18 複数相手なら一人ずつ潰していけ

 ダイアナから見て右の若者を「天」、左の少し小柄な男を「炎」とネーミングしてダイアナは作戦を練る。


 極めし者の属性は八つある。それぞれの属性に特徴があり、戦う相手の格闘スタイルと属性の組み合わせによって多少の有利不利もある。


 男達は炎属性と天属性。


 炎は打撃による直接攻撃を得意とする者がよく会得する属性だ。八つの属性の中ではスタンダードで、攻撃力が少し高めとされている。


 天はバランスの属性と言われていて、特に秀でるものはないが弱点もない。戦う者の格闘技術と闘気の扱いのセンスが一番問われる属性とも言われている。

 炎属性を見ると相手の格闘スタイルはほぼ打撃技と予測できるのとは逆に、天属性は実際に戦ってみないと格闘スタイルや得意手は判らない。


 ダイアナは月属性。変異変則と言われているとおり、トリッキーな動きがウリだ。闘気を用いて特別な攻撃や防御、移動をする超技ちょうぎと呼ばれる技も、相手を惑わすものが得意手だ。

 初めて戦う相手には、動きを読まれにくいという点で有利だ。


 短期決戦にするには、いかに相手の数を素早く減らせるかだ。

 闘気の放出量と属性の相性を鑑みて、まずは「炎」だなとダイアナは考えた。


 ダイアナは大きく踏み込んで顎を狙う。

 大きく跳び退った相手にあわせてさらに蹴りを放つ。


 左から「天」が白熱色の闘気を撃ちだしてくる。

 顔をひょいと傾けて避け、さらに「炎」に打ち込んだ。

 怒涛のラッシュをかけると「炎」はうろたえ、後ろへと下がる。


 ダイアナの後ろから「天」が追ってきた。無視されていらだったかのような気が迫ってくる。


 ダイアナは「転移」の超技を発動し、「天」の後ろへと瞬間的に移動した。

 敵を見失った男の背中を思い切り蹴り飛ばす。


 つんのめって相棒に抱きつく形となった「天」は振り返り、悔しそうにダイアナを睨みつける。


 自分の有利を強調するように余裕めいた笑みを浮かべ、ダイアナはさらに二人に突進した。狙いは引き続き「炎」だ。


 相手もさすがマフィアのボディガードを務めるだけはある。

 すぐにダイアナの狙いを理解し、二人で挟み込むように位置取って攻撃を仕掛けてくる。


 できるだけ超技を使わずにとダイアナは二人の攻撃をかわし、受け流す。

 「天」の突きをいなしたすぐあとに「炎」の蹴りがダイアナの腹に決まる。

 ぐっと息を詰まらせたところに二人が同時に超技を放ってきた。


 白い光と赤の炎の一筋が動きの止まったダイアナに襲い来る。

 だが攻撃がダイアナを傷つけることはなかった。


 再び「転移」の超技を発動したダイアナは彼らの死角に位置どっていた。


 どこだ、と左右を見回す男達のから、自由落下に身を任せたダイアナの蹴りが「炎」の後頭部に炸裂した。

 完全に虚を突かれた男は声もなく気を失って床にたたきつけられた。


「よーし、まず一人」


 余裕のあるような顔をしながらダイアナはほっとしていた。一人一人と比べてこちらの方が闘気の放出量が勝っているとはいえ、やはり超技を極力使わずに複数を相手にするのは緊張する。ちょっとした判断ミスが致命的な隙になる。


 もちろんそれは一人が相手でも変わらないが、目の前の敵に完全に集中できるのとできないのとでは雲泥の差だ。

 これでじっくり「天」の動きを見極めて倒せれば、と思っていた。


 が。


 どかどかと床を揺らす足音が聞こえ、複数の気配がホールに入ってきた。

 一瞬、警察が到着したのかと思ったが、ダイアナにとって逆のシチュエーションだった。


 黒スーツの男達が五人、乗り込んできた。

 闘気は感じないが厄介なことだ。


「増援か」


 幸いなことに極めし者ではないし、FOを服用しているわけでもなさそうだ。

 だが六対一は面倒なことこの上ない。


 デイビッドは何をやってるんだ、と心の中で相棒に毒づきながらも、ダイアナはにやりと笑ってやる。

 ここで気力負けするわけにはいかない。


「いいねぇ。悪人は一人でも多くオレがぶっ倒してやるよ」


 今までよりさらに腰を低く落として両腕を胸の前で構え、ダイアナはあえて自分から団体のただなかに突っ込んでいった。

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