26 見慣れているが見慣れてなかった
サンプルが思ったよりよかったので購入したいとメッセージを送るとパブロは文字だけでも興奮していると判るぐらいに喜んでいた。
購入手続きはこちらでやろうかと申し出てみたが、ぜひ直接会ってお礼が言いたいから自分がやると言い張っている。
どうしても一度は彼と会わねばならない状況にダイアナはため息を漏らす。
「そんなに嫌なら、なんてったっけ、最初に事情を聞いた男に同伴してもらえばいいんじゃないか?」
デイビッドが助言をくれた。
「それはそれでもめそうじゃないか?」
「二人がおまえをめぐって争いそうだからか? モテる女は心配するところが違うな」
「ばっか、そういうのじゃねぇよ。リチャードはパブロの友達だけどサプリのことで印象悪くなってるみたいだからな。サプリの受け渡しに付き合いたくなんてないだろ」
デイビッドは「ふぅん」と気のない返事をした。
「あぁ、そうだ。受け渡しを昼休みにして場所をここのビルの入口すれば、この後すぐ仕事だからとか言って戻れそうだな。あとは、おまえあたりが呼びに来てくれたらいいんだ」
「なんで俺がおまえのもめごとに助け船を出さねばならんのだ」
「いいじゃねぇか。相棒だろう?」
「都合のいい時だけ相棒ヅラするな」
デイビッドがぴしゃりと断ったのでダイアナは「ちぇっ」と唇を尖らせる。
しかし会う時間を減らす方向でという方針が浮かんだのでよしとした。
二日後の昼休みに、ダイアナはIMワークスのエントランスでパブロを待った。
昼休みの時間帯なので外に食べに出かける社員や、早番で休憩を終えて戻ってくる人達でそれなりに人目はある。
ここでなら大っぴらにデートしようとか言い出さないだろうとダイアナは思っていた。
ややあって、パブロがやってきた。
いつも見るラフスタイルでなくスーツ姿の彼は少しだけ印象がよかった。
が、そう思ったのは彼がしゃべりだすまでだった。
「ハーイ、ダイアナちゃん、おまたせ」
いつもの軽いノリで挨拶されてダイアナは嫌な予感しかしない。
「受け渡しのためだけにわざわざ来てもらって悪いな」
「ダイアナちゃんのためならいつでもどこでも飛んでくるよ」
用事は物をもらうことだけだと強調したのにパブロは全然答えていない。気にもしていないかもしれない。
このノリには慣れないなとダイアナは頭を掻いた。
「仕事が詰まってっから、すまないが」
手を差し出すとパブロはサプリメントを渡して、そのままダイアナの手を包み込むように握った。
「寝つきがよくなるといいね」
「あ、うん」
ちらちらとこちらを見ていく人達がいる。
いたたまれない。
ついつい強く手を振り払いそうになる。
我慢だガマン。
「おい」
どう切り上げようかとダイアナが迷っていると、聞き慣れない声がした。
そちらを見るとデイビッドが立っている。
一目で彼だと判ったのに違和感がある。
……あぁ!
思わず大声をあげそうになるのをこらえた。
デイビッドはいつもつけているヘッドギアを外しているのだ。
「あ、あぁ、すぐ行く」
答えながらもしげしげと見つめていると、デイビッドはきまり悪そうな顔で後ろを向いて歩き出した。
ダイアナはパブロの手から自分の手を引き抜いた。別れの挨拶を残してデイビッドを追いかける。
「まさか来てくれるとは思わなかったな」
諜報部へ戻る道すがらデイビッドの後ろ姿に話しかける。
デイビッドはヘッドギアを装着して、いつも通りの機械の声で答えた。
「別におまえを心配してとかではない」
なんだそのツンデレと笑いそうになったが、続けて発せられたデイビッドの言葉に声を失った。
「兄が来ている。おまえを含めて、諜報部に提案があるんだそうだ」
提案? 探偵事務所勤めの男から、一体何の提案だろうか。
ダイアナは興味津々でデイビッドの後について会議室に入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます