41 超技の連発は焦りの表れか
再び突きと蹴りの応酬が始まる。
極めし者ではない者が見ればただの光の塊の移動に見えるであろう二人は、相手の攻撃をかわし、受け流し、一進一退の攻防を繰り返す。
ダニエルは「転移」を警戒してか、大きな技は出してこない。
だがダイアナが超技を出すタイミングを見計らっているのと同じようにきっと彼もどこで仕掛けるかを伺っているはずだ。
ダイアナは現在、五つの超技を会得している。
オルシーニファミリーと戦った時には「転移」と「二段ジャンプ」を使っている。
あの時も極めし者はいたが格下だった。だから超技は二つ使うだけですんだ。
だが今日は。
おそらく手の内をかなりさらさなければ勝ちはないと見積もった。
ダニエルは強敵だ。体裁きに素早さはないが、無駄もない。攻撃や防御から次の攻撃に切り替わるのが速い。
何十回と打撃の応酬をしていれば判る。ダニエルはダイアナと同等の腕の持ち主だ。
それはつまり、超技をダイアナと同じぐらい会得している可能性があるということだ。
まだそのうちの一つ、「飛び道具」しか見ていない。
果たして超技の相性はどうなのか。勝敗のポイントはそこになってくるだろう。
ダニエルの拳を身をかがめてやり過ごしたダイアナは、肩から体当たりした。
予想外だったようでダニエルのみぞおちに入った。
だが倒すまでに至らない。
ダイアナはすかさず「転移」で二メートル後ろに瞬間移動した。万が一掴まれれば大ダメージを負う攻撃につなげられる。
ぐっと迫ってくる気配を感じた。同時にダニエルの顔が一メートル前に見える。
転移? 違う。
ダニエルが巨木のような腕をダイアナの首に向けて振るった。突進しながら攻撃を加える「移動攻撃」系の超技だ。
とっさに体を傾けたが避けきれずに肩に相手の腕がぶち当たる。ダイアナは地面に反対の肩から叩きつけられた。
すぐさま転がりつつ体を起こす。
やはりダニエルは超技の出が速い。あといくつ持っているのかは判らないが、特に初手は警戒しなければまともに食らって大ダメージにつながりそうだ。
立ち上がり、再びダニエルと攻撃のやりとりを続ける。
ダニエルが軽く腰を落とした。
何かがくる。
跳躍からの跳び蹴りを食らわせようとしていたダイアナは「転移」でダニエルの背後に移動した。
その瞬間、ダニエルが腕を振り上げ、彼を中心に青い稲妻が天に上った。
あれに巻き込まれていたらたまったものではなかっただろう。
今回は予備動作が判りやすくて助かった。
天をも突こうかという稲妻の柱を見送ってからダニエルに突進した。
ここにきて、超技を立て続けに出してきたダニエルに、もしかすると相手は焦りのようなものを感じているのかとダイアナは推察した。
もっと楽に勝てると思っていたのかもしれない。
なのになかなか倒れない、攻撃も思うように当たらないダイアナに焦れてきているのか。
ダニエルの表情だけではそこまでは読み取れないが、そうならばもう一押しで有利な状況に持っていけるかもしれない。
十五メートル四方の屋上のスペースをふんだんに使って跳びまわる。ダニエルの周りをダイアナが跳躍し、交錯し、また離れる。
ダニエルは敵の行動を掴みかねているようであまり大きく動かない。
飛び込んでくるのを待っているのか。
だったら、乗ってやる。そのうえで、潰す!
ダイアナは相手の斜め後ろから突っ込んだ。
ダニエルが軽く腰を落とす。
あの範囲攻撃が来るな、と読み、ダイアナはダニエルの背後に転移した。
超技を放った後の隙に跳び込んでやる。
だがダイアナの思惑は、ぞわりと背中に感じる「何か」と、直後の二発の銃声に阻まれた。
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