第24話 反逆者の勧誘
俺たちの目的は、城の尖塔に囚われているエミリを助けること。そのためにはまず、城に侵入しないといけない。
「はー、アタシたちこれから女王様に逆らうのかぁ」
城を見上げ、メアが呟いた。その口調は、怖気づいているというより好戦的に感じる。相変わらずだ。
俺たちはロジクルさんと別れ、また城下町に戻ってきていた。俺も同じように城を見上げる。
「そういうことだな。怖いんだったら、エレンのところに引き返してもいいけど?」
「ばーか。そんなことするわけないでしょ。そっちこそ足手まといにならないように頑張ってよね」
「はいはい、わかってるよ」
俺が適当に流した時、ドオンと空砲の音が城下町を揺らした。俺は「お」と視線を城下町の西の方へ向けた。
「やってるな」
「やってるわね」
俺とメアは、城へ続く階段の前を横切って歩き出す。目指すは城下町の西側。空砲を鳴らしている、反女王勢力の拠点がある場所だ。
反女王勢力の拠点は、あからさまなバリケードのようなもので囲われていた。メアが「下がって」と言うので、おとなしく言うことを聞く。メアがバリケードに向かって一発蹴りを入れると、一部が呆気なく崩れ落ちた。
「ナイス」
「魔法でパワーアップしたアタシが、こんなのに手こずるわけないでしょ。さ、早く行くわよ」
メアは満足げに腰に手を当てると、すぐに歩き出した。俺も後を追ってバリケードの中に足を踏み入れる。今日は少し風が強い。もう一度フードを深く被りなおした。
バリケードの中に入ると、目的地はすぐそこだった。今も空砲を打ち鳴らしている砲台の前。そこには、ガラの悪そうな男女が十人ほど集まっていた。
彼らは俺たちの存在に気が付くと、あからさまに反発するような態度を示した。
「また来るとは、いい度胸してやがるな。今度オレらにちょっかい出しに来たらタダじゃ済まねえって言ったよなァ、研究員サマ?」
リーダー格らしき男が、俺とメアの前に進み出てくる。気づけば、俺たちは完全に包囲されていた。俺たちの羽織っている国家直属の研究員のローブが、風で揺れる。
「それとも、忘れちまったのか? ハッ、女王様お抱えの研究員のくせして、ガキみてェな……って、あ? マジでガキじゃねえか」
俺たちを覗き込んだ男が、素っ頓狂な声を上げた。俺とメアは目くばせをすると、ほぼ同時にフードを取った。
「はい。俺たちは研究員じゃありません。このローブは借り物です」
「あぁ? じゃあ何しに来たんだ。まさかオレらに説教垂れに来たんじゃないだろうな」
「いや。その逆ですよ」
俺たちを囲んでいる人たちが困惑したようなそぶりを見せる。男は腕を組んで俺たちを見下ろし、俺は目の前のリーダー格の男をまっすぐに見据えた。
「単刀直入に言います。俺たちに協力してもらえませんか」
「どんな計画になるにせよ、協力者が必要だね」
城下町への移動途中、エレンがそう言った。
「ロジクルさんに動いてもらうのは、計画の最後の最後になるだろう。だから、そこまでの段階は僕たちだけで進めなくちゃいけない。でも、出来ると思うか?」
「まあ、普通に考えて無理だよな。ネガティブ思考でも何でもなく、現実的に」
「そう。だから、まずは協力者探しから始めるべきだと思う」
そこまで話したエレンを、メアが「お兄」と呆れたような声で呼ぶ。
「よくよく考えてみてよ。アタシたち今から女王様に歯向かうのよ? そう簡単に協力者が見つかるとは思えないんだけど。アタシたちにはエミリを救うってヒーローみたいな目的があるけど、普通の人から見たらただの反逆者なんだから」
「そうなんだよな……。村の人たちは遠すぎて頼めないし、そもそも巻き込みたくない。となると、知り合いはゴンゴさんくらいしか……エレン、ゴンゴさんってどうなの?」
「うーん……」
俺が聞くと、エレンは悩まし気に唸った。それだけでもう期待できないことが丸わかりだ。
「ゴンゴさんは、当たり前だけどかなり研究所の顔色を気にしているからね。また追い出されるのは御免だって。今は家族と一緒に住むことを目標に頑張ってるし、巻き込めないかな……」
「もう陽翔のことで協力してもらってるし、これ以上のことは頼めないか。アタシも他に頼れそうな人なんて知らないわよ」
メアは伸びをすると、座席にもたれかかった。既に先行きが怪しくなっている。俺も腕を組んで考え込んだ。
「自ら進んで反逆者になってくれそうな人、人…………あ」
思い当たる存在が一つだけあった。声を上げた俺に、エレンがすぐに食いついてくる。
「誰か思いついたのか!?」
「進んで反逆者になってくれそうな人がウジャウジャしてるのも、それはそれでイヤな世の中ね」
「いや、もう反逆者に片足突っ込んでるような人たちだよ。城下町で空砲を鳴らしてる……」
「反女王勢力!?」
エレンが珍しく大声を出した。俺は苦笑いして「ダメかな」と言ってみる。
「ダメかどうかはわからないけど、相当な賭けになるような……。攻撃的な相手であることは間違いないから」
「アタシはいいと思うわよ。なかなか燃えるじゃない。いくら攻撃的な相手であろうと、アタシが全員ぶっ飛ばしてやるわ」
「攻撃的なのはどっちだよ……」
この兄妹は対照的だ、とつくづく感じる。メアは最近狩りに出かけてないから、戦い不足なんだろうか。いや戦い不足ってなんだよ。
「エレン。もしもそれを実行するとして、そいつらの拠点に入るのは簡単なのか? 何か合言葉がないと入れないとかはない? 山と言えば川、みたいな」
「知り合いの研究員も何回か注意に行ってるから、入るだけなら難しくないとは思うよ。ただ、かなりの頻度で空砲を撃ってるのもあって、城下町の西側はかなり注目されてる。僕たちは聞き込みで顔も知られているだろうし、急にそこに出入りするようになったら悪目立ちするかもしれないね」
「んー、やっぱそう簡単にはいかないか」
この状況、本当に協力してくれるかは別として、あの人たちしかいないと思ったんだけどな。
俺が大きく息を吐きだした時、エレンが「いや、待てよ」と呟いた。
「普段から出入りしている研究員なら、怪しまれずに西側に入ることが出来るかもしれない」
「…………それってつまり、俺たちが研究員のフリをすれば」
「人の目を気にせずに行けるってワケね。ふーん、いいじゃない。これで一歩前進よ」
メアが満足げに俺にぶつかってくる。パズルを解いているような感覚だ。ちょっとテンションが上がってくる。
「じゃあ、研究員のローブを借りて行くってことで。それくらいならゴンゴさんも貸してくれるはずだよな」
「あのローブって、そこまで丈長くなかったわよね。あれならそれなりに動けるはず」
「かなり乗り気だね。本気で行くつもりなのか? 勝算は?」
エレンが心配そうに聞いてくる。俺とメアは、同時に親指を立てて突き出した。
「大丈夫! 頑張るから」
「アタシも久しぶりに本気出すし、行けるでしょ」
「……じゃあ、信じるしかないか。僕が本物の研究員だと知られたら交渉が上手くいかないかもしれないから、僕は別行動するよ。多分向こうは研究員に良い印象を抱いていないだろうからね。頼んだよ」
俺たちの根拠のない自信に押されて、エレンがそう笑った。
エレンがいないのか。メアと二人だけだとなぁ……と不安に思っていると、メアがどんと胸を叩いた。
「任せて。陽翔はアタシがちゃーんと守ってあげるから」
「陽翔、メアが暴走しないように頼んだ」
「自信ないなあ……」
「ちょっと! バカ兄バカ陽翔!」
またメアがぶつかってくる。小さなスイスイ丸の中で、俺たちは密かに計画を立てていた。
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