08 判ってるけどイラつくんだよ

 オルシーニファミリーの活動を調べ始めて一週間が経った。

 まだこれといって有力な情報は掴んでいない。


 警察とも協力していて、女性を誘拐する地点の情報をいくつか手に入れたが、そうそう同じ場所で犯行を行うはずもなく、どれも空振りに終わっている。


 こうなってくると、先月おとり捜査をつぶしたのはマズかったなとダイアナも真剣に反省しはじめる。

 売春がらみの犯罪なんか早くぶっ潰してやりたいのにとダイアナのイライラが募る。


「そこまで神経質になるな。たった一週間で劇的に好転するような案件ではないだろう」


 デイビッドがパソコンに向けていた目をダイアナに移す。


「わーかってる。けど早く片付けたいじゃないか」


 こういった捜査に時間がかかるのは言われるまでもなく理解している。

 だがそれでもダイアナはなかなか進展しない捜査にイラついていた。


「もう一度おとり捜査を仕掛けるのはどうだ」


 なので積極的に提案してみる。


「仕掛けるにしてもポイントを絞らないとな。闇雲にやったって労力の無駄だし、おとりを仕掛けているのが相手にバレる可能性も高くなる。そうなったらまたいったん鳴りを潜めて、捜査も振り出しだ」


 デイビッドの機械の声がいつもより冷たくダイアナの耳に突き刺さった。


「そう焦るな。俺も個人的なつてを使っている。警察とかに警戒していてもそっちに引っかかってくるかもしれない」


 思いもよらないデイビッドのフォローにダイアナは目を輝かせた。


「個人的? どんな?」

「俺の兄貴が探偵事務所に勤めてるから、時間のある時に最近の誘拐事件についてなにか入ったら教えてくれと言ってある」


 身内が誘拐されたかもしれない家族がとる行動は、まず警察に通報、相談だろう。それに加えて個人的に探偵に依頼することもある。彼らも大切な人が見つけられる可能性を少しでも高めたいのだ。


 ダイアナはなるほどと相槌をうつ。


「それにしてもおまえに兄貴がいるなんて意外だ」

「そうか?」

「一人っ子だと思ってた。なんとなくだが」

「そういうおまえは?」

「妹がいた」

「それこそ意外だ。手を焼かせる末っ子だと思っていた」


 妹の存在を過去形で短く答えたがデイビッドはそれ以上つっこんで尋ねてこなかった。

 別に隠しているわけでもないので尋ねられたなら答えようとダイアナは思っていたが、尋ねられないなら自分から話すような内容でもない。


 デイビッドなりの気遣いと受け取って、その話は終了となった。




 さらに三日が経った。

 オルシーニファミリーの捜査が始まってから緊張していた諜報部の室内に、一筋の光が見えた。


 デイビッドが兄から送られてきた資料を提示した。

 探偵事務所で働くデイビッドの兄、カールからの資料によると、彼の勤める事務所に二件、行方不明の捜索の依頼が入っていた。


「いずれも十代後半の女性で、行方不明直前の行動が依頼人から提示されています」


 閉め切られた諜報部の中でデイビッドの声が響く。

 心なしか嬉しそうだとダイアナは感じた。


 機械の声だが彼の感情がそこに乗せられていることにダイアナは気づいていた。今まではひどく怒っている時ぐらいしか判らなかったが、パートナーとなってよく話すようになってから、わずかな違いを聞き取れるようになってきた。


 資料からなにか判ることがあるんだなとダイアナは机の上の紙を手に取った。


 パラパラと見比べてみる。


 会社員と大学生の行方不明者は二人とも自ら失踪する理由は思い当たらず、その日もいつも通りに生活をしていた。

 だが彼女達は帰宅しなかった。


 キーとなるのは、おそらく地下鉄か。

 ダイアナは二人の行動パターンを読みこんであたりをつけた。

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