24 思わず後ずさりそうになった

 次の日、ダイアナがジムでトレーニングをしていると、リチャードがパブロを連れてきた。


 連絡に数日かかるものだと思っていたので驚いたが、早いに越したことはないとダイアナは心の中でリチャードにグッジョブを送った。


「君がサプリ欲しがってる人? かわいいねー」


 パブロはにこにこ、というよりへらへらと笑いながら握手を求めてきた。

 初対面でかわいいと言われたことなどあまりないダイアナは面食らった。


「あ、どうも」


 中途半端に返事を返してもパブロは気にしていないのか、へらへらしている。


 リチャードを見ると、少し心配そうな顔に見えた。ダイアナが引かないか案じているのだろうか。


 とりあえず三十分後にロビーで待ち合わせることにした。


 トレーニングメニューを短く切り上げて着替え、ダイアナがロビーに行くと、もう二人はソファに座って待っていた。


 今夜も夕食を摂りながら話をということになった。


 今日は昨日よりさらにカジュアルに、オープンカフェに向かった。


 四人掛けの丸テーブルで、まずダイアナが座るとパブロが隣に座った。しかも椅子をダイアナの方に少し寄せて。


 こいつ、距離感なしかよとダイアナはぎょっとする。

 しかしここで突っぱねてサンプルが手に入らなかったらこまるのでガマンだ。


 ピザとコーラを囲みながら、ダイアナは早速サプリメントの話を持ち出した。


「不眠ってわけじゃないけど、やっぱ時々寝つきが悪くなることがあってさ。試させてもらおうかなって思って」


 ダイアナが言うとパブロは満面の笑みでうなずいた。


「こいつはサンプルしか効かなかったっていうけど、そんなはずないんだよねー。ダイアナちゃんが試してくれたら判ると思うんだよ」


 なれなれしく体まで寄せてくる。

 思わず押し返しそうになるところをダイアナは必死にこらえる。


「ところで、そのサプリメントを売ってる会社の名前って?」

「『GTメディシン』ってところだよ」


 聞いたことのない会社名だ。


「知らないなぁ。新しい会社?」

「どうだろう? ネットでは最近見るようになった名前だから、そうかもね」

「まぁいいや。それじゃ、サンプル頼むよ」


 要件が済んでからもパブロはダイアナについてあれこれ尋ねてきて、聞きもしないのに自分の話をした。

 押しが強いというのはこういうのを言うのだなとダイアナは実感した。




「なんか、ごめんね、あいつ調子に乗っちゃって」


 パブロが先に帰って、リチャードと二人になった時、謝られた。


「いや、まぁ面食らったけど、リチャードのせいじゃない」


 ダイアナが応えるとリチャードはよかったと笑みを浮かべた。


「サプリ受け取るの、二人きりで大丈夫?」

「何を心配してるんだ?」

「いや、えっと、その……」


 リチャードはごにょごにょと言葉を濁した。

 彼が何を案じているのか、さすがにダイアナにも判る。


「オレはああいうのはタイプじゃないぞ」


 ダイアナが笑うとリチャードはぽかんと口を開けた後、大笑いした。


「そっか。余計な世話だったね。それじゃ、また」


 リチャードは機嫌よさそうに帰っていった。


 そこでどうして彼が機嫌がよくなるのかまでは、ダイアナには判らなかった。

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