性犯罪者はもれなく地獄へ逝け

07 潰してもダメならさらに潰す

 私設諜報組織「IMワークス」は第二次世界大戦後、ロサンゼルスで発足されてから八十年近く経ち、今や世界的規模にまでなっている。


 主要先進国の首都には支社があり、アメリカと結びつきの深い国には首都以外の都市にも支社を持っている。


 捜査の方法は発足当初から様変わりした。

 基本的に企業内の犯罪を暴く組織なので地道な内偵を必要とするのは変わらないが、ずいぶんとハイテクノロジーを駆使するようになった。


 そんな話をした後で。


「諜報部がどうやってできたか、おまえ知ってるか?」


 夕方、一仕事終えたデイビッドがシステム開発部第三課――諜報部の部屋でダイアナに問う。


「元々はフツーのコンピュータ関連の人材派遣会社だったけど仕事してるうちに派遣先の不正とかを見つける社員が出てきたとか、そんな感じじゃなかったっけ?」


 椅子の背もたれに体を預けて完全に休憩モードのダイアナがだるそうに応える。


「その証拠を警察に提示することで捜査に協力、という形が最初だったそうだ」

「そうだっけな。で? 何が言いたい?」


 ダイアナがくぃっと顔だけをデビッドに向ける。

 すこぶる不機嫌な顔がそこにあった。


「パソコンは、大事だ。いや、今やいろんな機械を使って捜査してるんだから、機械は大事だ」

「そうだな」

「なんでおまえは捜査のたびに、何かしらぶっ壊すんだ!」


 デビッドの眉間のしわが深くなる。ぐっと引き結ばれた唇がひんまがり、機械の声に怒気が混じった。


「できるだけ丁寧に扱ってるつもりだぞ。機械が壊れやす過ぎるんだ」

「機械ってのは繊細なもんだろうが」

「もうちょっと装甲厚くできねぇのか?」

「頑丈さに重点を置いたら精度が落ちたり取り扱いが不便になる」


 そんなもんなのか、とダイアナは感心顔だ。


「まぁ“クレイジー・リラ”にそんな繊細さはないか」

「おいこらちょっと待て。なんだその元のコードネームにかけらもかすってない呼称は」

「おまえは容疑者を倒して『はい、おしまい』なんだろうが、こっちは捜査のたびに機械を壊されて修理の手間がかさんでるんだ。イヤミの一言や二言ぐらい言わせろ」


 デイビッドの苦言にダイアナはあからさまに悲しそうな顔と声を作った。


「あら、ごめんなさい。以後気を付けるわ」

「うっわ、キモっ」

「てめぇケンカ売ってんな。上等だ」


 こんなやりとりも、武力解決班発足から一か月経った今や日常茶飯事だった。

 他の課員達は気にも留めずにそれぞれの仕事にいそしんでいる。


「はい、痴話げんかはそこまでです」


 諜報部課長補佐のマイケルが部屋に入ってきて、入り口の扉を閉めた。


 普段は開けっ放しの三課の部屋のドアを閉める。それは諜報部として重要案件ありの印だ。


 いつもなら「痴話げんかちげーし」と応えるダイアナ達も、今はマイケルから何を言われるのかを待った。


「最近、オルシーニの活動がまた活発化してきたみたいです」


 オルシーニとは、現在のニューヨークにはびこるマフィアのうちの一つで、主に風俗関連、もっと露骨に言えば性犯罪をメインに活動しているファミリーだ。

 主な活動は息のかかったナイトクラブやお抱えの娼婦から売り上げの一部を上納させることだ。


「大きな問題は娼婦を無理やり仕立て上げているところにあります」


 路地裏、夜の地下鉄などの交通機関といった、人ひとりが不意にいなくなっても誰も気に留めないような場所で女性を誘拐し、無理やりいうことをきかせ働かせているという手口が目立ってきたそうだ。


「ひと月前にダイアナがおとり捜査をつぶしたヤツだな」


 誰かが言うのにひそやかに笑い声があがる。

 が、からかいの声はダイアナに届いていない。彼女は真剣そのものの顔でマイケルを見つめて話を聞いている。


「そう、ダイアナさんがあからさまに『人員調達』の現場を邪魔したので連中はそれから少しの間はおとなしくしていました。ところがここ一週間で十代から二十代の女性の行方不明者が増えてきているのです。すべてがオルシーニの手のものの犯行とは言えませんが、活動を再開したのは間違いないと警察は予測しています」


 マイケルの説明にダイアナは舌打ちした。

 せっかく現場をつぶしたってのに凝りてねぇってか。

 はらわたが煮えくり返る思いだ。


「警察から捜査の協力を要請されました。つきましては――」

「オレらにやらせてくれよ」


 ダイアナはマイケルの言葉を遮って志願する。


「ら、って、そこに俺も含めるのか」


 デイビッドが口をぽかんと開けた。


「たりめーだ。オレら班だろうが。おまえが下調べしてオレが現場に乗り込む。完璧な役割分担だ」


 ふふんと胸を張る。

 デイビッドはマイケルを見た。


「いいでしょう。捜査状況次第で他の課員にも協力していただくということにしましょう」


 マイケルのゴーサインにダイアナは「よしっ」と気合の一声をあげる。


 こうして、対オルシーニファミリーの捜査が開始されることとなった。

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