17 仮面が剥がれたな

 ホールに現れた男は四十がらみか、貫禄のありそうな男だ。左右に二人の屈強な男を従えている。


 おそらく彼がオーナーだろう。

 ジョルノ・アーベル。オルシーニファミリーの構成員の一人とされている。


 こいつ一人をつぶしたところでファミリーがつぶれるわけではない。

 だが何もしないよりは断然いい。

 今夜だけで五人、さらに、放っておけばこれからさらわれたであろう女性達を助けることができるのだ。


「あんたがここのオーナーさん?」

「はい。ジョルノ・アーベルと申します。お嬢さんは?」

「オレはジュリアだ。自己紹介より、大切な話なんだけど」


 しれっと偽名を名乗ってダイアナは本題を切り出す。


「話聞こえただろ? ここじゃ誘拐と強姦の斡旋をしてるのか?」

「とんだいいがかりですよ」

「でも現にオレは襲われた」

「それはお気の毒です。我々のクラブがそのような犯罪に利用されるなど。しかしこちらが斡旋などとんでもない話です」

「勝手に犯罪の場所に使われたってことか?」

「そうです。警察を呼んで現場検証してもらいましょう。それでご納得いただけますか?」


 よくもいけしゃあしゃあと。

 ダイアナはふんと鼻を鳴らした。


 さてそろそろデイビッドが事務所の方をどうにかしてくれているはずだが、とダイアナが考えた時。


『事務所制圧。被害者の安全を確保』


 耳につけた通信機からデイビッドの声が聞こえた。

 よし!

 ダイアナは口の端をにぃっと吊り上げた。


「そうだな。じゃあ、上の事務所も一緒に検証してもらってくれよ」

「なぜです? 犯行現場はクラブ内なのでしょう?」


 すっとぼけた顔をしたジョルノにダイアナは人差し指を突きつけた。


「あんたの事務所に捕まってた女の子達は無事に助け出したぞ。何なら、今ここで証言してもらおうか?」


 後半ははったりだ。せっかく助け出したのにわざわざここに呼ぶような真似はしない。

 だがジョルノをうろたえさせるには十分だったようだ。


「なんだと!?」

 ジョルノが怒鳴った。


「化けの皮が剥がれてきたな。あんたら、オレのいうこととあのおっさんのいうこと、どっちを信じる? どっちにしてもこのクラブで誘拐と強姦未遂が行われてたのは本当だぞ。そこはおっさんも認めたからな」


 ダイアナはステージの上で、腰に手を当て自信満々に言い放った。

 それまで二人のやり取りを聞いていた「観客」達は再びざわめく。


 一人が、出口に向かって走り出した。

 それをきっかけに、我も我もと出口に向かっていった。


「逃げるのはいいがパニックになるなよ。押し合ったりしてケガするなよ」


 ダイアナはひときわ大きな声で群衆に注意を呼び掛ける。


「貴様、何者だ」


 ジョルジュが怒り心頭の顔でダイアナを睨み上げる。


「オレは正義の極めし者さ」

「極めし者、“真の極めし者トゥルー・オーバード”か。なるほど強気なわけだ」


 ジョルジュは左右の男に目配せした。


「だがお嬢さん、あんたはちょっとやりすぎたな。慰謝料を請求するなりしておとなしくしておけばいいものを、正義感を振りかざして首を突っ込み過ぎたらどうなるか、体で知ってもらおうか」

「おぉっ、悪人らしいセリフが出てきたなっ」


 ダイアナは笑って拍手を送り、打って変わって厳しい顔でジョルノと左右の男達をねめつけた。


「だったらオレも言わせてもらうぞ。おまえらみたいな薄汚い性犯罪者はもれなく地獄へ逝け!」


 闘気を解放する。体は白に輝き、黄色から黒へと変化する闘気が立ち昇る。

 ジョルノの用心棒達も闘気を解放した。片方は白、片方は赤、それぞれの属性は天と炎だ。


 闘気の放出量はダイアナの方が多い。

 相手が力を出し惜しみしていないことを願うばかりだ。


「DJさん、逃げるまで待ってやっからよ、なんか戦いに向いた曲、流してってくれよ」


 ダイアナの隣でどうしたらいいのかとおろおろするDJに笑って言ってやる。


 男は震えながらうなずいてターンテーブルにレコードをセットして針を下ろす。

 アップテンポの曲が流れだした。ダイアナも知っている曲だ。


「おっ、いいねぇ。オレもこの曲好きだな」


 リズムにあわせてダイアナは軽くジャンプを繰り返す。


 DJの男が行ってしまうまで、ダイアナは男達を目でけん制した。


 ジョルノも後ろへと下がり、色とりどりの照明が踊るホールへとダイアナは降り立つ。


 ダイアナと男達は腰を落として睨みあい、攻撃の機会をうかがった。


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