ショタ王子はいつまでもかわいい(終話
ガリリ。
シャリーンが差し出してきたそれは、見た目の通り焦げていて、口の中に苦さだけを残した。
「絶対に体に悪い味がする…。」
どう受け取ろうとも誉め言葉にはなりえない、ギルドラードの言葉を聞いて、シャリーンは嬉しそうにほほ笑んだ。
「一応口には出来ると言事ですね!」
何をどうとらえたら、そのように前向きになれるのか…。
まぁこれまでさんざん差し入れされた、怪しい異臭のするものや、手に握ると一瞬で形をとどめなくなってしまったものに比べると、若干はましなのかもしれないが…。
「じゃあこれをもっていってきます!」
元気に立ち上がるシャリーンに、ギルドラードは首をかしげる。
「どこへ?」
「バルティ王国へ。」
「何しに?」
「ナーニャ様に会いに。」
「なんで?」
「…会いたくなったから?」
「え…?」
会いたくなったって何。会いたくなっただけで隣国へ?そもそもいつから知り合いに?その焦げた何かを持っていく意味は?
将来の義妹へ、聞くべきことは山ほどあるが、シャリーンは煩わしいと言わんばかりの視線をこちらに向け、逃げるように去っていった。
「あんなに急いで、シャリーン、どこに行ったんですか?」
入れ違いに入ってきたロミロアが首をかしげる。
「何か…焦げた何かを、何かしらの理由で隣の国に持っていくそうだ…。」
自分で口にしていても、さっぱりいみがわからん、とギルドラードは思う。
「あぁ、お菓子!シャリーン、5年前から急にお菓子作りに目覚めたんですよね。」
「一向に成長しないがな…。彼女は馬や剣の腕は素晴らしいが…お菓子作りには向いていないんだろう。」
未だ口の中を占める苦みが、本当にお菓子と呼べるものなのかどうかは疑問だ。
「今日のは以前より、成功しているように見えましたけれど。私も食べたかったですわ。」
ロミロアは相変わらずほわわんとした感想を述べながら、ギルドラードの隣に座り、お茶を入れ始めた。
あれから5年。
14歳になったギルドラードは、ロミロアの背丈を超え、現在は175cm。これからもまだまだ伸びるだろう。
こうやって隣に座ると、ロミロアのつむじが見えることに、いまだに優越感を感じてしまう。
「ナッツやメイプルシロップも入れていたので、かなり甘いクッキーになったと思うんですけど。」
「…そもそもクッキーだったのか。」
「それがわからないなんてことあります?」
少し非難めいた目を向けるロミロアに、ギルドラードはいたずらに微笑んだ。
ギルドラードは気づいていない。
彼のほほえみはもう『天使のほほえみ』ではなくなってしまった。
だが、最近ではめっきり『妖艶の笑み』として女性の心をわしづかみしている。
笑みを浮かべたまま、そっとロミロアの頭に手を伸ばし、引き寄せるようにして口づけをした。
「ん、」
驚き抵抗するロミロアを、抑え込めるくらいに、力も強くなった。
長い口づけを交わした後、わざとちゅっと吸い付きながら、唇を離す。
「な?甘さとかないだろ?」
「…そ、そうです、ね。」
大人として、動揺していることを悟られたくないのか。
ロミロアは視線を外し、平常心を装っているが、耳まで真っ赤になっている。
(そういうところが加虐心をそそるんだよな…)
ふふ、とギルドラードは笑みを浮かべて、ロミロアの耳元でつぶやいた。
「ベット行こうか。」
「!だ、だめにきまってるでしょう!ギル様はまだ14歳ですよ!」
その一線だけはどうしても超えさせてもらえない。
でも、こちらもいつまでも我慢などできないのだ。
「じゃあこのままソファーでする?」
「そ、そういう事ではなくてですね!そういうのは結婚してから、」
「あと4年も待てっていうの?」
パクリと耳を加えられ、ロミロアは言葉を失った。
「待てないよ、そんなに。」
「…人生は、長いですよ…。」
「ねぇ、ロミロア。」
ギルドラードの声は、甘く切なく。
ロミロアを体の芯からとろけさせるような効力がある。
「すぐ結婚できるように、先に子供作ろうよ。」
覆いかぶさってくるギルドラードを、押さえつけるロミロアの手。
その手をすんなりとギルドラードはつかみ、その手の平に優しく口づけをした。
「僕なんかよりずーっとかわいい、天使みたいな子供ができるよ。」
「いい加減にしろ○すぞ」
恐ろしく無機質な声が、物騒な言葉とともに、頭上から降ってきた。
「仕事が溜まっているんで、いい加減にしてください。」
宰相マーガスが鬼の形相で2人をにらみつけている。
「マーガス様、いつからそこに。」
「ずっといましたがぁ!?それより、ロミロア嬢。貴方もう行かないと、メアリーとの待ち合わせに遅れますよ。娘を待たせるつもりですか。」
「あ、いえ、はい、すぐ行きます。」
「しっかりしてくださいよ、次期王妃ぃ。」
マーガスは相変わらずである。
あえて変化があるとすれば、娘のメアリーが『やっぱおひめさまになるのやめる!ケーキ屋さんになる!』と言い出したことで、二人の仲を引き裂こうとするようなことはしなくなった。
しかし、メアリーがロミロアからお菓子作りを習っているうちに、すっかりロミロアになついてしまったことが面白くないらしく、相変わらず小姑のようにロミロアに接してくる。
「ねぇ、僕も仕事早く終わらせるからさ。ロミロアもお菓子作り終わったら戻ってきてね?」
きゅるん、とギルドラードが言う。
「い、いや…私も結構忙しいですし…。」
戻ってくる頃には夜だ。
さきほどの続きを求められてはたまらない、とロミロアは断ろうとするが、
「だめ?ロミロアのお菓子、久しぶりに食べたいなぁ…。」
「戻ってきます!」
相変わらず、本能には勝てなかった。
(14歳にもなって、体も大きくなってるくせに、かわいらしさも健在ってどういうことよぉお)
子供なんて、まだまだ無理だ。
あんなにかわいい存在が二人もいたら、心臓が持つわけがない。
「ふふ、」
ロミロアがいなくなった部屋でギルドラードは笑う。
「マーガス、避妊薬持ってる?」
「持ってるわけないでしょ。…というか、子供が欲しかったのでは?」
「いやいや、まだいいでしょ。」
一刻も早く結婚したいという気持ちには、嘘偽りはないけれど。
「ロミロアにはまだ、僕だけを愛でてもらわないと。」
ショタ王子に婚約破棄、されました。 ロキ屋 @pinokana
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