第43話 エミリ救出作戦―⑩
<ロジクル>
陽翔との連絡を終えたロジクルは、メアを振り返った。
「話は聞こえていたね? ひとまずは地下水路に行こう。そのためにも城を出なければ」
「ええ、ロジクルさん」
メアがポーチにペンと紙をねじ込みながら頷く。そういえば、陽翔と話していた時も何か書いていた。メモでも取っていたのだろうか。
そう考えたが、これからの行動には特に関係のないことなのでわざわざ尋ねたりはしない。代わりにメアの前に立って辺りを見回した。
「まだかなり人数がいるね。強行突破も出来なくはないが……」
呟いたちょうどその時、
「はっ!」
近くにいた兵士たちが一斉にそう敬礼した。誰かが指示した様子はないが、ここまで揃っているということは魔法で何か指示されたということだろう。ロジクルはメアと壁際に身を寄せる。
兵士たちは互いに顔を見合わせると、階段の方へ走って行った。嵐のような足音が遠ざかっていく。おかげで辺りに人はほとんどいなくなったが、あまり手放しには喜べない。
「あいつら、陽翔たちのところへ行ったってことよね……」
「そうとしか考えられない。無事だといいんだが」
そう言ってしまってから、首を横に振る。
「こんな後ろ向きなことを考えてはいけないね。私たちは私たちに出来ることをするまでだ。行こう」
「うん!」
兵士の少なくなった城の中を、メアと二人で走り抜ける。出くわした兵士はメアと二人で気絶させた。順調に城の外へ出ながら、ロジクルはメアに向かって聞く。
「ところで、私の記憶だと地下水路はここから結構距離があると思うんだが……」
「そうよ。お兄がいるところもそれなりに距離がある。地下水路の中を歩いていくんだったらかなり時間がかかると思うわ」
メアはあっけらかんとした様子で答えた。そんなに時間をかけていたらいけないだろう、と抗議しようとしたとき、「あっ!」と明るい声が聞こえた。声の先には、配達用のバイクを連れた青年が立っていた。
青年はこちらを、いやメアを見るなり、大きく手を振る。
「メアちゃん、だよね? 本当に城から出てくると思ってなかったけど、会えて良かったよ。会えなかったら殺されるところだった」
「あ、あの配達員の……ヘルムさんだっけ。どうしてここに? 命を狙われてるの? 申し訳ないけどアタシ忙しいから護衛は出来ないわよ」
てっきり知り合いなのかと思ったが、知り合いは知り合いでもせいぜい顔を知っている程度の仲らしい。
不思議そうな顔をするメアに、青年は「違うよ!」と大きく頭を振る。
「配達してたら急にガラの悪い連中に捕まったんだ。多分女王反対派の奴らだと思うんだけど、このバイクをメアの姉貴にお貸ししろって言われてさ。怖かったよ……」
青年は疲れた様子でサドルを軽くたたく。それを聞いて、メアがようやく合点がいったように手を打った。
「そういうことだったのね。ちゃんと手紙は届いてたんだ」
「どういうことなんだ? 私にはさっぱり掴めないんだが」
黙って二人の話を聞いていたが、メアの姉貴の辺りからよくわからなくなった。口を挟むと、メアが得意げに答えてくれた。
「実は、地下水路に行かなきゃいけないってなった時に手紙を送っておいたのよ。距離があることはお兄の居場所からわかってたから、アタシの弟子たちに『城下町を速く移動できる方法を教えて』って。まさかヘルムさんが来るとは思ってなかったけど」
「なるほど。よくやってくれた」
「それほどでもないわ。頑張ってくれたのはアイツらだもん」
そう言いながらも、メアの横顔は嬉しそうだ。ヘルムのバイクを指さす。
「それで、そのバイクを使ってもいいの?」
「うん。こんな異常事態なんだから、ちょっとくらい仕事をサボってもバレやしないだろうし」
ヘルムは苦笑して空を仰ぐ。ちょうど「ハナビ」が空に大きな花を咲かせたところだった。花火を見たヘルムは「じゃ」と軽く手を上げると、背中を向けて歩いて行った。
メアがバイクの隣に立ち、困った様子でロジクルを見上げる。
「どうしよう。貸してもらったはいいけど、アタシどうやって乗ればいいのかわかんない」
「ふむ……」
ロジクルはバイクを軽く観察する。昔このような乗り物には何度か乗ったことがある。乗れないことはないだろう。
「私が運転しよう。メアは私の後ろに乗ってくれ。ただ、相当荒い運転にはなるだろうからそこは覚悟しておくように」
「了解! 道案内はアタシに任せて」
ロジクルがバイクに跨ると、後ろにメアも飛び乗ってきた。まあ、この子の身体能力なら振り下ろされることはないだろう。心配すべきは自分の体力だ。もう若くないのだから。
ロジクルは大きな深呼吸をすると、ハンドルを握って魔素を注ぎ込んだ。バイクは唸り声をあげて急発進する。
「すっごいスピードね! こんなに出しても大丈夫なの!?」
「大丈夫なはずはないだろうが、緊急事態だ」
そう答えながらも、さらにスピードを上げる。ハンドルを取れるギリギリのスピードで、ロジクルはメアに尋ねた。
「どっちに向かえばいい!?」
「そこの角を右に曲がって!」
車体を傾けて角を曲がる。後ろでメアの悲鳴が上がったが、どちらかというと楽しんでいる様子だ。そのまま猛スピードで城下町を駆け抜ける。頭上で花火が上がっていた。
「止まって!」とメアに言われ、ロジクルはバイクを止めた。しかし、停車した場所はただの道で、特に下に降りる場所も見当たらない。
「お兄はこの真下にいる」
メアはトントンと足で地面を踏み鳴らす。
「ここを壊して侵入した方が早いと思わない?」
「なるほど。良い考えだ」
普通の道を壊して中に入る考えはなかった。ロジクルは大きく頷くと、メアと同時に魔法を使った。ただの道が二人の魔法に耐えられるはずがなく、あっけなく崩れ落ちる。二人は空いた穴にすぐに飛び込んだ。
「な、なんだお前ら!?」
突如として現れた大胆な侵入者たちに、兵士がガタガタと椅子を鳴らして立ち上がる。しかしロジクルの目は兵士などには向いていなかった。
着地した地下の牢獄には、剣を構えた数人の兵士たち、ローブを着た研究員、そして――数年間の間離れていた、妻と息子夫婦がいた。皆まだ無事だ。その懐かしい顔を見ると、体の奥底から力が湧いてくるような気がした。
「長い間待たせてしまって、すまなかった」
ロジクルは家族たちに向かって声をかける。それから、警戒している兵士たちに向き直った。隣でメアも身構える。
「これ以上、私の家族に手出しはさせない」
ロジクルは兵士たちを睨みつけると、魔法の詠唱を始めた。
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