31 運命の再会ってか
今日もダイアナはメールで警察と情報のやりとりをしていた。
彼女が担当しているのは寄せられた情報の精査だが、まずは情報提供者が実在しているかどうかで判断している。偽名や偽の住所をよこす相手はさすがに信じられない。身元が確認できる相手がもたらした話だけを調査している。
警察から身元の確認の結果が届いたので「実在している」情報提供者からのメールを改めて開く。
「む……」
デイビッドのくぐもった声が聞こえた。
「どうした? 腹でもくだしたか?」
「来た、かもしれん」
「何が?」
「大目的の連中が」
ダイアナは反射的に立ち上がった。
「ビルの裏側に三人、お客様だ。表から出て隣のビルの横から裏手にまわれ」
「りょーかい」
デイビッドの差し出したヘッドセットを受け取ってダイアナは事務室を飛び出した。
階段を下りてビルの外に出たダイアナは、相棒の指示通りのルートでビルの裏側に向かう。
ちょうど「詐欺被害者への救済」が入るビルの裏口から戻ってきた男三人と遭遇した。
「こんなところで何やってるんだ?」
ダイアナはにっこりと笑って問いかける。
「あー、ちょっと、入る道を間違えてなー」
「へぇ。この辺りはそんな複雑な路地でもないのに迷うなんて、あんたらかなり方向音痴だね」
「そうなんだよ。こいつが近道だっていうもんだから信じて来てみたら」
「ってことで、どいてくれ。表通りに戻るから」
言いながら男達が互いに目配せしたのをダイアナは見逃さない。
彼らの後ろ、ビルの裏口の近くに紙袋が置かれていることも。
「あれ? 忘れ物じゃないか?」
ダイアナが袋を指さすと男達はぎょっとなった。
判りやすい。
きっと爆発物かなにかが入っているのだろう。
「おれらのじゃないぞ」
「って言ってるけど、“ソルティ”?」
『一番背の高い男が置いたな』
自信満々のデイビッドの声が返ってきた。
「あんたが置いたんだろ? カメラにしっかり映ってたってよ」
相棒に後押しされるようにダイアナもきっぱりと言う。
「何がはいってんだ? オレらへのプレゼントか? だったら正面から入ってきて手渡してほしかったなぁ」
「くそっ!」
男達は取り繕うことをやめ、ダイアナに殴りかかってきた。
「なんでこうも悪人は狭い路地で一斉にやってくるんだろうねぇ」
ダイアナはすっと腰を落として先頭の男の拳をかわし腹に一撃をくれる。
動きの止まった男の手首を取って投げつつ、次にやってくる男には蹴りを放った。
下っ腹を蹴られた男は後ろへと吹っ飛び、三人目の男を巻き込んで壁にたたきつけられた。
「はい、おしまい」
まさに楽勝であった。
『警察には連絡しておいた。もうすぐ到着するから引き渡してくれ。……が、“キャンディ”、すまないがおまえから見て右のヤツは上に連れてきてくれないだろうか』
「なんで?」
『知り合いだ』
思いもよらぬ返事にダイアナは「ふぁ?」と間抜けた声を漏らした。
警察に襲撃犯とアヤシイ紙袋の処理を任せ、ダイアナは男を事務室に連れていった。
腕組みをしたデイビッドがとてもいい笑顔で迎えた。
まさに、ここで会ったが百年目、といった人待ち顔だった。
ダイアナはデイビッドと男を見比べる。
男はデイビッドと同じぐらい、二十代半ばほどで、短いダークブロンドの骨ばった輪郭だ。目つきが悪いのでより悪人に見える。顔形だけでなく、悪事に手を染めたのは昨日今日ではなさそうな雰囲気をまとっている。
「知り合いってもしかして」
「そう。俺をハメたやつだ。久しぶりだなぁランディ。すっかり悪人面になっちまったな」
襲撃者の一人は、八年近く前にデイビッドの借用書を闇金融に売り渡した男だったのだ。
なるほど、さっき呻いてたのはこいつの顔を見たからかとダイアナは納得した。
「おまえ、デイビッドか。おまえこそ、なんだそのヘッドギアから出る機械の声は」
ランディは囚われの身であることを忘れたかのようにデイビッドを睨み上げる。
「ちょっとした事故でな。声が出ないんだよ。それよりおまえのことだランディ」
本当は女と友人に立て続けに騙されたストレスからの失声症のようなものなのだが、さすがに本人にそんなことを告げるのは嫌なのだろう。ダイアナは二人のやり取りを静観した。
「借用書を売ったことか」
「……そうだな。個人的に、なんでそんなことをしたか聞きたいな」
おそらくデイビッドはすぐにランディがどこから頼まれてやってきたのかを聞こうと思っていたのだろう。ランディをここに連れてこさせたのは警察からの情報を待つより直接取り調べた方が早いし、知り合いの方が話しやすいからだろう。
そしてランディもデイビッドの意図に気づいていて、話を逸らせるためにわざわざ過去の話を持ち出したに違いない。
そんなことをしてもデイビッドほどの仕事に真っ直ぐな男なら遅かれ早かれ聞き出されるだろうがな、とダイアナは思っていた。
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