84 次に習得する超技は範囲攻撃だな
ダイアナはニューヨーク港にバイクを走らせた。まずは倉庫を陣取るマフィアどもをぶっ飛ばすという熱い思いを“キャンディ”の変装の下にたぎらせて。
一言でニューヨーク港といっても広大な範囲だ。ダイアナが呼び出されたのはマンハッタンの近くの倉庫なので移動距離はさほど遠くない。
デイビッドが開発し、常日頃大切に使っている捜査グッズをバックパックに詰め込んで、ダイアナは目的地近くへと到着した。
沈みかけの夕陽が、黒のスーツに身を包んだ“キャンディ”をオレンジ色に染め上げる。
ヘルメットを脱ぎ、ダイアナはバックパックから闘気感知ゴーグルを取り出して装着すると、キャンディを取り出して口の中へと放り込む。甘みが口の中に広がって気持ちも満たされる。
目的の倉庫は横に三棟連なっている。闘気の反応はほぼ均等に散っている。
今のところ、闘気を発しているのは四人だ。
その他の気配はざっと見積もって二十近くか。
準備を整え、ダイアナは倉庫の真正面に立つ。
がりっとキャンディを噛み割って、戦闘開始の儀式を終える。
「おい悪党ども! コソコソしてないで出てこい。このオレが相手をしてやる!」
ダイアナが声を張り上げると、複数の人影がが浮かび上がる。
一瞬の間も開けずに銃声が連続して響く。影の手にはマシンガンが。
こうなることを予想していたダイアナの動きはそれよりも速い。
すぐさま「分身」と「転移」を駆使して元いた場所に自分の影を残しつつ一番右の倉庫の陰に隠れる。
壁に小さな発音機を取り付け、呼吸を整えてから真正面へ帰る。
そのころには弾雨はやんでいた。「分身」が虚像であると気づいたのだ。
「もう終わりかぁ」
挑発しつつ、同じ手順で倉庫のあちこちに発音機を仕掛けていく。
準備は整った。さぁ、まずはザコからだ。
まずは一番手薄と思われる右の倉庫付近の男達に襲いかかる。
超技の「転移」「分身」「二段ジャンプ」を駆使して翻弄する。
その一方で、真ん中と左の倉庫にしかけた発生装置の近くにも時々闘気の分身を配置する。
「どこ見てる! こっちだ!」
口元のマイクに小さく怒鳴ってやると、何倍にも膨らんだダイナアの声が敵の注意を分身体に引き付ける。
すぐにばれるだろうが、そのころにはもう右の倉庫の非極めし者はあらかた地面や床に伸びている。
闘気を発する者が一人いたが、今は無視だ。
まずは数を減らさないことには力で勝るダイアナでも不利なのだ。
連続して超技を使用したことによる消耗を補うために倉庫の裏で数秒、呼吸を整える。
倉庫を一つずつ制圧するつもりだったが、もっと効率の良い手段を取らねばならないとダイアナは考えた。
広範囲に攻撃を仕掛けられる超技がダイアナにはない。一つくらい会得しておくべきだったかと後悔するが、嘆いても詮無いこと。
今ある超技を駆使して戦う手順を練り直す。
よし、と気合を入れ、屋根に飛びあがって敵の目を引くと、そのまま倉庫の真正面へと再び戻る。
「右は制した! おまえら、ちょろいな!」
地声を張り上げると、残りの男達――ざっと見たところ十数人ほど――が武器を構えてダイアナを睨みつける。
しかし今度は問答無用の射撃はまだない。どのタイミングで攻撃を仕掛けるべきかと期をうかがっているようだ。
「ほら、どうした? ビビったか? 仕掛けてこないならこっちから行くぞ」
ダイアナが腰を落としてすぐにでも敵のただなかに飛び込む姿勢を見せると、中央の倉庫から「撃て」と男の声があがった。
声につられて男達が一斉にマシンガンを乱射し始めた。
ダイアナはにやりと笑って「反射」を発動する。
いわゆる「飛び道具」をそのまま相手に跳ね返す超技だ。
カウンターが綺麗に決まり、複数の悲鳴があがる。
異変に気付いた男達が引き金から指を放すが、半分ほどが戦闘不能に陥っていた。
これで楽になったと思うが、この手はもう使えない。もう少し数を減らしてからにして、動けるものをほぼなくすのが当初の狙いだった。
「くそっ、なめた真似を」
リーダー格の男が倉庫の前に現れる。まだ動ける数名がリーダーに倣って姿を見せた。
残りは七人。そのうち四人が闘気をまとっている。
「闘気持ちは闘気で弾を免れたか。残りは、射撃がへたっぴだったのか?」
笑ってやると、闘気を持たない三人は怒りの表情をあらわにした。
「ふん、余裕ぶっていられるのも今のうちだ」
闘気持ちその一がにやにやと笑う。
ダイアナに対して有力な手段を隠し持っているのか。
数を減らしたといってもまだ気は抜けないようだ。
考えられるのは、銃弾や他の武器に何か薬物を塗布している、といったところだ。直接命を奪うような毒物かもしれないし、捕らえるのが目的なら体の自由や闘気の放出を阻害する薬物だろう。
闘気での攻撃よりもそういったものの方に気をつけねばならない。
無傷で制圧するつもりで戦わないといけないな。
上等だ。やってやる。
ダイアナは口の端を持ち上げ、腰を落とした。
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