20 相棒を怒らせるのは極力避けよう

 ここにやってきた時は余裕さえ見せていたジョルノの慌てっぷりにダイアナはふんと息をついて、速足で後を追った。


 走らなかったのは、その必要がないからだ。

 入口にはデイビッドと警官たちがジョルノを待ち構えている。


「ちょうどよかった。ジョルノ・アーベルさん。このクラブで行われている誘拐、監禁、強姦について詳しい話を伺いましょうか」


 ジョルノは警官達と、後ろからやってくるダイアナを交互に見比べて歯ぎしりする。


 最後のあがきとばかりにジョルノはデイビッドにつかみかかる。彼に向かっていけばチャンスがあると思ったのか。


 実際ダイアナから見ればデイビッドはひょろだ。

 だがそれは複数の男を相手取ってもものともしない中レべルの極めし者の目から見た評価だ。


 荒事に巻き込まれることも少なくない諜報部でそれなりの年数に渡り活動する諜報員は、自分の身の守り方をある程度身に着けているものだ。


 デイビッドからバチバチと電気が走る音がする。


「あ、ぐあぁ」

 ジョルノのうめき声。


 あ、こりゃスタンガンにやられたなとダイアナは状況を把握した。


 ダイアナが彼らのそばに到着した時、ジョルノは目をひん剥いてデイビッドのスーツの襟をつかんでいた。


「おや、まだ抵抗なさいますか」


 いや、それ、落ちかけてるだけだろとダイアナは思ったが口にはしない。

 悪人を助けてやる必要などないのだから。


 それはこの現場に居合わせた警官達もみな同じだったようだ。

 みながそっぽを向きつつ目だけはしっかりとデイビッド達を捕らえる中、彼はスタンガンのスイッチを再び入れた。

 電気が流れる音は、一度目よりも心持ち、長かった。




 ダイアナ達の執念の捜査によりクラブを拠点としたオルシーニファミリーの犯行が検挙された。

 ファミリーの一部とはいえかなりの打撃になるだろうと見込まれている。


 IMワークス諜報部でも捜査の全容の報告が行われた。反省会も兼ねている。


 会議室でマイケルが報告書を読み終えると、捜査に直接関わらなかった課員達から質問が飛ぶ。答えるのは主にデイビッドだ。


「結局、オルシーニにはダイアナの正体は気づかれなかったのか?」

「それは判らない。おそらく気づかれていないとは思うが」

「ダイアナは捕まったあとに戻るのを決めたのは?」

「オレだよ」


 ダイアナが即答すると室内がざわめいた。


「おまえ、そんな目にあってよく戻れたな」

「相手のしっぽの根本までもを掴んだ状態なんだぜ? すぐに戻らなくていつやるんだよ」


 きっぱりと言ってやると「すげぇ」「強いな」と感嘆の声がした。


 ダイアナの脳裏には妹の最期の姿が焼き付いているのだ。怖くないわけはない。

 捜査に関わっていることがバレていたのだ。自分が捕まればきっともっとひどい目にあっただろう。


 それを思うと身震いが走る。

 ダイアナはドロップを口に放り込んだ。


 それが余裕の態度に見えたのだろう。諜報部では後日「ダイアナは鉄の心臓」という認識が新たにされたらしい。


「オレもデイビッドに一つ聞きたいんだけど」


 ダイアナが言うとデイビッドは質問を促した。


「ジョルノが抵抗の余力を失くしていたのになんで二度目のスタンガンをぶちこんだんだ?」

「いや、抵抗しようとしていたぞ。俺のスーツを掴んで引っ張り、すごい顔で睨んできたからな」

「それはそうしないと立っていられなかったんじゃないのか」


 ダイアナの指摘にデイビッドは咳払いをして「ならば答えよう」と居住まいをただした。

 どんなすごい理由が飛び出てくるのかとダイアナだけでなく課員が――課長のジョルジュやマイケルでさえも注目する。


「ヤツら、俺の大切な捜査道具をたくさん壊したからな。代表者に罰を与えたのだ」


 当然だろうとデイビッドが断言する。


「これから機械はもっとていねいに扱おう」


 思わず漏らしたダイアナに、課員は全員、うなずいた。



(性犯罪者はもれなく地獄へ逝け 了)

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