35 顔に出やすいヤツを連れていくメリット
『コーヒーとか紅茶とか好きだったりする?』
『コーヒー飲むよ』
『だったら、いい店見つけたんだが一緒に行かないか?』
『いいね。ぜひ』
リチャードとメッセージアプリでやり取りをして、土曜日の昼過ぎにダニエルの店に向かうことになった。
この時間帯はもしかすると他に客がいるかもしれない。もっとすいていそうな時間帯がよかったがリチャードの都合に併せるとこうなった。オトリに来てもらうのだからこれぐらいはしかたない。
今日はマイクを鞄の中に仕込んでいる。デイビッドか喫茶店内の会話を録音してくれる予定だ。
証拠を取りやすいが、リチャードとの何気ない会話まで取られると思うと少し気まずい。
まぁ別にリチャードとそんな恥ずかしいようなことを話すわけでもないがと自分に言い聞かせて納得する。
今日は少し雲が出ていて窓辺に座るのに暑すぎずちょうどいい。
ダイアナは店に入るといつもの入口近くの窓際の席に座った。リチャードも向かい側に座って店の中を見回している。
「いい雰囲気だね」
「だろ? 仕事の帰りに入って一発で気に入ったんだ」
「ダイアナは落ち着いた店が好き?」
「賑やかなのもいいが仕事の帰りだと、そうだな、静かなのがいいこともある」
そんな話をしているとローザが注文を聞きにやってきた。
「あらダイアナ、珍しいわね。カレシ?」
「そんなんじゃないよ。ジムのトレーニング仲間だ」
即答するとリチャードは少し寂しそうな顔をした。
判りやすい反応にダイアナは申し訳ないと思いつつも先の発言を訂正するつもりはない。
「この店のコーヒーがうまいって紹介したんだ」
「光栄ね。淹れてるのはわたしじゃないけど」
ローザはふふふっと笑って二人の注文を聞き、店の奥に戻っていった。
彼女からは、人を騙して金銭を奪い取ってやろうという雰囲気はない。これが芝居と判っているから逆に恐ろしい。
自分も相手を欺いて捜査をしているのだからそういう点では同じなのだが。
「最近ジムに来れてないけど忙しいの?」
「あぁ。ちょっと立て込んでる。今日もカフェに来る時間はあるけど運動する時間はないな」
「大変だね」
そんな他愛のない会話をしているとコーヒーとケーキが運ばれてきた。
「お口にあうといいけれど」
言いおいて彼女が奥に戻って行ってからダイアナはコーヒーを味わった。いつもながらいい香りで、うまい。
リチャードも「うん、おいしい」と言いながら味わっている。
ふと店の奥のローザに目をやった。
値踏みをするような視線をリチャードに送っていた。
コーヒーが口にあったかどうかを案じているような顔ではない。
彼は獲物か、そうでないかを見極めているような目だとダイアナは感じた。
それも一瞬で、ダイアナの視線に気づくとにこやかに笑って手を振ってきた。
彼はコーヒーを気に入ったみたいだという意味でOKサインを指で出すと、安心したというように手を組み合わせてにっこりと笑顔を返してくる。
あの、ねっとりとした視線が嘘のようなさわやかさだ。
だがこれではっきりした。
ローザは喫茶店のウェイトレスとしての顔と、詐欺師としての顔を巧みに使い分けている。
ならばローザがリチャードに話しかけやすいシチュエーションを作れば、彼女は動くかもしれない。
ダイアナはローザに化粧室を借りるとわざわざ断ってから店の隅のトイレへと入った。
読みが正しければダイアナのいない間にローザがリチャードに話しかけるはずだ。
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