11 探偵はまるっと信用できねぇが

 オルシーニファミリーの捜査は一件落着、と思われたそのタイミングで、デイビッドの携帯電話が着信を告げた。

 すぐに音が途絶えたということはメッセージ受信か何かかとダイアナはそちらを見る。


 デイビッドはタブレットを取り上げて操作し、短く地声を漏らした。


「なんかあったのか?」


 ダイアナが尋ねると、デイビッドは一つうなってから機械の声で答えた。


「兄貴から、いわゆるタレコミだ」


 探偵事務所に勤めているというデイビッドの兄、確か名前はカールだったか、とダイアナは思い出しながらうなずいた。


「確かな証拠や資料がないから不確実なウワサだ、という前置きありだが」


 オルシーニファミリーの構成員と思われる一人、ジョルノ・アーベルが経営するクラブで今夜、名の売れてきたDJを呼んでのダンスパーティがあるそうだが、そこでいい「商品」を仕入れようという計画があるそうだ。


「それって、女をさらう計画ってことだな」

「そうだな。クラブだと暗めだし音楽が鳴りっぱなしでホールでは会話も周りに漏れないからだましてバックヤードあたりに連れていって、って手口が使えそうだ」

「でもなんでおまえの兄貴はそんな情報を仕入れられたんだ?」

「俺がオルシーニ関連の捜査をしているって言ったから誘拐事件とからめて調べたんだと」


 なんかアヤシイとダイアナは眉根を寄せる。

 そんな情報が探偵に入るなら警察はとっくに調べはついているはずだ。


「警察には言わないが探偵の探りをそうと思わずに漏らすヤツは、一定数いるって話だからな」


 ダイアナの顔色を読んだのだろう。デイビッドが付け足した。

 実際、探偵の調査で大きなヤマが解決に動いたということもあるらしい。

 あまり大きな声ではいえないが、警察よりも、潤っている探偵事務所の方が大規模に調査ができるという場合もある。

 警察では使わないような便利グッズも使ったりするそうだ。


「個人は有償で探偵を雇うのは、警察が俺ら諜報部を頼るようなものなのかもな」


 合法な範囲での捜査ではどうしても手の届かないところに手が届く。

 それが諜報部であり探偵なのだろう。

 デイビッドは話を締めくくった。


 まだ今一つ信用しきれないが、こいつがそういうならそんなものなんだろう。とダイアナは考えることにした。


「で? どうする? この情報の扱いは」

「調べてみる価値はあるでしょう」


 いったん二人のそばを離れていたマイケルがいつの間にか戻ってきていて話に参加した。

 捜査のGOサインにダイアナは飛びついた。


「だったらオレに――」

「はい、そうおっしゃると思っていました。今回はデイビッドさんも裏方として行ってください」

「そうですね。混雑するクラブの中にダイアナ一人では心配です」


 なんだかんだ言って心配してくれるのか、とダイアナは微笑を浮かべた。こいつ、いわゆるツンデレか、と。


「誤解のないように言っておくが心配なのは大衆の中でおまえが暴れて怪我人が続出しないかというところだからな」

「んなことしねーし!」


 いつもの毒舌にダイアナは怒鳴り返した。




 今回は変装に加えて装飾品に紛れさせた様々な機械を装着することになった。


 ヘヤピースの上からカチューシャ型の骨伝導受信機、ネックレスには撮影用小型カメラ、指輪には無線マイクといった具合だ。

 さらに撮影用の小型カメラをいくつか店内に持ち込んで何か所かにセットする。


 ダイアナはクラブの利用者として中に入り、デイビッドは建物のそばで中の様子を映像といつもの捜査グッズでさぐる。


 期待されているのは熱源センサーだ。


 最悪なパターンとして、入り口でセキュリティチェックを受ける際、電子機器の反応がないかも調べられる。捜査を警戒するとともに、盗撮をして映像を売ろうという輩を排除するためだ。

 その場合はダイアナは一旦列から離れて操作器具を置いて入ることになる。


「けどおまえが異変を感じ取ってもオレに伝えられないんじゃ、どうするんだよ?」

「その場合は別動隊に踏み込んでもらう」


 違法薬物FOフェイク・オーバードの存在がある可能性を考えると、別動隊では武力的に不安だけど、とデイビッドが言う。


「荒事になったらオレがいち早く駆けつければいいってこったな」


 ダイアナはすこぶる張り切っていた。

 もしももたらされた情報が本当ならば自らの手で性犯罪者をブチのめし、マフィアファミリーに大きな打撃を与えることができるのだ。

 今奮わないでいつ奮うってんだ。

 などと考えていると。


「おまえ、今回は特に熱心だな。理由でもあるのか」


 デイビッドの機械の声が、冷たい手のようにダイアナの心臓を掴んだ。


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