19 超技はひとつって決めてたのに

 六人の男の手を、足をかいくぐり、ダイアナは跳ね、転がって素早く立ち上がり、回る。

 フロアに流れる音楽と、今だきらびやかな光を落とす照明の下で男達と踊っているような動きだ。


 ダイアナの体が華麗に激しく躍動するたびに男達の動きが鈍る。

 だが今までのザコならとうに倒れているであろう攻撃を浴びせてもまだ男達は戦意を喪失していない。


「さすがタフだねぇ」

 素直に称賛した。


 業を煮やした男達がナイフを出してきた。全員ではなく二人というのがなかなか絶妙だ。皆が同じ攻撃パターンにならないようにと考えてのことだろう。


 拳と蹴り、ナイフ、光の闘気、つかみかかってくる者もいる。

 どこからどの攻撃がくるのか見誤るとまずい。


 二対一の時はメインの攻撃目標を一人に定めたが今は何より手数を減らさなければならない。

 まずは素手の男三人だ。


 一人にダイアナの手首をわざと掴ませ、懐に潜り込んで肘うちを腹に見舞う。

 背中に迫るナイフを後ろ蹴りでしのいで、目の前の男の顎をアッパーですくい上げてやった。

 男は目を回して膝から崩れ落ちる。


 すかさず、先ほどナイフを振るってきた男の後ろへ「転移」し、ナイフを持つ手を後ろから掴んで自分を中心に一回転。三人男の方へ放り投げた。


 包囲陣の一部が崩れるとあとはもうダイアナの独壇場だ。

 時々飛んでくる光の闘気に気を付けつつ、一人ずつに狙いを定めて確実に打ち倒す。


 やがて増援の男達はすべて床に這いつくばった。


「やぁっとサシで戦えるなぁ」


 ダイアナは乱れてきた呼吸を整えながら「天」を睨みつける。


「こいつらに消耗したおまえ勝ち目はない」


 男はニヤニヤ笑いながら光の闘気を放ってくる。

 息つく間もなく飛んでくる攻撃をかわし、ブロックしながらダイアナは歯を食いしばる。


 闘気は無尽蔵に体から湧いてくるものではない。規則正しい呼吸法を行うことで体にめぐる「気」を闘気として活用しているのだ。

 当然、消費が多ければ内包している闘気は少なくなるし、疲れるなどして呼吸が乱れると「気」を闘気に変換できる量も減る。


 男のいうようにダイアナはこれまでの戦いで動き詰めだ。対する「天」は時々闘気をダイアナに放つだけで、増援が戦っている間は休憩していたに等しい。


 これはか。


 ダイアナは大きく呼吸し、闘気の解放を強める。

 男の光弾を滑るように避け、大きくジャンプした。男めがけて急降下する。


 「天」は勝ったとでも言わんばかりの表情で、手に光の闘気を集め出した。

 このまま男に突っ込むと、反撃をまともに食らうことになる。


 だがダイアナは余裕しゃくしゃくだ。


 男がダイアナに向けて手を振り上げる。

 まばゆい光の闘気がダイアナに直撃する、はずだった。


 その直前、ダイアナはまるで透明の板を踏んだかのように高度を上げる。

 相手の攻撃を悠々とかわした月の女神は空中で一回転して男の背後に降り立った。


 驚き振り向く男に怒涛の連続攻撃を浴びせる。

 体制も整わないままの男は突きと蹴りをまともに浴びた。


「終わりだ」


 後ろへとよろめきながら、何とか立っているだけの男に、勝利宣言と共に渾身のボディブローをたたきつけた。


 目を見開いて男はくずおれた。彼の体を守るように光っていた闘気も消え失せる。


「なかなかやるじゃねぇか。オレに超技ちょうぎを二つも使わせたんだからな」


 この戦いでは超技は「転移」のみにしようと思っていた。

 だが「天」の言うように思いのほか消耗が激しかったので戦いを長引かせれば不利になる。

 そこで、跳躍中に軌道を変えることのできる超技、「二段ジャンプ」を使ったのだ。


 超技を二つ使ったのは予定外だったが余裕で勝つことができた。

 ダイアナは唇の端を持ち上げた。

 その表情のまま、テーブル席へと目をやる。


 観戦していたオルシーニファミリーの男、ジョルノが青ざめて震えている。

 まさか一人の女に七人の男がやられるとは、といったところか。


「さぁて、次はあんたの番だな」


 ダイアナがホールからゆっくりと近づくと、ジョルノは椅子から転げ落ちるように離れて、腕を振り回しながらよたよたと入口へと向かっていった。

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