顔の良い女を自分の部屋に招き、一緒にご飯を食べる女子大学生のお話。
百合です。百合以外になにもない、とまではさすがに言わないにしても、あらゆる細やかな要素すべてが、大きな百合の流れに収斂されていくような作品。もっと端的に言ってしまうのであれば、「きっとすべてが顔の良い女のために創造された世界」の物語。手ずから作ったえびフライはもちろん、遥か遠い空の色さえも。
この感覚、「顔の良い女が万物の上位に奉じられている感覚そのもの」がもう最高でした。この辺、読めば本当に肌で感じられるはず。描かれているのはごく短い、それもなんてことのない会食とその準備の風景でしかないのですけれど、そのひとつひとつを丁寧に、そして細やかに描き出してゆく、その過程そのものが既に強烈な味を持っていました。本当に「ました」と過去形で、読み進めた先でようやく気づかされる感じ。それまでは差し出されるディティールの心地よさだけで引き込まれていたのが、実は想定以上の質量を持っていたと後追いで発覚するかのような、この感じ。
単純な話、この物語が描いているのは、世界の序列そのものであるように思います。このごく短い日常の一風景には、大小問わず様々なものが登場して、そこにはそれぞれに異なった価値がある。さてその価値が一体になんのためにあるかといえば、最終的にはすべて顔の良い女(であるところのちなみさん)へと繋がっていて、つまりは彼女を頂点とするヒエラルキーの、その強固さが伝わってくる感触がもう、ただただ面白い! 作中の表現で言うなら当のちなみさんが、空の色を評して言っている部分。世界の原則から逆算で導かれる、恋の最中にある状態の皮膚感覚。
実際のところ、作中の出来事やお話の流れという意味では、ものすごく短いお話なんです。にもかかわらず、しっかりたっぷりあるドラマ性、小説としての満足感。思わぬところに食べ出のある実をつけてくる、アプローチそのものが気持ちのいい作品でした。顔の良い女の「顔の良い女感」が好きです。解像度というか、土台の厚みみたいなのがすごい。