29 縁のなかった話題への対応は判らない
カールがもたらした作戦は実行されることになった。
「詐欺被害者への救済」と名付けた会社のウェブサイトを作り、事務所の体裁を簡単に整えるだけなので、一週間とかからずに作戦を実行できるようになるそうだ。
郊外の小さなビルを借り切って、デイビッドとダイアナが常駐する。
実際に入った情報はニューヨーク警察とFBIのサイバー対策部が捜査することになった。
カールの提案通り、有益な情報には報奨金が支払われ、逆にあまりにも悪質なイタズラと判断された場合は罰金もありうると付け足された。面白半分で捜査を混乱させる輩への対策だ。また、イタズラではなく犯罪者が捜査をかく乱させる狙いで大量のゴミ情報を送りつけてくることへの警戒もある。
情報の受付は三か月間と区切り、寄せられた情報を捜査してから情報提供者に報奨の有無を知らせる。
捜査で一定の効果があり潤沢な活動資金を得られれば会社は存続する、と告知するが実際は三か月で会社を畳むことは決定している。
もしかすると思った以上の成果が上がって今度はFBIや警察の方が同じ形での協力を依頼してくることになるかもしれないが、その時はその時の話である。
大きな詐欺組織の妨害行為をあおる手段として、会社設立から半月ほどで、かねてより警察が目を付けている詐欺集団の摘発を行い、「詐欺被害者への救済」にもたらされた情報が発端であることと、情報提供者には報奨金が支払われたことをネット上に拡散する。
「詐欺組織、食いついてくると思うか?」
「さて、どうだろうな」
ダイアナの問いかけにデイビッドは首を傾げた。
「入ってくる情報からある程度の規模の組織は摘発できるかもしれないと警察は期待しているだろうが。そうでなければFBIまで巻き込んで協力はしないだろう」
ダイアナはなるほどなと相槌をうった。
サプリメントを受け取って数日後の夜、ダイアナはフィットネスジムへと向かった。
パブロに会って、「GTメディシン」についてもう少し話を聞くためだ。
受け取ったサプリも成分解析に回したが、サンプルとまったく同じ成分であったという結果が届いている。
なので捜査を進めるにはやはりサプリを薦めているパブロに話を聞くしかない。
彼の行為が詐欺にあたる場合、知っていてサプリメントを広めている可能性がゼロではないからだ。
しかし彼に苦手意識を持っているダイアナは、まだデスクワークの方が楽かもしれないな、などと感じていた。
今日はリチャードもいてくれるので少しだけ気が楽なのが救いだ。
運動が終わったあと、ロビーでスポーツドリンクを飲みながら、さてどう切り出すかと考えていたらパブロが話を振ってきた
「ダイアナちゃん、あのサプリどう?」
積極的な人との話はこういう面でやりやすいからありがたい。
「んー、あんまり実感ないな」
「そっかぁ。でも眠れないわけじゃないんだよね」
「まぁな」
「続けて買うなら言ってよね」
「いや、次に買うとしたら自分で手続きするよ」
パブロは少し残念そうだ。
「なんでそんなに間に入りたがるんだよ? あ、もしかして仲介料とかもらってんのか?」
少し意地悪気に聞いてやると、リチャードも乗っかってきた。
「なんかたくさんの友達に薦めてるみたいだしな」
怪しいぞ、といわんばかりの顔だ。
サプリが効かないと文句を言っていたわりに今夜ここに来たのは、もしかしてこの話がしたかったからなのかなとダイアナは推察した。
「仲介料はサプリの割引券でもらってるけど、そんなに多額じゃないよ」
二人にじとりと見られてパブロは慌ててかぶりを振った。
「それに、同じ人に二回買ってもらったって仲介料は入らないし」
「ならどうしてオレが継続購入するのに間に入りたがるんだよ」
「それは、だって、そうした方がダイアナちゃんに会えるじゃないか」
へへへと笑うパブロに悪意はなさそうだ。
仲介料で割引券というのも違法ではない。
彼の話が全部本当だとしたら、だ。
裏を取るには諜報部の誰かが実際に仲介人になるのが手っ取り早い。
だが、デイビッドの話だとIMワークスの関係者だと警戒されるかもしれないのだ。
これからの捜査をどうするのかは、頭のいい諜報員達に任せることにしようとダイアナは息をついた。
「なんでオレなんだよ。そこらにもっとかわいいのや美人なヤツがたくさんいるだろ」
「ダイアナちゃんはかわいいよ」
「それについては同意だ」
パブロが即反応し、リチャードまでうなずいている。
普段からイタリア人顔負けのナンパ師のようなことを言うパブロはともかく、リチャードまでとはどういうことか。
ダイアナは思わず二人の顔を見比べた。
「おっ、宣戦布告か。負けないぞ」
パブロがリチャードを見てにやりと笑っている。
リチャードは、それには応えずにダイアナに微笑みかけてきた。
これは、どう反応すればいいのか。
『モテモテリラだな』
デイビッドの声が脳裏によみがえった。
「うっせーわ、ひょろ男め」
思わず小さくつぶやいていた。
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