第25話 反女王勢力の信念
そして今、俺は反女王勢力のリーダーと睨みあっている。リーダーは俺の言葉に、「は?」と普通に驚いている様子だ。
「本気か? 正気か? 何考えてんだテメェ」
「言葉の通りです。俺たちの目的のために、あなたたちにも協力してほしいんです」
「へーえ……」
リーダーは俺とメアを見ると、顎でクイッと指した。
「ッ!」
直後、俺の真横にいた男が、腕を大きく振りかぶって殴りかかってきた。囲まれた時から身構えていたのと、動作が大きかったのもあり、しっかり躱す。
「メア!」
大丈夫か、と反対側のメアを振り返ると、ちょうどメアが回し蹴りで男を三人沈めるところだった。メアはローブを邪魔そうに払って、俺を見る。
「だいじょーぶ。アンタこそ、自分の心配したらどう?」
「え? うわっ!?」
メアの言葉にふと横を見ると、太い腕が伸びてきているところだった。俺が咄嗟に飛びのいたのと、腕が顔ギリギリのところを通過していったのはほぼ同時。危ない、少しでもずれていたら普通に殴られてた。
メアがいる背後からは、男たちの呻き声が聞こえてくる。対人でもやっぱりメアは強いらしい。俺は下手なことしない方がいいかな、と逃げに徹していたところで、メアの声が耳に飛び込んできた。
「しゃがんで!」
メアの言葉の通り、すぐにその場にしゃがみ込む。タタタッと軽快に走る足音が近づいてきて、
「背中、借りるわよっ!」
そう言うが早いか、俺の背中に思いっきり衝撃が加わった。メアが俺の背中を踏み台にしたのだろう。かがんだ体勢のまま顔だけ上げると、俺の背中を踏みつけて跳び上がったメアの姿が見えた。
「――――」
飛び上がったメアは空中で華麗に一回転し、ふわりと宙に浮かんだ。口が小さく動いているので、呪文を詠唱しているのだろう。小声で早口なのでボソボソとしか聞き取れなかったが、次の瞬間には辺りに閃光が走った。
辺りが眩むのと同時に、俺たちを囲んでいた男たちがバタバタと倒れ始める。多分、今の魔法で気絶したんだろう。俺のすぐ隣に、メアがすたんっと華麗に着地した。
唖然としていた俺は、ゆっくりと立ち上がってメアを見た。
「メア……お前、すごいんだな」
「当たり前でしょ。じゃなきゃお兄もアンタを任せたりしないんだから」
メアが腰に両手を当て、ふんと胸を張る。その背後から、メアの魔法を免れたらしい男が一人、メアに殴りかかろうとしていた。メアは背中を向けているから気づいていない。
「危ない!!」
俺は咄嗟にメアの腕を掴み、俺の後ろへ突き飛ばした。
一瞬のことだったから避ける暇もない。男の拳が、俺の頬に直撃した。
「が……っ!?」
めり込んだんじゃないかってくらいの衝撃に、俺はそのまま後ろに吹っ飛ばされる。地面に転がった時、メアに蹴りを入れられた男が倒れこむのが見えた。
男を蹴り倒したメアは、すぐに振り返って俺のところへ駆け寄ってくる。
「陽翔! 大丈夫!?」
痛みを堪えつつ体を起こした俺は、無言でサムズアップした。メアが「バカ!」と俺の傍に膝をつく。
正直めちゃくちゃ痛い。多分すげぇ腫れてる。もう既に痛くて口が動かしづらい。口の中が切れたのか口には血の味が滲んでいるけど、歯はどうにか無事らしかった。
メアが俺の頬に触ろうとした時、不意に拍手が聞こえてきた。俺とメアは揃って音のした方を見る。
そこには、ピンピンしたままのリーダーが立っていた。リーダーは笑いながら俺たちに拍手を送っている。
「面白れぇモンを見させてもらった。まさかここまでやってくれるとは思わなかったよ。遊びで来たワケじゃねぇってことはわかった。話くらい聞いてやってもいいぜ」
「あひ……ありがとうございます」
喋りづらい。俺は立ち上がると、リーダーの前に立った。
「俺には、城の中に助けたい人がいるんです。その人を助けるためには、どうにかして城の中に入らなきゃいけない。でも今の俺の仲間は三人だけで、それだけの人数で助け出せるとは思えないんです。だから、あなたたちに協力してもらえないかと思ってきました」
「ふーん。で、それを手伝ったらオレらにどんなメリットがあるんだ?」
「俺が助けたい人は、多分女王にとって奪われたくない存在のはずです。だから、もしその人を助け出したら、女王は間違いなく大打撃を受ける。あなたたちも、女王に反感を抱いているんでしょ? ここで俺たちが事件を起こせば、女王に一泡吹かせることができるんです!」
「へえ……」
リーダーが頭をぼりぼりと掻いた。その顔からはさっきの面白がるような笑みは抜け落ち、冷たい目で俺たちを見る。
「帰れ」
「……え」
「帰れっつってんだよ。自分の言いたいことばっかで、人の話は聞けねぇのか?」
予想外の返事に、俺はその場に棒立ちになる。メアが一歩踏み出し、リーダーに噛みついた。
「なんでよ! アンタたちも女王をぶっ飛ばしたいんじゃないの!?」
「あぁ、もちろんぶっ飛ばしてぇ。でも、そもそもオレらが女王サマに逆らってんのはな、生活が苦しいからなんだよ。オレら庶民は一方的に金を搾り取られて、暮らしは苦しくなってくばっかだ。そんな腐った世の中を変えたくて、オレらは反抗の機会を窺ってるんだよ。
テメェらの話は、オレらの目的をなーんもわかってねぇ。女王をぶっ飛ばしても、生活が変わらなきゃ意味がねぇんだよ。
もしその計画が成功したとして、本当にオレらの生活は楽になるのか? デカいリスクを冒す価値はあるのか? どうせオレらには魔素の呪いがかかってるんだ。捕まって、牢屋ん中で魔素で苦しんで死ぬのは御免だぜ」
男は、吐き捨てるようにそう語った。
「そっちの話には、オレらのメリットがほとんどない。ただバカでかいリスクが付きまとうだけだ。せいぜい自分らだけで頑張りな」
「じゃ、じゃあ。メリットがあれば、協力してくれるんですか」
「あるならな。あー、『女王をぶっ飛ばせる』なんて薄っぺらいガキみてぇなのは話になんねぇよ。他になんかあんのか?」
「……今は、ない」
「ハンッ。早く帰れよ。オレはこれ以上つまらん話を聞く気はねぇ。そこの女にやられた仲間をどうにかしないといけないしな」
リーダーは足元の男を軽く蹴ると、メアを見た。
「そこの馬鹿男と違って、お前は面白かったぜ。まさか、生意気なガキにここまでやられるとは思ってなかった」
「ふん。アンタはどこに逃げてたのか知らないけど、その認識改めときなさい。次そう呼んだら蹴るわよ」
「ああ、生意気なクソガキに格上げしておいてやる」
直後、リーダーの顔の真横をメアの足が通過した。リーダーは涼しい顔でメアの蹴りを避け、メアは舌打ちする。
「……アンタのお仲間は、あと五分もしたら起きると思うわよ」
「おう。じゃ、早く帰るんだな。テメェのアホ面、見てると腹立つんだ」
リーダーは俺の顔を指さした。またリーダーに噛みつこうとしたメアを手で制す。
「やめろ、メア。こいつの言う通りだ。俺は何もわかってなかった。馬鹿でアホだよ」
「う…………」
メアは釈然としない顔で、踏み出した足を元に戻す。俺は背を向けたリーダーに向かって呼びかけた。
「また来る!」
もちろん、返事は返ってこない。俺たちはローブのフードを深く被って、バリケードの向こうへと歩き出した。
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