14 近くを見ないとダメだった
ダイアナのそばにやってきた男二人はにこやかに話しかけてくる。
ランドとフレディと名乗った男達は自己紹介をした。
二人とも二十代で会社員。ダンス好きで今日はDJを目当てに来たがダイアナのダンスに惹かれた、という。
「君は? 一人? よく来るの?」
「いいえ、今日が初めてよ。本当は彼と来るはずだったの」
ダイアナはあらかじめ考えておいた「おひとり様」の理由を話した。
彼がダンス好きで一度一緒に行こうと誘われていたが、数日前に別れてしまった。
もしかして彼が来るかもしれないと思って来てみたが、今のところそれらしき人を見つけられていない。
「DJに呼ばれてステージにものぼったのに、もし来てるとしてもわたしに声をかける気はないってことよね」
ダイアナはショックを受けたように悲しそうな顔をしてみせた。
「なんだよそれ」
「もうそんなヤツ忘れちゃえよ」
二人はダイアナの嘘の失恋話を我がことのように悔しがってくれた。
芝居の上とはいえ、なんだか少し気分がいいものだ。
「そうねー、そうしようかなぁ」
「じゃあ、俺と付き合ってよ」
「あ、抜け駆けっ。僕と付き合ってよ」
二人に言い寄られた。
芝居の上とはいえ、結構気分がいいものだ。
「ふふっ、ありがとう。元気出た。でも二人同時に付き合うのは無理ね」
「じゃあせめて一緒に踊ろうか」
男二人に手を取られ、ダイアナは再びホールに向かった。
客やスタッフに変な動きがないか、目を動かしてチェックする。
先の嘘で、ダイアナが誰かを探しているそぶりをしてもこの二人は疑わないだろう。
それに、二人がうまく壁になってくれて、他の誰かに注目されることもないはずだ。
我ながらうまく行ったとダイアナはほくそ笑む。
ビートの渦に身を任せて、それでも目はフロアの隅々まで泳ぐ。
男二人が、女性をバックヤードへといざなっている。
あれは、もしかして。
『おそらくあれはそうだ』
デイビッドの声にダイアナは走り出していた。
男達を追いかけてホールを抜け、バックヤードから上へとあがる階段に向かう。
その時。
ちくりとふくらはぎに痛みが走った。
「え、針?」
ふくらはぎに小さな針が刺さっている。
抜き取って、後ろを見る。
ナンパしてきた一人が銃を構えて笑っていた。あれで針を撃ちだしたのだろう。
「――あ」
じんじんと脚がしびれ出す。
「ちょ、なに、これ」
「麻酔薬だよ。ねぇ、君、どこのスパイ?」
「何の、こと? わたし、彼を、見つけて」
言葉が詰まってきた。
ダイアナはその場に尻もちをついた。
「ただの素人がマイクやカメラなんかつけてるはずないだろ。入店の時から判ってたさ」
男はダイアナを抱え上げた。
こいつら、オルシーニの連中だったのか。
薄れゆく意識の中で、ダイアナはもっと二人にも気を配るべきだったと後悔した。
あとは、デイビッドに任せるしかないようだ。
ダイアナの意識は完全に闇に呑まれた。
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