ったかのように質問してきたかと思うと、安心感を得たかのように肩から力を抜いた。

「急にどうしたんだ、そんなこと聞いて」

「ちょっと、気になってさ」

「そういうお前は?彼氏いんの?」

「彼氏はいないよ。好きな人なら……」

これはまさか、好きな人はいるけどまだ告白はしていないと、そう言いたいのか。俺は失恋した。そういう感覚に陥った。

「好きな人ならね…今、隣に…いる、よ……?」

「え???」

隣にいるのは俺だけだ。彼女には俺以外に誰か見えているのだろうか。

「俺しかここにはいないけど?」

「そ、そうだよ」

「えっと…もしかして、俺のこと?」

「…う、うん」

おいおいおいおい、マジか、マジなのか。今まで俺は幼馴染としてしか見られてないと思ってずっと片想いしてたのに。まさか両片想いというやつだったとは、思いもしなかった。

「私じゃ、駄目…かな……?」

「そんなことないよ。俺もずっと好きだった」

「ほ、本当!」

「あぁ」


成人式は、俺の……いや、俺たちの記念日になり、そしてそれから数年後、結婚記念日という名前にそれは変わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

成人式のまさか 宵闇(ヨイヤミ) @zero1121

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ